7年ぶりとなる16thアルバム『メトロパルス』をリリースしたエレクトロ・ポップ・デュオ、CAPSULE。Perfumeやきゃりーぱみゅぱみゅ、最近ではAdo「新時代」など、独自の世界観を持つ楽曲でのヒットを実現させてきた中田ヤスタカと、ボーカリストのこしじまとしこによって結成された、クリエイター中田が新たな発想や挑戦を最も制約なく具現化できる“拠点”と言えるユニットだ。そんなCAPSULEだが、活動中期はフロア・フレンドリーな作風が多かったのに対し、今回のアルバムはシンセウェーブ×シティ・ポップ!? FMベースやFMエレピ、PCM系リズム・マシンの音色満載の中、憂いを帯びたボーカル・メロディとフュージョン・シンセ・ソロが絡み合う予想外の作品。しかしながら“トレンドを意識した”という安易な発想で作られたことではないのは聴けば明らかで、むしろ音楽活動への原点回帰とも言えるその取り組みは、原音の起伏を大事にした音圧と卓越した打ち込みの妙により、ジャンルを超えて上質な歌モノ・アルバムへと仕上がっている。ここでは、中田への独占インタビューをお届けしよう。
今まで流行に詳しかったことがない
ー先行シングル「ひかりのディスコ」を初めて聴かせていただいたのは2020年末のインタビュー時だったと思いますが、このときからアルバムを作ることは想定していたのでしょうか?
中田 恐らく“なるべく早い時期にはリリースしたいよね”ということは考えていたと思います。普段、僕は曲を作るときにその世界観のことまで同時に考えるので、“1曲作ったら終わり”ではなく、アルバムのことも見据えて制作しているんです。自分自身が“1曲聴いたら、次はアルバム単位で聴きたいな”と思うタイプでもあるので。僕の場合、これまでアルバム単位で聴いてきた体験が多いからでしょうかね。
ーCAPSULEとしては7年ぶりのアルバムですが、綿密にスケジュールを立ててこのタイミングにしたのですか?
中田 もっと早くに出したい気持ちはありました。そして常に頭の中にはやりたい音楽自体がたくさんあって、いろいろなプロジェクトの中でタイミングが巡ってくるものとそうではないものもあります。
ー前作の『WAVE RUNNER』と比べて、いわゆるバキバキな質感のダンス・ミュージックから一転しましたね。
中田 そうですね。さらに前々作の『CAPS LOCK』はリスニング寄りのアルバムですが、多くの人にとってのCAPSULEイメージとして、これまでは“音のかたまり”で攻めるサウンド・デザインでしたけど、今回はもっと伸びやかになっています。『メトロパルス』はリスニング的な要素が濃いアルバムになっているかと思います。
ーオフィシャルWebサイトには“シンセウェーブ×シティ・ポップなアルバム”というキャッチ・コピーがあります。
中田 近いジャンル名で説明されると伝わりやすいというのはあるかもしれないな、と。例えば何かの曲を単にヒット・ソングと言われても分かりにくいですよね。それで言うと、僕はヒットしている曲にあまり興味がないタイプかと思われますが、興味がないというよりは詳しくなれたことがないんですね。結果としてカウンター・カルチャーが好きっていうことになるんですけど。なので、“世の中のトレンドだから”というよりは、“こういう曲が好きな人をもっと増やしたいから”という理由で作ることの方が大きいですね。ちなみに『メトロパルス』に関しては“歌モノでできないような音楽もたくさん作りたい、半分以上はインストゥルメンタルでいいかも?”というくらいの気持ちで作り始めたんです。今までのCAPSULEのアルバムにはそういったものが多いですよね? で、完成してみたら、全曲ボーカル入り。両立というか、自分のスキルが地味に上がったのを感じました(笑)。
ー中田さんのレベルでも、今もなおスキル・アップを感じるところがあるんですね。
中田 それこそが新しく曲を作るモチベーションだったり、楽しみだったりします。今回は曲中におけるインストゥルメンタル部分とボーカル部分をあまり別のものとしないというか、バランス感がうまくなったかもしれません。「ひかりのディスコ」はかつてのCAPSULEを感じさせる仕掛けを入れてはいますが、現在の自分でないと作れない曲だと思っています。
ー長年音楽制作を続けている中で、まだまだ新しい発見が出てくるのは素晴らしいことですよね。
