正しい方法より自分にとって意味のあるサウンドを追求するべき
世界の各都市で活躍するビートメイカーのスタジオを訪れ、音楽制作にまつわる話を聞く本コーナー。今回紹介するのは、プロデューサー/マルチインストゥルメンタリスト/作曲家など八面六臂(ろっぴ)の活躍を見せるLAのアーティスト、ジェシー・ピーターソン。カルロス・ニーニョらとのユニット、ターン・オン・ザ・サンライトの活動でも知られ、昨年アウトキャストのアンドレ3000のソロ初アルバムに参加したことでも話題を呼んでいる。
音楽制作を始めたきっかけ
バイオリンやギターは子供のころから習っていて、考古学者の父が持ち帰ってくる世界中の楽器にも触れていたんだ。父のサポートで、自然の中で調査をしているときに曲のアイディアを思いつくことがあり、それをもとに高校のころになると宅録で曲を作るようになった。大学では最初考古学を勉強していたけど、途中からシカゴの美術大学に移って、そこでレコーディング技術や映像制作などを勉強したよ。
所有するシンセ/鍵盤類について
シンセに関しては、CASIOのCZシリーズを幾つか持っていて、パッチライブラリーのlewismidi CZ/PL 88 miniと組み合わせて使っている。ほかにも、妻のミア・ドイ・トッドが昔から持っているRoland XP-30や、moog MATRIARCH、ROGUE、nord nord electro 3などがある。KORG SV-2はエレピのサウンドが入っていて、ピアノっぽいタッチで、妻がよく演奏している。ミアの母から譲り受けたSTEINWAY & SONSのピアノもある。
ミックスの際のポイント
キーボーディストのマニー・マークから学んだ“ミックスする際は一番目立たせたい音を頂上にピラミッドのようなイメージを意識して、頂上に近づくほどリバーブをあまりかけないようにする”というポイントを大事にしている。また、EQ/パン/ボリュームのコントロールで、何を前面に置いて、何を背景に置くかを意識している。背景で鳴っているようにしたいときは、VALHALLAのプラグインを使うことが多い。
アンドレ3000の新作への参加について
カルロス・ニーニョの自宅で、カルロスとデクスター・ストーリーとアンドレ3000のセッションをレコーディングする機会があって、それが最初のきっかけだ。その音源をアンドレが気に入って、1年後に再度レコーディングすることになったんだ。僕はギンブリ、ウクレレベース、バイオリンなどを演奏した。6曲目に僕と妻のミアが参加しているんだけど、リック・ルービンが所有しているShangri-Laというスタジオでレコーディングした。とても有名なスタジオで、ザ・バンド、ボブ・ディラン、ジルベルト・ジルなどがレコーディングしたことで知られている。一軒家をスタジオに改造してあるんだ。完全な即興で作られた作品だったから、とても楽しかった。
最新作について
最新作『Ocean Garden』は、マウイ島で素材の大半を録音した。スムージーと手作りの打楽器を売っているお店があって、そこでいろいろな打楽器を買ったんだ。マウイで制作すると、環境音が入ったり、ハワイの伝統音楽に影響されるから面白い。湿気や環境の影響からか、録り音が独特な仕上がりになるのも好きだ。1曲目で金延幸子がスポークンワードを披露しているんだけど、彼女がレコーディングして送ってくれた声の素材を使っている。
読者へのアドバイス
正しい方法を考えるよりも、自分にとって意味のあるサウンドを追求するべきだと思う。ジョナサン・ゴールドマンというサウンドヒーリングのアーティストは、“人によってどの音がヒーリングになるかは違う”ということを本に書いていた。レコーディングも同じで、人によって何が適しているかが違うんだ。まずは自分にとってどの音が気持ち良いかを把握して、それを形にするための技術を習得すればいいと思う。
SELECTED WORK
『You Belong』
ターン・オン・ザ・サンライト
(Moon Glyph)
パンデミック中にレコーディングした作品だったから、人々のコネクション、コミュニケーション、思いやりを意識した作品を作りたかった。