ビートにはキックやスネアが一切ありません 808とスナップ、ハイハットだけなんです
リミックス・コンテスト題材曲であるPSYCHIC FEVER「Highlights」は、80's風のシンセに昨今話題のジャージー・クラブを取り入れた音数少なめのプロダクションとなっている。この曲を手掛けたのが、ヒップホップ・プロデューサーのJIGGだ。これまでにKOHH、ちゃんみな、JP THE WAVY、BAD HOPといった国内アーティストの楽曲を制作している。そんな彼に「Highlights」制作の裏側について話を聞いた。
上モノはレトロな質感で行きたい
——ジャージー・クラブと言えば昨年のヒット曲、リル・ウージー・ヴァート「Just Wanna Rock」が記憶に新しいですが、「Highlights」のトラックは、いつ制作されたのでしょうか?
JIGG この曲が収録されたPSYCHIC FEVERのEP『PSYCHIC FILE Ⅰ』が出たのが2023年5月なので、おそらく今年の3〜4月ですね。大体トラックを作ってその1カ月以内にレコーディングしているので。
——曲の方向性に関して、PSYCHIC FEVERからはどのような提案がありましたか?
JIGG ダンス・トラックなのはもちろん、“無機質でカッコいい感じ”というものがありました。それで、いろいろ話しているうちに“上モノはレトロな質感で行きたいね”っていう話になったんです。
——それはJIGGさんからの提案で?
JIGG そうですね。シンセウェーブっぽい80'sシンセの雰囲気。それをジャージー・クラブのビートに落とし込んだら面白いんじゃないかな?って考えました。
——サビのあとに来る間奏部分が印象的です。
JIGG “Go Go Go”って言っているところですね。あそこはもともとなかったんです。トップ・ラインができたあとに追加したんですが、やってよかったなと思います。
FL Studioには特有のサウンドがある
——楽曲クレジットにはfiction.さんがアレンジャーとして記載されていますが、JIGGさんとの役割分担はどのようになっているのですか?
JIGG fiction.は海外在住のトップ・ライナーです。今回はトップ・ラインのコンペをやって、その中でfiction.のメロディが一番ハマったんですよ。
——fiction.さんとはどのようなやり取りを?
JIGG 最初に上がってきたトップ・ラインは割とラップ寄りだったので、“もうちょっとメロディアスなアプローチにしよう”みたいなことを伝えましたね。それで何パターンかデータを送ってもらい、自分がAVID Pro Tools上で再構築していきました。このパートはAメロ、ここのパートはBメロ、という感じで。
——DAWはPro Toolsだけですか?
JIGG ヒップホップやダンス・ミュージック系のビート・メイキングをするときはIMAGE-LINE FL Studioで、ポップス系だとPRESONUS Studio Oneが多いです。Pro Toolsはミックスとレコーディングって感じですね。
——音楽ジャンルや用途で使い分けられているんですね。
JIGG もともとSTEINBERG Cubaseを使っていて、そのあとStudio Oneに乗り換えたんですよ。そしたら周りのビート・メイカーたちがこぞってFL Studioを使いだしたから自分も使ってみたっていう。特に近年、ヒップホップのビート・メイカーは、FL Studioユーザーの方が増えましたね。
——FL Studioの使い心地はいかがでしょうか。
JIGG 自分はAPPLE Mac Proで作っているんですけど、ビートは作りやすいですね、シーケンサーもあるし。あとFL Studioは、全体的に音の立ち上がりが速いように感じます。おそらくソフト内の処理が特殊なんでしょう。FL Studioには特有のサウンドがあると思います。
シンセは実機とソフトをレイヤーして質感調整
——「Highlights」のビートは非常に洗練されています。
JIGG この曲には、ドラムのキックやスネアなどが一切ないんですよ。基本的には808(ROLAND TR-808系キック・ベースの意)とスナップ、ハイハットだけなんです。
——普段、ドラムにはどのような音源を使っているのですか?
JIGG ドラムはサンプル素材が多いですね。FL StudioのChannel Samplerに入れて打ち込んでいきます。
——JIGGさんのビートからはグルーブを感じます。
JIGG 曲にも寄りますが、グリッドに合わせてMIDIノートを打ち込んだあと、若干ずらしたりとかはやりますよ。あとグリッドにピッタリ合わせて打ち込んでいても、ベロシティとかでグルーブ感は作れます。
——ベースの音源は?
JIGG 808もサンプルです。曲に合う音色のワンショット素材を見つけて、Channel Samplerで打ち込んでいます。
——「Highlights」のサビではシンセが登場しますが、これについてはいかがでしょうか。
JIGG あれは実機のMOOGシンセと、ソフト・シンセのARTURIA Analog Labを混ぜています。実機だけだともろ80'sサウンドになっちゃうんで、ソフト・シンセとレイヤーすることで質感を調整しているんです。Analog Lab Vはよく使いますね。ほかにもSPECTRASONICS OmnisphereやNATIVE INSTRUMENTS Kontaktライブラリーなどを使っています。
——JIGGさんは、ご自身でミックスもやられますよね?
JIGG はい。自分のトラックはできる限り自分でミックスします。理想の音っていうのが、ビート・メイキング時からちゃんとあるので、作りながらミックスもしていく感じです。
——ミックスで活躍している、JIGGさんのお気に入りツールを教えてください。
JIGG UNIVERSAL AUDIO Apollo 16を持っているので、UADプラグインをよく使いますね。Fairchild 670やUA 1176LN Rev E、DBX 160とか……リバーブはAMS RMX16が好きです。定番のものしか使っていないかも。WAVESのプラグインも愛用しています。808にかけるサチュレーションはPLUGIN ALLIANCE Black Box Analog Design HG-2が好きで、倍音成分のみをパラレル処理することが多いです。
——モニター・スピーカーは何を?
JIGG ミッドフィールド用にはPMC PMC6-2を置いています。低域の迫力とバズーカみたいな見た目が好きで購入しました。サブウーファーのNEUMANN KH 750 DSP D Gと組み合わせていて、キャリブレーションしたらさらに音が良くなりましたね。二アフィールド用としては、BAREFOOT SOUND MicroMain27があります。モニター・コントローラーのCRANE SONG Avocet IIで切り替えているんです。これからも、プロデュースワークをたくさんできればと思います。