『SUMMER SONIC』出演が成功に終わり、オリジナル・アルバム『Neo Standard』の発売を控えるNight Tempoさん。日本の80'sポップスや歌謡曲をリエディットする『Night Tempo presentsザ・昭和グルーヴ』やレトロ・ポップ・ユニットFANCYLABOも絶好調です。今回は、リスペクトする中山美穂さんについて。独特すぎる視点で1988年の作品群を語ります。こんな論評、今までなかったかも……。
文字の配置や“空き”の作り方が絶妙
前回、カセットでリリースされていた作品のジャケット・デザインに触れました。必要なエッセンスが小さなスペースに集約されていて、なおかつデザインとしての完成度が高い。そこが魅力です。今回は中山美穂さんのアルバム『CATCH THE NITE』(1988年)のカセット・ジャケを同作のレコード版ジャケと比較しながら詳しく見ていきます。
『CATCH THE NITE』は、中山さんのカセットの中でジャケットに最もインパクトがあると感じる作品です。写真を見てみると、背景、帽子、手に持った花の色が赤。上着は青で、髪は黒。この配色に合わせて、文字の色が設定されています。例えば“NAKAYAMA”の文字は、背景や花に合わせて赤、作品タイトルは上着に合わせて青。フォントの異なる文字が混在していますが、まとまりがあります。そして右下の“DOLBY SYSTEM”のロゴがアクセントになっている。
こうした文字要素をレコード・ジャケと比べてみましょう。個人的には、カセットの方が“MIHO”の文字がすぐ目に飛び込んできて、中山美穂さんの作品であることが瞬時に分かります。一方、レコードは“MIHO”と“NITE”が縦一列に並んでいるからか、双方が同時に主張してくるぶん“MIHO”への注目度が分散する印象。また、文字の下の空白部が上下の約半分もあって広すぎるように見え、その“空き”のバランスの取り方もカセットの方が巧みだと考えられます。
写真に関しては、カセットの方がスクエアな形状。レコードは左右がカットされて狭い印象なので、被写体を分かりやすく見せているのはカセットの方ではないかと感じます。これらを勘案すると、カセット・ジャケの方が大きなインパクトを持つと思うんです。
中山さんのカセットでは、シングルの『人魚姫 mermaid』(1988年)のジャケットも良い。人物のイラストが載っているのですが、レコード版のジャケットに比べて広い範囲が見えます。表現できるスペースはカセットの方が狭いのに、見える範囲は広いというのが興味深いですね。だから僕は、カセット・ジャケのデザインの方が、より高度な設計のスキルを求められると思うんです。
ちなみに、カセットとは関係ありませんが、中山美穂さんの1980年代の作品と言えばダンス・リミックス・アルバム『Makin' Dancin'』(1988年)も出色。「人魚姫」「Catch Me」「C」の3曲を軸とし、それぞれに「50/50」や「クローズ・アップ」など、ほかの曲のフレーズをサンプリングして加えた“メガミックス”で、曲名は「人魚姫」が「Funky Mermaid」、「Catch Me」が「Catch Me In Euro」、「C」が「Dance With 「C」」となっています。リミックスですが、曲の作り方としてはダフト・パンク的で面白く、お薦めです。
“全曲シングル”というべき勢いで制作
僕のニュー・アルバム『Neo Standard』が9月20日(水)にCD&配信、10月4日(水)にバイナル&カセットでリリースされます。今回、話題に挙げた中山美穂さんのほか、秋元薫さん、小泉今日子さん、鈴木杏樹さん、当山ひとみさん、土岐麻子さん、野宮真貴さん、早見優さん、BONNIE PINKさん、渡辺満里奈さんという全10組のボーカリストの方々が参加してくださっています。すべてオリジナル曲で、ボーカリストの方々がやってきた音楽を踏襲するのではなく、まずは純粋に自分の作りたい曲を作って、各曲にマッチする方に作詞や歌をお願いしました。皆さんプロフェッショナルですし、僕の意思をご理解の上で、素晴らしいパフォーマンスをしてくださっています。すべてシングル曲のような感覚で書いているので、ぜひ1曲1曲聴いてみてください。
Night Tempo
80’sの日本のポップスをダンス・ミュージックに再構築した“フューチャー・ファンク”のシーンから登場した韓国人プロデューサー/DJ。アメリカと日本を中心に活動する。昭和ポップスを現代的にアップデートする『昭和グルーヴ』シリーズを2019年に始動。Wink、杏里、松原みき、秋元薫らの楽曲を素材にこれまで18タイトルを発表し、最新作は早見優。2023年9月にオリジナル曲を収めた2ndアルバム『Neo Standard』をメジャー・リリースする。