GeG(変態紳士クラブ)〜約4年ぶりのアルバム『Mellow Mellow ~GeG's Playlist vol.2~』の制作を語る

GeG(変態紳士クラブ)

これまでスタジオの機材リストなんか気にしたことがなかったんですが、最近はそれを見てスタジオを選ぶようになりました

変態紳士クラブのプロデューサーとしても活動するGeGが、約4年ぶりのアルバム『Mellow Mellow ~GeG's Playlist vol.2~』を1月3日にデジタル配信リリースした。全10曲からなる同作には、変態紳士クラブ、唾奇、にしな、Rin音、kojikoji、Hiplinといったアーティストたちが参加し、ヒップホップやシンセウェーブをJポップに昇華したサウンドを展開している。今回から、自身でマイクやマイクプリ選びをするようになったというGeGに、同作の詳しい話を聞いた。

FL Studioのタイムストレッチ機能は“神”

——今作は、2019年8月リリースの前作『Mellow Mellow ~GeG's Playlist~』から約4年ぶりの続編となりますね。

GeG はい。前作を出したあとから作りはじめていたんですが、正直、3回くらい挫折しました(笑)。

——何があったのですか?

GeG シンガーやラッパーたちにトラックを送ってたんですけど、なかなかうまくいかなかったんです。自分でもトラックの雰囲気がダサかったんじゃないかな、と思いますね。結局、歌を書くのって彼らじゃないですか。だから、コラボするには作ったトラックを彼らに認めてもらわないといけないんですよ。当たり前ですけど。

——選ばれる立場にあるがゆえの苦労ですね。

GeG そんなこともあってたくさん葛藤した末、リリース時期がどんどん伸びていったという感じですね。

——今作に参加されたアーティストを見ると、GeGさんと関係の深い方々が主に集まっていますね。

GeG 最初は“これまでにやったことないアーティストと絡んでみよう”とかよく考えていたんですけど、無理してやるのも違うなあと……。「EDEN」を作っているときに結局仲間が一番大事だと気付いたので、今作は気兼ねなくいられるメンツたちと作り上げたという感じです。普通に、自分に“ダサい”って言ってくれる大切な仲間たちです(笑)。

——その「EDEN」に関してですが、シンセウェーブ調のトラックとなっていて、これまでのGeGさんのサウンドと比べると新鮮な印象です。

GeG イントロのギターは、磯貝一樹 (Kazuki Isogai)っていうギタリストが演奏しています。もともと彼が自身のインスタグラムに、そのフレーズの演奏動画をアップしていたんです。たまたまそれを見て“めっちゃええやん”となったので、すぐに“使わせてほしい”って連絡しました。

——本人から演奏データを送ってもらったということですね。

GeG そうです。もともとは、もっと遅いテンポで演奏されていたんですが、Image-Line Software FL Studioに搭載されたタイムストレッチ機能で速めました。タイムストレッチに関して、FL Studioの機能は使いやすいので“神”だと思いますね。

——フィルターがかったシンセも印象に残りました。

GeG シンセはRoland JUNO-106だと思います。

——にしなさんの声質やメロディラインも癖になります。

GeG ボーカルのメロディは、もともと神戸のSNEEEZEっていうラッパーが書いているんですよ。最近、ピッチ補正も自分でできるようになりまして、よくcelemony Melodyneを使っています。慣れたらめっちゃ使いやすいですね。

——にしなさんのボーカルは、GeGさんのスタジオで録音されたのですか?

GeG このスタジオだったり、自分が東京まで行って録ったりしていました。にしなのボーカルは、マイクにこだわりましたね。最初はNEUMANN U 67で録っていたんですがうまくオケにハマらず、音の重心を低くしたらいいのかな?と思ったのでビンテージのNEUMANN M 49を使ったんです。そしたら思った通りでした。

——マイクからのチェインはどのように?

GeG GMLのマイクプリ、TUBE-TECHのコンプCL 1Bという流れです。機材で音のキャラクターが全然変わってきますよね。今作ではその辺のセレクトも自分が関わっていて、一つ一つの違いを学びながら制作できた気がします。

——唾奇さんのレコーディングについては?

GeG 唾奇から沖縄のスタジオで録ったボーカルデータが送られてくるので、それを使っています。SONY C-800Gで録っているらしいです。

GeGのプライベートスタジオ、GLABのメインデスク

GeGのプライベートスタジオ、GLABのメインデスク。写真左手にはmoog minimoog Model DとRoland JUPITER-80が、同右手にはRoland JUPITER-6とOberheim OB-X8がスタンバイ。モニターは、ラージにATC SCM100ASL、二アフィールドにSCM25A Pro Mk2を装備

GLABと同じ建物内にあるレコーディングスタジオ=G.B.'s Studioのコントロールルーム

GLABと同じ建物内にあるレコーディングスタジオ=G.B.'s Studioのコントロールルーム。Solid State Logic Originコンソールのほか、3ウェイ・ラージモニターのNEUMANN KH 420 GやニアフィールドモニターのFOCAL Solo6 Beなどを備えている

伊豆スタジオにある機材をふんだんに使用した

——Rin音さんとkojikojiさんが参加された「花束」では、ワウがかったシンセパッドやエレピ、ギターといった上モノがとても心地よいです。

GeG 前田和彦っていう神戸の天才キーボーディストの方がいるんですが、彼がエレピなどを弾いてくれました。シンセにはOberheim OB-X8やSEQUENTIAL PROPHET REV2などを使っています。自分がプロデュースしているG.B.’s Bandのギタリスト山岸竜之介は、彼自身でも歌ったり、曲を作ったりするんですが、この曲では彼とスタジオでワンコーラスだけ作り、そこにkojikojiを呼んで煮詰めていきました。

——kojikojiさんには、どのようなマイクを使用されましたか?