中田 できると分かっていることを新しいトライもなく作業するというのは労働感がすごいじゃないですか(笑)。同じことを繰り返すよりは、逆に多少大変でも、作り続けている中で発見があること自体が楽しみだったりもするので。そういう意味では、CAPSULEをやっているときが“発見”を一番感じるかもしれませんね。
ー新しいことはまずCAPSULEで試す、というのは以前のインタビューでも繰り返し発言されていました。
中田 CAPSULEの場合、どの曲をアルバムの収録曲として採用するのかというところまで、自分である程度決められるので。ほかのアーティストだと難しいことも多いんですけどね。というか、そもそもCAPSULEの曲としてだからリリースできるのであって、普通にコンペに出したら間違いなく選ばれない曲ばかりな気がしています(笑)。
一つの世界観でまとめたプレイリストのようなもの
ー前作と比べて、本作は良い意味で力の抜けた感じになったというか、全体的にBPMが遅くなっていますね。
中田 これまでダンス・ミュージックとしてのサウンドもたくさん作ってきましたね。初見の方々と対峙する機会の多いフェスなどで演奏する曲ということを考えたとき、機能的なテンポや構造の曲が即戦力になるという理由もありました。
ー派手な曲の方が、フロア映えはしますよね。
中田 あとダンス・ミュージックは割とスポーツに近いというか、DJ中はスポーツのインストラクターみたいな感じなので。次のセクションで曲が盛り上がるのか、下がるのかといったところをオーディエンスの方たちに音で伝えつつ、導いてあげるようなイメージです。そういう意味で言うと、2015年にリリースした『WAVE RUNNER』は最初からアウトプットする場所を想定して作っていたので、そこが『メトロパルス』との大きな違いかもしれません。
ーフロア向けの『WAVE RUNNER』ですが、当時のインタビューではEDM隆盛との差別化も話していましたね。
中田 感覚のずれがあるのは感じていました。“もうおなかいっぱいです”って思った結果にできたのが2013年にリリースしたアルバム『CAPS LOCK』辺りだったんですけど、世間ではそれ以降も規模が大きくなっていったという。今回の『メトロパルス』は特別何かあるわけでもなく、単純に作っただけなので。ただ、“こういうふうにしておくとCAPSULEっぽくなる”というのは、本作でようやく見えてきたかな?というところです。
ー先ほど、『メトロパルス』はリスニング的な要素が濃くなった気がすると言っていましたが、それはこういったことに対するカウンターなのかもしれませんね。
中田 常にいろいろな楽曲を作りたいと考えているので一概に“そうです”とは言えませんが、多少はあると思います。ちなみに僕はサブスクの音楽サービスにあるプレイリストが好きで、一つのコンセプトに基づいて楽曲を聴くのが割と嫌いじゃないんですよ。ある意味『メトロパルス』も、一つの世界観でまとめたプレイリストのようなものだと思っています
ー本作における“シティ・ポップ”的な部分については、中田さんの中で何か意識したのでしょうか?
中田 シティ・ポップは人気ですし、もっとはやらせたい人たちもいそうな気もしますが、そういうのは僕の中では大きなトピックではなくて。大事なのは、1990年代……自分が音楽制作的な観点で楽曲を聴けるようになった中学生くらいの時期に“ダサい”と思っていた音色が、本作にはたくさん入っていることなんですよ(笑)。本作で使用したシンセの音色はデジタル系のものが多いですが、当時はアナログ回帰の時代だったのでROLAND TB-303やTR-909、ほかにはWURLITZERやRHODESのエレピなどがかっこいいと思っていたんです。だけど、今あらためて当時“ダサい”と思っていた音を聴き直すと、不思議ととてもフレッシュに感じるんですよ。
ー音色は変わっていないけど、中田さんの感じ方が変わったということですか?
中田 そう。かっこいい/かっこよくないと感じるのは、そのときの時代背景や状況なんだなっていうのが面白くて。ちなみに、僕自身はそこまでレトロ・シンセサイザー・マニアじゃないですし、再現性よりは使い方が間違ってるくらいが逆にちょうどいいんじゃないかなと思っています。
ーちなみに中田さんが当時“ダサい”と思っていた音というのは、具体的にはどのようなものですか?
