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KIRINJI『Steppin’ Out』インタビュー 〜堀込高樹、エンジニア佐々木優がアルバム制作を語る

KIRINJI『Steppin’ Out』インタビュー 〜堀込高樹、エンジニア佐々木優がアルバム制作を語る

“ポップスだから”とレンジ感を絞ると古くさく聴こえる 音像については現代的な聴感を押さえたい

2021年より堀込高樹のソロ・プロジェクトとして活動中のKIRINJI。この度、前作『crepuscular』から約1年9カ月ぶりとなる16枚目のオリジナル・アルバム『Steppin’ Out』がリリースされた。曲によって楽器のプレイヤーが異なる本作は、小森雅仁氏、佐々木優氏、柏井日向氏の3名のエンジニアを迎えて制作されている。今回は堀込に加え、「nestling」「I♡歌舞伎町」「不恰好な星座」を手掛けた佐々木氏にもアルバム制作について話を聞いた。

一人きりのボーカル・ディレクション

——今作は曲自体の印象に加えて、エンジニア陣の顔ぶれもフレッシュだと感じます。

堀込 長年の信頼がある柏井君にお願いしつつ、小森君は前作での感触が良かったので今回もオファーしました。で、誰かもう1人新しい方にお願いしたいと思ったときに、佐々木君がエンジニアリングを手掛けたBREIMENのアルバム『FICTION』を聴いて、ミックスがすごく緻密だなと思い、お声がけすることにしました。3人とも根気よく作業に付き合ってくれるので、心強かったです。

——楽曲制作は、どのように進めたのでしょう?

堀込 まずは、曲の全体像が分かるようなデモを作ります。それをサポート・ミュージシャンたちに共有して、差し替えたい楽器をレコーディングします。その後、家に持ち帰ってアレンジを仕上げて、ミックスのおおまかな傾向が伝わるように音作りしてから、エンジニアの方にパラデータを渡すんです。

佐々木 そのマルチトラック・データは、DAW上に並べただけでもアレンジの意図がよく伝わってくるもので、どう詰めていけばいいのか把握しやすかったです。例えば「不恰好な星座」のボーカル・リバーブは、堀込さんが提示してくれたイメージに沿うよう、僕の方でプラグインを選びました。

SLATE DIGITAL Repeater Delay

VALHALLA DSP ValhallaPlate

FABFILTER Pro-DS

佐々木氏が『不恰好な星座』のボーカルに使用したプラグイン・エフェクトの一部。ショート・ディレイの用途で使用されたSLATE DIGITAL Repeater Delay。歯擦音にリバーブ(VALHALLA DSP ValhallaPlate)がかかりすぎないように、リバーブの前段にはディエッサーのFABFILTER Pro-DSをきつめの設定でかけているとのこと

——数量限定盤に付属するボーナスCDでは、そのデモ段階の音源を聴くこともできて興味深いです。

堀込 デモを聴いてから、完成版を聴いてみるというのもアリかもしれない(笑)。ポストプロダクションが加わることでこうなるのか!という楽しみ方ができると思います。

——堀込さんは、どのような環境で曲作りを?

堀込 DAWはAPPLE Logic Pro Xです。自宅の一室ですが防音仕様なので、歌やギター、管楽器でも単管くらいなら録れるようになっていて。マイクはNEUMANN TLM 67、コンプはUNIVERSAL AUDIO 1176AE、プリアンプはAPI 512C、EQはAPI 550Aを使っています。

——アルバムには、自宅録音の素材が多く含まれている?

堀込 歌は全部、家で録りました。

——ボーカル・ディレクションは、どなたが?

堀込 自分で自分をディレクションするんです(笑)。“歌って聴いて”を繰り返していくうちに、プランみたいなものができてくるんですよね。初めは静かに入って癖を付けずに、2コーラス目でちょっと癖を付けよう、みたいな。1日はその作業で終わり、翌日に歌入れしてコンピングはまた翌日に回したり……。なので、歌入れには時間がかかっています。

——“セルフ・ディレクション”に、こだわりがあるのですか?

堀込 歌のことが分かる人って、限られていると思うんです。それに、自分の歌の方向性が分かるのは自分だけだとも思うから、自らやるしかないかなっていう感じ。

——コード進行に“ひとひねり”あって、歌メロがより耳を引きつけるものとなっています。メロディとコード進行は、どちらを先に作るのでしょう?

