SP-404はさまざまな実験ができて可能性が広がる点が好き
世界の各都市で活躍するビートメイカーのスタジオを訪れ、音楽制作にまつわる話を聞く本コーナー。今回紹介するのは、Low End Theory勢らとも交流のあるLAのビートメイカー、リナフォルニア。2016年にカリフォルニアのDome Of Doomから1stアルバム『YUNG』をリリース。ビートメイカーのシーンで根強い人気を誇るこの作品は、Low End Theoryを主宰するダディ・ケヴのリマスタリングを施し、2018年にアナログ化された。
ビートメイキングを始めたきっかけ
高校時代はMFドゥームやマッドリブにハマって、学校で自作のミックステープを売っていましたね。卒業後、フライング・ロータスなどのLAを拠点に活動するビートメイカーにのめり込んで、Low End Theoryなどのイベントに通うようになりました。最初はファンだったのですが、徐々に自分も参加したくなってビートメイキングを始めました。子供の頃から独学でピアノを弾いたり、合唱団やミュージカルに参加したりしていたので、ずっと音楽は大好きでした。
制作機材の変遷
Image-Line FL Studioでビートメイキングを始めて、現在はAbleton Liveを使用しています。2012年からはRoland SP-404中心でビートを作っていて、さまざまな実験ができて可能性が広がる点が好きです。特に気に入っているのは、DJっぽい感覚でプレイできるところ。ライブをやるときは、曲から曲へシームレスにつなげられるようにセッティングしていて、必ずSP-555とSP-404を組み合わせて使っています。SP-555にはテルミンのような機能が入っていて、実際にライブや曲作りで使うこともあります。
1stアルバム『YUNG』について
制作に取りかかる前、大きな交通事故に巻き込まれて、車椅子生活を送りながら、また歩くことを覚えるという日々でした。療養中、SNSでほかのプロデューサーの活躍を見ていて、あることに気が付きました。ビートメイカーのイベントで女性の出演者を見ることはなく、かつ私が見た限りSP-404を使う女性がいないという点です。それがきっかけで、療養しながらも自分の技術を磨き続けて、いつかイベントに出たいと思いました。ビートメイカーのカルチャーをリスペクトしているので、自分もそこで認められたいと思ったんです。車椅子生活をしながら作りはじめて、また歩けるようになって2年くらいかけて『YUNG』は完成しました。この作品が世界中で評価されるとは、当時は想像もしていなかったですね。
ビートメイカーとしてのポリシー
サウンドがかっこよければ、何でも取り入れていいと思うんです。フィールドレコーディング、レコード、YouTubeなど、私はあらゆる音源をネタとして使っています。例えば、友人のジャムセッションに遊びに行って、それを録音して持ち帰ったものを、曲作りに使ったりもします。
ミックスの手法
多くの人は、ミックスを複雑に捉え過ぎていると思います。私の場合、自分の耳にとって心地良いサウンドになるまで、各トラックの音量をまず調整。その後は、Live内蔵のEQやコンプレッサーのプリセットを立ち上げて、好きな音になるまで整える。自分の感覚を信じてミックスしています。
影響されたプロデューサー
制作面ではマッドリブ。パフォーマンスについてはラス・ジー。全体的には、ジョージア・アン・マルドロウからも多大な影響を受けています。彼女はプロデューサーだけでなく、コンポーザー、シンガーでもあって、多くの楽器を演奏できるので、サンプリングを用いません。黒人女性として活躍しているミュージシャンという意味でも憧れの存在です。
読者へのアドバイス
自信が持てるまで作品は公開せずに、自分の技術を磨き続けることが大事だと思います。
SELECTED WORK
『YUNG』
リナフォルニア
(Dome of Doom)
「交通事故に遭って、車椅子生活をしながら作りはじめた作品。愛するビートメイキングカルチャーに認められたいという思いが込められています」