小山田圭吾がコーネリアス『夢中夢 -Dream In Dream-』全曲を解説

小山田圭吾がコーネリアス『夢中夢 -Dream In Dream-』全曲を解説

ドラムはよく聴くと変わったリズム・パターンになっていて、人間がたたこうとすると実は結構大変なんじゃないかな

コーネリアスの6年ぶりとなるアルバム『夢中夢 -Dream In Dream-』の制作について、小山田圭吾にインタビュー。前編に続き後編では、小山田自身による収録曲全10曲を解説をお届けする。各曲の制作手法について詳しく伺うとともに、今後の作品制作や活動についての思いを語っていただいた。

世界観を表す「霧中夢」と「無常の世界」

——ここから各曲についても伺っていきます。

 

 ❶変わる消える 

——先にも話に出ましたが、mei eharaさんのボーカル・バージョンが先にリリースされています。

小山田 騒動の前にはできていて、後から聴くとまるでそのことを予言していたような歌詞に聴こえて。しばらくして自分でもう1回やってみたいと思って、ギターを加えたり、キーを下げてその分コードのボイシングを変えたり、アレンジを変えて自分の歌で作り直しました。

——歌詞は坂本慎太郎さんによるものです。

小山田 坂本君は日本で一番の作詞家だと思っています。ユーモアの感覚、発語したときの気持ちよさ……自作曲と人に書く曲でも全然違っていて、それがまた独特な世界を描いている。阿久悠のようなエモーショナルさもあれば、洗練された印象もある。特に日本の音楽を聴くときに、歌詞が邪魔になって聴けないことも多いけど、坂本君の場合は歌詞が曲の推進力になっていると感じるんです。坂本君の音楽ももちろん好きですけど、特に言葉は特別だと思います。

——坂本さんとはどのようにやり取りを?

小山田 割とアレンジまでフィックスして、仮のメロディを自分の声や楽器で入れたものを渡して、坂本君にイメージを膨らませてもらうという感じです。

 

 ❷ 火花 

——アルバムの中では最初に手掛けた曲というお話でした。

小山田 この曲も歌詞は騒動の前に何となくできていたけど、今聴くとそのことを歌っているようにしか聴こえなくて。コロナが始まる前くらいには作っていたんですけどね。

——疾走感のあるドラムは生演奏感が強いですが、これももちろん打ち込みですよね?

小山田 そうです。音源はBFD BFD3です。一聴してキックが1拍目と3拍目、スネアが2拍目と4拍目に入っている普通の感じですけど、ハイハットは付点にあったり突然抜けたりして、よく聴くと変わったリズム・パターンになってる。人間がたたこうとすると実は結構大変なリズムになっているんじゃないかな。

 

 ❸ TOO PURE 

——ギターがフィーチャーされたインスト曲ですね。

小山田 2019年にPARCOの館内BGMとして作った曲を、少し改造しています。“ギター・インスト”ってざっくり言うと、ベンチャーズみたいなのがぼんやり浮かぶんですけど(笑)。自分の中では高校の頃に聴いたドゥルッティ・コラムとか、最近再発されたスティーブ・ハイエットとか、ああいう雰囲気で1曲作りたいなと思って。あと、APPLE iPhoneで録音した家で飼ってるインコの声も入れています。

——それこそギターの弦をこする音が、ディレイもかかっていて鳥の鳴き声のように聴こえました。

小山田 あれはベンチャーズのノーキー・エドワーズの得意技で、指を弦でキュッと鳴らす鳥の鳴き声奏法みたいなものです。ギター・インストの伝統にものっとっています(笑)。

 

 ❹ 時間の外で 

——この曲はいつ頃できたのでしょうか?

小山田 去年の最初の方だったかな。時間についての曲なんですけど、YouTubeで量子力学などのチャンネルが好きで結構見ていて。量子の世界ではこれまでの物理法則が通用しないとか、時間は存在しないとかって発見があって、そういうイメージが全体的にあります。言葉がリレーでモザイク状に出てきて、出るタイミングも毎回ずれていて多重構造になってる。“時間軸の乱れ”を音で表現することを考えていました。

——確かにサビのボーカル・フレーズが追いかけ合うようでありながら、定位感もそれぞれです。

小山田 エレピも予測できない位置にあるので、エレピだけ聴くとランダムな音がずっと鳴っている。浮遊感とカオスが共存している音像という感じです。リズム・マシンの音色を使ってるのも、ほかとちょっと印象が違うかなと。あと去年やったD.A.N.の「No Moon」のリミックスでは、この曲のトラックからいろいろと使っていて。兄弟曲みたいに聴こえると思うんで、よかったらそっちも聴いてみてください(笑)。

 

 ❺ 環境と心理 

——METAFIVEで発表した曲のセルフ・カバーですね。音が同じところと変わっているところがあるように聴こえます。

小山田 ギター・ソロは同じですね。イントロは少し印象を変えたくて、シンセのメロディにしています。ほかにもいろいろ差し替えています。やっぱりMETAの曲なので、音をそのまま使うんじゃなくアレンジしていて、みんなのアイディアも少し残っている感じです。

 

 ❻ NIGHT HERON 

——タイトルは鳥の“ゴイサギ”の意味ですね。

小山田 夜に聞こえてくる鳴き声があって、何だろうと調べたらNIGHT HERONの声だったんです。最後の方で鳴っている“フォンフォン……”と繰り返しているのが、タイトルのイメージになっている音です。

——イントロから鳴っているベースがFMと生音の中間のような硬質なサウンドですね。

小山田 IK MULTIMEDIA Modo Bassですね。若干フュージョンっぽさもあるというか、何とも言えない不思議な曲になったと思います。

 