中田 FM音源のエレピや“半生”な感じのPCM音源のリズム・マシンです。僕が音楽制作に夢中になり始めた学生時代、意識的に使うのを避けていた音色なので(笑)。そして、逆にそれはプロになってからいつか表現したかったことの一つでもありました。それが少し分かるような楽曲も少なからずあるかもしれませんが、ここまでコンセプチュアルにまとめたのは初めてだと思います。実際10年以上前から、普段僕が会話するミュージシャンたちには“いつかこういうサウンドで”みたいな話をしていたので、“やっとタイミングが回ってきたね”って感じる方も結構いるかもしれません。
ハイハットが1音増えたときの気持ち良さ
ー「ギヴ・ミー・ア・ライド」では、Aメロが始まるまでのイントロが約1分50秒ありますね。
中田 長すぎますよね(笑)。確かにイントロの長さはポップスとしては珍しいと思いますが、それをイントロだと思って聴いていない人たちに支えられてCAPSULEは活動できています(笑)。それにポップスとしての定番の構成を気にしすぎたら何も作れないというか、後半は落ちサビを作って転調しなきゃいけなくなっちゃうじゃないですか(笑)。僕の場合、自然に作っていてこうなったので、こしじまさんの声に意識を向けたときの気持ち良さを導くのに1分50秒必要でした。
ー楽曲の構成は、“そのときどきのマーケット的なマナー”みたいなものがあったりしますよね。今はサビ始まりの曲も多くなっているような気もします。
中田 音楽って時間をかけて“ある状況”を作り、そしてまた“次の状況”を作るっていうことの繰り返しでもあるわけじゃないですか。それで曲によってはサビ始まりが効果的だったりしますし、同じ理由でイントロが長い方が良かったりもすると思います。これは曲ごとに違いますし、もちろん音楽自体の話です。マーケット的にどういう構造が良いかといった部分は分かりませんが、長いイントロはお勧めはしません(笑)。CAPSULEではあまり気にしないようにしています。そして、個人的には長い時間をかけたことからの変化による効果は好みではあります。
ーミニマル・テクノなどはそこを突き詰めた音楽ですね。
中田 そう。特に1990年代はミニマルな曲をたくさん聴いていたし、たくさん作ってもいましたし、繰り返されるループの中でハイハットが1音増えたときの気付きってとても気持ち良くって。そういった感覚は大事にしたいと思っています。
ークリエイターが“良い”と思ったものを作るのが、本来の姿だということですね。
中田 そうですね、どこに重きを置くかにもよりますけどね。例えば“カラオケで歌ってほしい”っていう人もいると思うし。クリエイターによって、成功の定義はそれぞれだということです。僕にとっての成功は、リスナーが“この曲を作っているとき、きっと楽しかっただろうな”と思ってもらえることなんです。そして“自分も音楽作ってみたい”と思ってもらえたら大成功です。もちろんたくさんの人に聴いてもらえた方が良いですが(笑)。どうやったら大勢に聴いてもらえるのかといろいろ工夫して曲作りをするのが得意な人は“頭良いな”とは思いますけど、“作ってて楽しそう”っていうのがサウンドからは直接は感じづらくなってしまうかなと。僕としては、クリエイターの個人的な嗜好(しこう)みたいなものを感じられる曲が好きですし、聴いていても楽しいですね。
ゲーム音楽もインスピレーション源
ー曲の作り方において、本作で意識したことは?
中田 原点回帰です。僕の場合、曲の作り方は大きく分けて2つあって、1つ目が五線譜に縛られた作り方。もともと僕はクラシック・ピアノをやっていたので、どうしても五線譜的な音楽を作ることから始まっていて、それがコンプレックスだった時期もあったんですけど。2つ目は感覚に基づいた作り方。音階にとらわれずサンプリングを並べたりして、楽器経験者じゃないクリエイターが感覚的に作るダンス・ミュージックから感じるかっこよさの“アレ”です。サウンドとして音を見る感じができるようになりたいと思いました。そういう意味で今回は、どちらかというと前者の作り方にコンプレックスを持たずに、一つの作り方としてまとめることができた曲が多いような気がします。
ー本作は作曲家と編曲家が別にいるような、二つの視点で作られているような印象も受けます。
中田 これまでのCAPSULEのアルバムって長くても1カ月くらいで作っていたので、そう考えると今回は結構丁寧に作っているのかもしれません。以前は時間をかければかけるほど訳が分からなくなっていたんですけど(笑)。今は“初期衝動で作った要素”の扱い方もうまくなったかなと思います。
ー収録曲のうち「ひかりのディスコ」「フューチャー・ウェイヴ」「バーチャル・フリーダム」の3曲には、“Album Mix”という記載がタイトルに入っていますね。
中田 まさにこれらの楽曲がそうで、“Album Mix”とタイトルに付いたものは、シングル・カット用の音源を作る工程で削除された“初期衝動で作った要素”が幾つか再現されているんです。
ー本作ではシンセ・リードのソロがたびたび登場します。これは、曲に合わせてリアルタイムに弾いたのですか?