堀込 鍵盤を弾きながら鼻歌を歌って、良いコード進行やメロディが出てきたらLogicに打ち込んでメモしておきます。どう進行すれば意外性があるのか、一生懸命考えながらやっているうちにジワジワとアイディアがにじみ出てくる感じですね。それだけ煮詰めて作っているので、コード進行を後から変えることはあまりないんです。

堀込の自宅作業スペース。デスクトップには『不恰好な星座』のプロジェクト・ファイルが立ち上がっている。MIDIキーボードはM-AUDIO Keystation 61 MK3、モニター・スピーカーは、MUSIKELECTRONIC GEITHAIN RL906を使用

堀込の自宅作業スペース。デスクトップには『不恰好な星座』のプロジェクト・ファイルが立ち上がっている。MIDIキーボードはM-AUDIO Keystation 61 MK3、モニター・スピーカーは、MUSIKELECTRONIC GEITHAIN RL906を使用

堀込が自宅録音の際に使用した機材。上段がオーディオI/OのRME Fireface UFX、中段左からプリアンプのAPI 512C、EQの550A、下段がコンプのUNIVERSAL AUDIO 1176AE

堀込が自宅録音の際に使用した機材。上段がオーディオI/OのRME Fireface UFX、中段左からプリアンプのAPI 512C、EQの550A、下段がコンプのUNIVERSAL AUDIO 1176AE

堀込が自宅録音の際に用いたマイク、NEUMANN TLM 67

堀込が自宅録音の際に用いたマイク、NEUMANN TLM 67

複数の音色が代わる代わる出てくるベース

——佐々木さんがエンジニアリングを担当した「nestling」「I ♡ 歌舞伎町」には、BREIMENから高木祥太(b)さん、So Kanno(ds)さんが参加しています。レコーディングでは、どのようなディレクションを行いましたか?

堀込 基本のパターンを伝えて、あとはお任せしてますね。「nestling」にはザ・ナックの「マイ・シャローナ」を模したベースのリフが出てくるんですけど、オリジナルのパターンよりも音を間引いてほしかったので、そういう部分に関しては細かく伝えています。

——「不恰好な星座」のベースも印象的です。

堀込 あれは、大半が打ち込みなんですよ。録音もしたんですけど、聴き返してみたら普通のアフロ・ファンクに聴こえたので、もう一工夫欲しいと思って詰め直しました。打ち込みのシンベとスラップ、FENDER Precision Bass系の音が代わる代わる出てくるような作りになっていて、千ヶ崎君のプレイは白玉の部分のみ使っています。

——打ち込みのベースには、何の音源を?

堀込 スラップはNATIVE INSTRUMENTS KompleteのScarbee Jay-Bassで、アフロ・ファンクのイメージを取っ払うためにパーカッシブな要素が欲しくて使用しました。Precision BassっぽいのはKompleteのScarbee Pre-Bassで、シンベはAPPLE Logic Pro X付属のES2です。

——「不恰好な星座」は、タイトかつ量感のあるドラム・サウンドも非常にインパクトがありました。どのようなマイキングで録音したのでしょう?

佐々木 マイキングは、ある程度ベーシックなセッティングを決めているんです。初めから変わったマイキングをするのではなく、ドラムだったらまずはチューニングやたたき方、部屋の響きなどに着目して立てていく。そこからどのような方向にアプローチしていくのか、奏者やアレンジャーとコミュニケーションを取りながら調整します。

——ドラムの音作りは、どのように行いましたか?

佐々木 オンマイクをメインに使いバチッとした存在感を出して、そこにルーム・マイクやオーバーヘッドでナチュラルな空気感を足しています。僕の場合、オーバーヘッドはシンバルを録るためというよりは、キット全体をバランス良く捉えるためのもので、それに合わせてマイクを選んでます。あと、スネアは楽曲の印象を大きく左右するので、特に注意して音作りしています。

——本作のドラムのサウンドには、打ち込みに近いパンチや低域の量感がありますよね。今、音楽を作る上で、そういった部分も重要だとお考えですか?