 ❼ 蜃気楼 

——「火花」と並ぶ疾走感のある楽曲です。

小山田 この曲はこれまでと同じ方法で、トラックから作っていきました。Aメロは1コードの、ベースが同じフレーズを繰り返すミニマルな進行なのに対して、サビのところだけ急激にコード・チェンジするのが面白いかなと。間奏はフィリップ・グラスとかのイメージで、オルガンがどんどん増えてくる。ライブで再現できたら面白いと思うけど、どうやって演奏するんだろう?って感じです。

 

 ❽ DRIFTS 

——こちらは反対にゆったりとしたスピードの楽曲で、管楽器の音色が聴こえます。

小山田 管楽器はAUDIO MODELING Swamです。フルート、ファゴットとか3管ぐらい使ったような気がします。この曲では一切演奏をしていないですね。

——2017年8月号のインタビューで、Logic Proの画面を見ながら視覚的に音が重ならないように配置していくとおっしゃっていましたが、そのような方法ですか?

小山田 基本的にはどの曲もそうです。すべてのMIDI、オーディオ・データを並べて、なるべく同時発音を避ける。同時発音する場合は帯域を離すというのを徹底しています。

——そのスタイルはいつ頃からですか?

小山田 パソコンで作るようになった『Point』の頃からですね。『Sensuous』で極限まで音数を減らして、それからそのときによって増やしたり減らしたりしています。一つ一つの音がクリアに聴こえるし、それでグルーブが生まれてくるところもあるので。

 

 ❾ 霧中夢 

——アルバム名と漢字が一文字違いですね。

小山田 シンガー・ソングライター的というのとはかなり違いますけど、アルバム全体の空気感、世界観を象徴している曲じゃないかなと。騒動からしばらく音楽を聴くことができなかったんですけど、こういうぼんやりとした音楽なら聴ける時期があって。世界的なニューエイジとかアンビエントのリバイバルみたいな流れに触発された部分も結構あります。

——途中で発振音のようなノイズも出てきます。

小山田 いわゆる環境音楽とか、癒やしみたいなものではなくて。サウンドスケープ的に、音でどんどん景色が変わっていくという世界ですね。

 

 ❿ 無常の世界 

——そして最後にまた歌ものが登場します。

小山田 この曲もアルバムの世界観を表しているように思っていて、最後に入れるとしっくりくるかなと。去年の初め、レコーディングを再開した頃に、自宅でギターを弾きながら作った曲です。

——歌詞と曲の空気がマッチしていると思います。

小山田 英語のタイトルは“All Things Must Pass”にしていて、これはジョージ・ハリスンの曲から取って、ザ・ローリング・ストーンズには「無情の世界」という曲もあって、ビートルズ&ストーンズ・オマージュみたいな感じです。『All Things Must Pass』はジョージが東洋思想の影響を受けた頃に作ったアルバムで、歌詞にした“諸行無常”を英語で表現するとこういうことになるのかなと。この曲は(高橋)幸宏さん、坂本(龍一)さんが闘病されていた頃に作ったので、2人のことを考えながら作っていました。

これからは自分の作品にフォーカスする

——今年は今お名前の挙がった高橋幸宏さん、坂本龍一さんと、小山田さんにとって近い方が相次いでお亡くなりになるという、悲しい出来事もありました。

小山田 2人のことはここ数年ずっと気になっていたし、今年はジャケットを手掛けてくれていた信藤(三雄)さんも亡くなって、鮎川(誠)さんもそうだし、海外でも僕が子供の頃から憧れていたような人が毎週のようにいなくなってる気がしていて。自分が年を取ったのもあるけど、今年はいろいろなことを考えますよね。

——だからこそ細野晴臣さんにお元気でいてほしいです。

小山田 本当ですよ。でもみんな“細野さんが最後の頼み”みたいになっちゃってて。もう自由に楽しいことだけやっていてほしいじゃないですか。元気そうだし、周りのこととかは考えないで、好きなことだけやっていてほしいですね。

——『夢中夢 -Dream In Dream-』は、細野さんの『omni Sight Seeing』のような趣も感じました。

小山田 『omni Sight Seeing』は好きですね。でもシンガー・ソングライター的という意味では、『HOSONO HOUSE』っぽさもちょっと出したかった。『omni Sight Seeing』と『HOSONO HOUSE』のミックスという感じです。

——リリースに伴いツアーも発表され、これから小山田さんの活動がたくさん見られることを期待しています。

小山田 アルバムを作ったので、基本的にはライブを中心に活動していくかなと。あとアルバムに入っていない曲もかなりあるので、それをいつかは出したいと思っていて。僕が30代の頃にスケッチ・ショウに参加して、幸宏さんが今の僕くらいの年だったんですよね。出会って約20年、ついこの間みたいな感覚だけど、もうそんなに先が長くないというのもひしひしと感じる。前みたいに11年アルバムを出さないというわけにもいかないので、もう少し自分の作品にフォーカスしながらやっていこうかなとは思っています。

 

コーネリアス


◎インタビュー前編はこちら:

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Cornelius 夢中夢 Tour 2023

  • 9/30(土)東京・LIQUIDROOM
  • 10/6(金)大阪・Zepp Namb
  • 10/7(土)福岡・Zepp Fukuoka
  • 10/13(金)神奈川・KT Zepp Yokohama
  • 10/19(木)北海道・Zepp Sapporo
  • 10/23(月)愛知・Zepp Nagoya
  • 10/31(火)東京・Zepp Haneda

※詳細はオフィシャルサイトにて

Release

『夢中夢 -Dream In Dream-』
コーネリアス
ワーナーミュージック・ジャパン

Musician:小山田圭吾(vo、g)、美島豊明(prog)
Producer:コーネリアス
Engineer:髙山徹、美島豊明
Studio:3-D、Switchback

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