中田 リードもそうですが、僕の曲のほとんどのパートはMIDIキーボードをリアルタイムに弾いて作っています。そしてステップ的に聴かせたいパートやフレーズは、後からMIDIノートの長さを整えているんです。今作では、そのままあえてクオンタイズしないケースが増えたかもしれませんね。
ー制作時は、MIDIノートとオーディオ・ファイルのどちらをよく扱いましたか?
中田 今回はめちゃくちゃミディ・ミディしてますよ(笑)。手弾きで作りつつも、打ち込んだ感じを表現することが多いので、MIDIのエディット画面を見る時間は長かったです。ちなみに近年はますますソフト音源が進化したので、普通に生演奏に聴こえる曲がたくさんありますよね。映像も一緒で、今って海外ドラマの背景をCGだと気付かずに見ている人も多いと思うんです。SFとかじゃなく普通の風景です。現代は作品から技術を感じない時代になっていると感じます。僕は以前のデジタルがデジタルだとバレる、みたいなものが逆にかっこよく感じたりもするので、今作ではシンセはシンセらしく振る舞っています。これはこれでコンピューター・ミュージックとしての“アイデンティティがある”と思うんです。
ーそれだけ今は選択肢が幅広くあるということですね。
中田 ちなみに僕の音楽的ルーツの一つに“ゲーム音楽”があって、小さい頃からゲームを通してPSG音源や、FM音源をよく聴いていました。なので、そういったサウンドも今作のインスピレーション源となっているのかもしれません。当時のゲーム音楽を書いた作曲家たちは生楽器の演奏ができる人たちばかりですし、例えばバンド・サウンドを想像して作った曲が“代わりの音”としてチップチューンになったりしていたんでしょうね。本来表現したい音ではなく。しかし、僕としてはゲームを通じたチップ・サウンドで当時のトレンドの一端を聴けていた体験に感謝しています(笑)。
CubaseのUSBキーが不要になってうれしい(笑)
ーこしじまさんの歌はどの段階で入れたのですか?
中田 ラフがある程度できた段階でこしじまさんと共有し、彼女に何パターンか歌ってもらいます。その中から僕が良いと思ったものをセレクトし、曲に採用するといった形です。ボーカルをサンプリングする感覚ですね。そこからさらにアレンジを詰めていきます。
ーこしじまさんは、最終的にどんなアレンジになるか分からない状況で歌入れをしたということですよね?
中田 はい、それはそれでいいと思っているんです。バラードのつもりで歌っていた曲が、最終的にはダンス・トラックとなって完成したりするんですが、バラードだろうと思って歌っているからトラックとの空気感が違う。そのギャップが、逆に僕は面白いと思うんですよね。
ーボーカル録音時のセッティングは?
中田 マイクは以前から使っているNEUMANN U 87 AIで、オーディオ・インターフェースのUNIVERSAL AUDIO Apollo Twin Xへダイレクトに入力しています。今回はどういうサウンドにするかを後で決めようと思っていたので、UNISON機能は使いませんでした。
ーモニター環境についてはいかがでしょう。
中田 モニター・スピーカーはGENELEC 8351Bです。最近、音場補正ソフトのGLMを使ってキャリブレーションし直して、より中域が分かりやすくなった印象です。モニター・ヘッドフォンは今回ほとんど使っていません。
ーDAWは引き続きSTEINBERG Cubaseですか?
中田 そうです。マスタリングはSTEINBERG WaveLabですね。両方ともバージョン・アップして、USBキーが不要になったのがうれしいです(笑)。僕はビット/サンプリング・レートにあまりこだわらないので、一時期は32ビットで制作していたときもありましたけど、今は24ビット/44.1kHzで作業していますね。
ー今回はどのようなシンセを使いましたか?