堀込 そうですね。例えばダンス・ミュージックとかヒップホップとか、周波数レンジの広い音楽が世の中にあふれているわけで。そこで“ポップスだから”とレンジ感を絞ってしまったら、途端に古くさく聴こえる気がするんです。ただでさえ自分の作る音楽って1970~80年代の音楽が下敷きになってるので、音像については現代的な聴感を押さえていきたいと思っています。

LinnDrumの音を“生ドラム”で再現

——佐々木さんが携わった3曲はどれも曲調が異なりますが、曲の持ち味がしっかりと出るような仕上がりで素晴らしかったです。例えば「nestling」はどのように音の方向性を詰めていったのでしょうか?

堀込 「nestling」に関しては、LINN LinnDrum LM-2のような1980年代っぽい音を生で録ろうよみたいな話になって。それっぽいスネアを用意して、何種類か試したんだよね。

佐々木 この曲だけスネアにゲート処理とかもしましたね。

佐々木氏が「nestling」のスネアのゲート処理に用いたプラグイン・エフェクト、FABFILTER Pro-G。スネアのトップ/ボトムのトラックに挿し、ゲートのかかり方が同じになるように、スネア・ボトムに挿さっている方のゲートはスネア・トップのドライのトラックをキー・シグナルにして作動するようになっているとのこと

佐々木氏が「nestling」のスネアのゲート処理に用いたプラグイン・エフェクト、FABFILTER Pro-G。スネアのトップ/ボトムのトラックに挿し、ゲートのかかり方が同じになるように、スネア・ボトムに挿さっている方のゲートはスネア・トップのドライのトラックをキー・シグナルにして作動するようになっているとのこと

——なぜ、あえて打ち込みを使わなかったのでしょう?

堀込 何でですかね(笑)。やっぱり、人間っぽさが欲しいというか。そもそもLinnDrumっていうのは、生ドラムをサンプリングして作られたものですよね。ということは、元になったドラムは絶対にあるわけで、“それってこういう感じだったのかな”とか思いながらやってました。あと、シンベとエレベも入念に詰めましたね。重さと軽快さのバランスを取るのがなかなか難しくて。

——重要だったのは、もしかして低音の音価でしょうか?

佐々木 そうですね。キックと干渉しているベースの録音素材を堀込さんが一つ一つ調節してくださいました。

堀込 例えば“ドッドダダドッダ”というフレーズを“ドードダダドーダ”と弾いていたら、やっぱり印象が違うので。“ドッドダダ”とするために気になる部分をカットしています。

——打ち込みを利用すればキックとベースの干渉も避けやすいように思いますが、やはり生演奏へのこだわりがある?

堀込 例えばサンプル音源のベースも、今はすごく良い音になったと思うんですが、やっぱりその人にしかないタッチというものがあるので。打ち込みを使うと思ったようにはなるけど、曲に“膨らみ”が生まれないんですよね。

——打ち込みと生演奏が見事に調和した本作がどのようにライブで表現されるのか、秋からのツアーも楽しみです。

堀込 千ヶ崎学君(b)、シンリズム君(g)、伊吹文裕君(ds)、宮川純君(k)、小田朋美さん(vo、syn)を迎えた6人編成で回ります。ライブの同期音源用に新しくAPPLE MacBook Proを購入したんですけど、やっぱり同期に頼りすぎると音源に近いものにはなるものの、ライブとしてのダイナミクスが損なわれてしまうと思うので、同期は必要最低限にしてメンバーのセンスと技量に任せたいと思っています。みんな、ツボを押さえた音色選びをしてくれるので、打ち込みじゃなくとも曲の本質は伝わるな、と。

Release

『Steppin' Out』
KIRINJI
syncokin

Musician:堀込高樹(g、vo、k、prog)、小川翔(g)、伊吹文裕(ds)、宮川純(k、syn)、高木祥太/BREIMEN(b)、So Kanno/BREIMEN(ds)、千ヶ崎学(b)、GOTO(ds)、ファン・ソユン/SE SO NEON(vo)、パク・ヒョンジン/SE SO NEON(b)、武嶋聡(t sax、a sax、fl、horn arrange)、石川広行(flugelhorn)、和田充弘(tb)、鈴木圭(t sax)、大田垣正信(tb)、sugarbeans(horn arrange)
Producer:堀込高樹
Engineer:柏井日向、佐々木優、小森雅仁、ZETTON
Studio:Bigfish Sounds、aLIVE RECORDING STUDIO、ABS RECORDING、STUDIO Dede、StudioLb12、プライベート

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