GeG C-800Gです。マイクプリはAVALON DESIGN Vt 737spで、真空管ならではの太さとマイルドさが気に入っています。往年のR&Bシンガーのようなセッティングですね。今作ではC-800GとM 49がメインでした。

——一方のRin音さんは?

GeG Rin音はいつも“自分で録りたいです”って言ってくるので、何のマイクを使ったのかは分かりません。普段から録り慣れた環境があるんでしょうね。送られてきたボーカルの質感は曲にもハマっていましたし、Rin音らしい声だったので何も問題はなかったです。

——「水仙」のオケはシンプルですが、ボーカルに施した空間系エフェクト処理のためか、スカスカな印象を受けません。

GeG この曲は、伊豆スタジオにて唾奇とにしなの3人で合宿して作ったんです。本物のエコーチェンバーがあったり、プレートリバーブのEMT 140が置いてあったりして、“こんなに音がいいんか!”って感激しました。「水仙」ではボーカルを含め、ほとんどのパートに用いています。プラグインと違って肉厚なリバーブ感が出ていますよね。あと、なんと言っても減衰音の奇麗さには感動しました。NeveのコンソールV60やTELETRONIX LA-2Aも使いまくったので、音が太くなったと思います。伊豆スタジオにあるアナログ機材をふんだんに使用したのが「水仙」なんです。

——伊豆スタジオでの合宿は何日間でしたか?

GeG 3日間です。1日目にトラックを作り、2日目にプリプロ、3日目に本録りするといったスケジュールでした。

——ドラムやベース、ギターといった楽器の録音はどうされたのですか?

GeG コードやテンポなど、曲の原型がある程度決まったら、すぐに各ミュージシャンへオーダーし、リアルタイムに音源データを送ってもらっていました。それらをAvid Pro Toolsに立ち上げてトラックを組んでいくという流れです。唾奇とにしなには、同時進行でラップやボーカルを進めてもらっていましたね。

G.B.'s Studioのボーカルブース

G.B.'s Studioのボーカルブース。『Mellow Mellow ~GeG's Playlist vol.2~』に参加したアーティストのレコーディングで活躍した

左からコンデンサーマイクのNEUMANN U 87 Ai、VOX-O-RAMA Type47、SONY C-800Gが並ぶ

左からコンデンサーマイクのNEUMANN U 87 Ai、VOX-O-RAMA Type47、SONY C-800Gが並ぶ

録るときにこだわった方がミックスが楽

——資料を見ると、「なっちゃうじゃん (AL ver)」のレコーディングエンジニア欄にニラジ・カジャンチ氏のお名前があります。

GeG その曲はストリングス以外、NK SOUND TOKYOで録りました。録り音がものすごくいいですよね。自分もオーディオインターフェースにPRISM SOUNDのDREAMシリーズを使ってみたいなと思いました。高額すぎてびっくりしましたけど(笑)。とにかくニラジさんはすごすぎる。自分のレベルが上がってから、またお仕事をしたいなと思いました。

——曲の冒頭において、ボーカルの背後で聴こえるシンセフレーズの音がキャッチーで耳を引きます。

GeG あれはOB-X8ですね。今作ではOB-X8を多用していて、OB-X/OB-SX/OB-Xa/OB-8のプリセットが全部入っているので最強なんですよ。これだけは何があっても絶対に売らないっていう自信があります。そして、Neveのプリアンプ1073OPXに通したらすごく良い音になりました。あとmoog minimoog Model Dにも通してみたんですけど、こっちは面白いくらい音が太くなりましたね。

——プリアンプって大事ですよね。

GeG これまでマイクやプリアンプを自分で選んだことがなかったし、こだわってすらなかったんですけど、今回自分でやってみたことで勉強になりました。録ったあとに“プラグイン処理で頑張ったらいいや”と思っていたんですが、その意識が変わりましたね。録るときにこだわった方が、ミックスの修正回数が減るので楽なんです。あとレコーディングスタジオを選ぶときも、昔は機材リストなんか見たことがなかったんですけど、最近はそれを見てスタジオを選ぶようになりました。“この機材とあのマイクがあるからいいね!”みたいな。

——次作もGeGさんのこだわりが発揮されそうで楽しみです。

GeG 次はアメリカで音楽を作ってみたいなって思っています。気候が違うので音の鳴りが全然違いますし、海外で通用する音楽を作るのが目標でもあるからです。

Release

『Mellow Mellow ~GeG’s Playlist vol.2~』
V.A.
(Goosebumps Music)

Musician: 変態紳士クラブ、WILYWNKA、VIGORMAN、唾奇、にしな、Rin音、MILES WORD、JAGGLA、SNEEEZE、kojikoji、Hiplin、SISUI(v)、Kazuki Isogai、山岸竜之介、Tatzma the Joyful(g)、中村エイジ、前田和彦、平畑徹也(p)、林拓也、Funky(b)、竹村仁 (ds)、knockwide、youngsavagecoco(prog)、三國茉莉、白澤美佳、MIZ(vln)、角谷奈緒子、舘泉礼一(vla)、伊藤修平(vc)
Producer: GeG、唾奇
Engineer: 渡辺紀明 、澤田悠介、ニラジ・カジャンチ、向啓介、村井勇斗、滑川高広
Studio:G.B.’s STUDIO、世田谷アールイーシースタジオ、aLIVE RECORDING STUDIO、FREEDOM STUDIO INFINITY、NK SOUND TOKYO、studioFine、伊豆スタジオ

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