中田 PCM音源のシンセをモデリングしたソフト・シンセが多いです。実機を忠実に再現しているかどうかという点にはあまりこだわっていなくて、どちらかというと曲のイメージに近いサウンドかどうかを優先しました。具体的には、YAMAHA CSシリーズやDXなどをモデリングしたUVI Workstation専用ライブラリー音源UVI Vintage Legendsとか、FAIRLIGHT CMIやNEW ENGLAND DIGITAL Synclavierをモデリングしたソフト・シンセなどです。CMIやSynclavierは、今でこそソフトでこれらの音色を簡単に呼び出して曲に使うことができますけど、当時は誰でも気軽に所有できる価格ではなかったと思うので、そう考えると今はありがたいですよね。
ードラムの音源についてはいかがでしょう。
中田 Cubaseのイベント画面にサンプル素材を貼り付けてドラムを構築することが大半なので、ドラムのソフト音源はあまり使っていません。サンプル素材はリズム・マシンのLinnDrum系のものが多かったと思います。
ー「ワンダーランド」ではサックスが登場しますね。CAPSULEの作品でサックスは意外でした。
中田 これはソフト音源です。リアルと打ち込みの中間くらいの音が欲しくていろいろ探しました。曲に合うサウンドを使うことが、一番大事だと考えたからですね。
ーまた、「シーサイド・ドリームス」では、アウトロがフェード・アウトするところで波の音が入ってきますね。これも意外です。
中田 これ、もともとはちょっとお試しで歌ってもらおうかな?くらいの曲だったんですけど、レコーディングで聴かせたら、こしじまさんが爆笑して(笑)。彼女、こういう曲好きなのですごく気に入ったみたいだったのと、アルバムの流れで良いタイミングにもなりそうだったので収録しました。
マスターにはこれまでにないくらいリバーブをかけた
ーミックス面で、今回変わったことはありますか?
中田 これまではあえて逆相成分で左右の広がりを演出していましたが、今作ではかなり控えめになっています。なので、いつもよりセンターが分かりやすい音像となっています。
ー以前、自動音量調整プラグインのWAVES Vocal Riderをよく使っていたとの発言もありましたが、今回は?
中田 あれ、便利ですよね。Vocal Riderはボーカルが複数人居る場合のときによく使っていましたが、今回は一人なので使っていません。
ー本作は、全体的に音圧が小さめだと感じました。
中田 おっしゃるとおり、本作はダイナミクスに余裕を持たせたマスタリングをしています。そして、マスターにはこれまでにないくらいリバーブをかけているんです。音圧を詰め込んでいない分、できることは増えました。リバーブ成分ですき間を埋めているようなイメージもありますね。あと、音楽ストリーミング・サービスは自動で音圧をノーマライズするじゃないですか。僕は逆にそれが良いと思っていて。こちら側で頑張って音圧を入れなくてよくなるので、そういった意味でもできることがだいぶ増えました。音圧を大きくする前提で作ると、それに沿った音作りになるので。逆に言うと、それがエレクトロの味でもあった時期は確かにあるんですけどね。
ーマスターには、どのようなプラグインを挿していますか
中田 気分でいろいろ変わるんですが、EQプラグインを4種類くらいインサートしています。空間系エフェクト・プラグインも2種類くらい使っていますね。
ーあらためて『メトロパルス』のアーティスト写真やMVを見て思うのは、CAPSULEの二人がCGになっている点です。
中田 これもある意味原点回帰で。もともと、2001年にリリースした最初のアルバム『ハイカラ ガール』のジャケット写真はCAPSULEのマネキンだったんですけどね(笑)。最近はアーティスト写真がイラストだったり、バーチャルだったりもしますが。今回、CAPSULEは結成した当時を感じさせるポリゴンにしてみました。
ー本作では、CAPSULEのまた新しい一面を発見できたように感じます。手応えのほどはいかがですか?
中田 7年間も空くと、もうデビュー作みたいなものですよね。メトロパルスを発表したことで気分的にも「まだ始まったばかり」のような気もしていますし、例えるなら『FRUITS CLiPPER』のときの感覚に近い感じ。まだ『MORE! MORE! MORE!』までいってないです(笑)。今回はアマチュア時代の初期衝動のような、わくわくした気持ちで制作に取り組めたアルバムになったと思いますね。
Release
「メトロパルス」
CAPSULE
(ワーナーミュージック・ジャパン)
初回限定盤:WPCL-13320(2CD) 通常版:WPCL-13322(1CD)
※初回限定盤のみ、先行配信シングルのオリジナル音源など全7曲を収録するDISC2が付属
Musician:こしじまとしこ(vo)、中田ヤスタカ(prog)
Producer / Engineer:中田ヤスタカ
Studio:プライベート