“こうするべき”よりも“これがしたい”という情熱を優先する
世界各地で活躍するビート・メイカーのスタジオを訪れ、音楽制作にまつわる話を聞く本コーナー。今回紹介するのは、ベルリンを拠点に活動するイギリス人プロデューサー、ローリー・オズボーンとアダム・ウィンチェスターによる新ユニット、レックド・ライトシップ。それぞれアップルブリム、ウェッジなどの名義で活動してきた古い友人同士が、パンデミック中にスタジオ・セッションをきっかけに結成。3作目となるアルバム『Antiposition』を2月に発表した。
キャリアのスタート
アダム 高校のころ、ギターに熱中していた僕は、父の勧めで音楽専門学校に入りました。打ち込みの技術や電子音楽については、そこで学びましたね。また当時、ブリストルのクラブでドラムンベースの洗礼を受けました。その後、進学した大学の音楽制作コースでローリーと出会います。2人でロンドンのFWDやDMZ(ダブステップ黎明期の最重要イベント)に通って、DJもしていましたね。
ローリー ダブステップという名が付く前から夢中でレコードを買いまくって、dubplate.netというフォーラムで情報交換して、自分たちもそういう曲を作っていました。大学卒業後は、2人ともブリストルに引っ越して、音楽プロデューサーたちと共同生活を始めます。そのころ僕は、シャックルトンとレーベルSkull Discoを立ち上げて作品を出すようになりました。そんなわけで、僕らは非常に古い友人なのですが、一緒に作りはじめたのは2020年のロックダウン期でした。
愛用の制作機材
アダム モジュラー・シンセやペダルなどのハードウェアを使用する比重が高いです。シンセだとVERMONA Mono Lancet ‘15、ミキサーはSOUNDCRAFT EPM8などをよく使いますね。アナログ独特の有機的な味わいがあるんです。
ローリー Skull Disco初期はIMAGE-LINE Fruity Loopsしか使っていませんでした。レックド・ライトシップでは、そのころに学んだことや、ベース・ミュージックからの影響、20年間音楽を作って培った、さまざまな知識や技術がすべて生かされているように思います。現在はABLETON Liveを使用していて、ユニットの際は録音とエディットに用いています。
ビート・メイクのこだわり
ローリー アダムがハードウェアでジャムっている音を、僕がペダルやミキサーのEQ/エフェクトを使ってダブ・ミックスし、それをLiveに録音して、さらにリアルタイムでエディットなどを施します。僕は、学校で音楽制作を教えたりもしているんですが、学生にいつも言うことは“最初から全部録音しろ”ということです。準備が整ったらではなく、準備段階から録る。そのほうが面白いものが残せます。
アダム 時には何時間にも及ぶジャムの録音から、良い部分を切り取って、それをLiveのセッションビューでループしてレイヤーしたものを基盤として、構成を作っていきます。古い付き合いなので、お互いに信頼関係があり、失敗を恐れずリラックスしてやれるからこその作り方かもしれません。
ミックス/マスタリングについて
ローリー 曲作りとは頭を切り替えて、音のバランスに集中する仕上げのプロセスだと捉えています。ですので、曲に足りない何かをミックスで解決しようとはしないです。
アダム 電子音楽のプロデューサーはミックスしながら作る人も多いですが、ミックスの段階で細かい調整をしていると際限がなくなりますし、結局改良できていない場合が多い。なのでミックスは、最後に音をより良く引き立てるだけのプロセスとして取り組んでいます。
読者へのアドバイス
アダム あなたの面白さは、自然とあなた自身から出てくるものです。周りと比較せず、“変”であることを恐れないで!
ローリー “こうするべき”よりも“これがしたい”という情熱を優先してやり続けていれば、道が開けてくると思います。
SELECTED WORK
『Antiposition』
レックド・ライトシップ
(Peak Oil)
「ベース・ミュージックのシーンで活動してきた2人の共作は、肩の力が抜けた、サイケデリックな宇宙旅行のような作風」