Vol.2「RIDE ON TIME」〜循環コードとの上手な付き合い方と離れ方|魔法きらめくヤマタツ進行

Vol.2「RIDE ON TIME」〜循環コードとの上手な付き合い方と離れ方|魔法きらめくヤマタツ進行

山下達郎が1976~82年に在籍していたレーベル=RCA/AIR。当時のアルバム8枚が、今年5月から毎月、アナログ盤/カセットでリイシューされています。その中から1曲を選び、印象的なコード進行を解説するのが本連載。講師は、山下達郎に多大な影響を受けたというKASHIFです。“達郎節”とも言える、あの独特の響きの仕組みとは? 今回は6月7日に再発された『RIDE ON TIME』からタイトル曲「RIDE ON TIME」を取り上げます。

今月の1曲:「RIDE ON TIME」

『RIDE ON TIME』(「RIDE ON TIME」収録)
山下達郎
ソニー アナログ盤:BVJL-91|カセット:BVTL-3

循環コードとの上手な付き合い方と離れ方

山下達郎「RIDE ON TIME」のBメロからサビへの流れ

 今回は山下達郎さんの代表曲、ヒット曲として長年にわたり確固たる存在感を放ち続ける名曲「RIDE ON TIME」の、Bメロからサビへの流れを取り上げます。なお、この曲はアルバム・バージョン、シングル・バージョンのみならず、アカペラやカラオケ、さらには歌詞、曲が異なるバージョンまで、さまざまな形態が存在しており、掘り進めるといっそう奥行きのある楽しみ方ができることも特筆すべき点かと思います。

 さて、一般的にコード進行の話題に触れる際、避けては通れない最大のトピックとも言えるのが、いわゆる“循環コード”。その名の通り、一定のパターンを繰り返し続けても違和感のない、定番とも言えるコード進行です。達郎さんの楽曲にも、少なからずその要素が含まれています。「RIDE ON TIME」をその視点で見ると、まず曲を大きく支配しているのはDを“Ⅰ”とするダイアトニック構造です。BメロがまさにそのDから始まる、D→Bm→Em→A7(Ⅰ→Ⅵm→Ⅱm→Ⅴ7)というストレートな循環進行をたどっています。

 ここからサビへ移行した際に、同じ進行方向の循環ではありながら、その起点をⅡm(Em add9)に変更した進行が始まります。同じ循環を使って一貫した世界観を継続しつつ、Ⅰを起点とするBメロは安定感、安堵(あんど)感を、Ⅱmを起点とするサビは切なさや緊張感のある美しさを、それぞれ効果的に表現し分けています

 このようにクールさも内包したサビの盛り上がりを経て、循環の脱出口となるG△7とDadd9/F♯の後に登場するのがG♯m7。Ⅳ♯m7であるこのコードこそ、ここまで続いたスムーズなダイアトニック調性で展開されたストーリーテリングを打破しつつ、美しい違和感と緊張感を作り出しています。「RIDE ON TIME」の中でも最大のキャラクタリスティックなコードと言えますね。そして、アレンジ上のテンションのピークとなるキメへと向かう、最高の流れを作り出しています。

 達郎さんの多くの名曲の中には、近い進行構造を持っている曲(同アルバム内では「Daydream」)も幾つかあります。その中でも特に「RIDE ON TIME」は、突如登場する調性外のコードから、印象深いキメへ向かう美しい流れがカタルシスとなっている。これこそ他曲にない大きな特徴であり、ヒットに大きく寄与した一因とも言えるのではないでしょうか。 

 

KASHIF
【Profile】横浜PanPacificPlaya所属。ゼロ年代以降インディーズにおける重要アーティストを中心にギタリストとして好サポートしつつ、サウンド・プロデュースなども行う。2017年にソロ・アルバム『BlueSongs』発売。7/26リリースのTOWA TEI『Ear Candy』ヘギターで参加。

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