3名の著名エンジニアが“DPAマイク愛”を熱く語った! 「マイクロフォン・テクニック・セミナー」

1992年に、デンマークのマイクロフォン・メーカーB&Kより、音楽用マイクの販売/サービスを展開する部門として独立したDPA MICROPHONES。B&K時代より製造している無指向性のコンデンサー・マイク4006、単一指向性の4011は、オーケストラのスタジオ録音からロック・バンドのライブまで、さまざまな場面でエンジニアに愛されてきた。ここではさる10月4日、深田晃氏、オノ セイゲン氏、ルネ・スロット(Rune Slot)氏という3名のエンジニアを招き、各々がDPAマイクをテーマにレクチャーを行った「マイクロフォン・テクニック・セミナー」の模様をレポートしていこう。

会場は、東京・代々木上原にあるMUSICASA(ムジカーザ)。室内楽などを念頭に設計された最大120席の小型ホールだ。ステージには講師が使用するデスクの後ろにピアノ、コントラバスが配され、DPA製のマイクも多数セッティングされている。中2階/2階にも用意された客席は予約の時点で埋まっており、注目度の高さがうかがえた。

▲会場となった代々木上原のMUSICASA。1995年の設立で、鈴木エドワード建築設計事務所の手により、最高で5.04mの天井高を確保。空席時:1.3秒、満席時:1.0秒の自然な響きが得られるという。奥に見えるピアノは常設のSTEINWAY B-211 ▲会場となった代々木上原のMUSICASA。1995年の設立で、鈴木エドワード建築設計事務所の手により、最高で5.04mの天井高を確保。空席時:1.3秒、満席時:1.0秒の自然な響きが得られるという。奥に見えるピアノは常設のSTEINWAY B-211

DPAマイクの特徴を明快に解説した深田晃氏

まず登壇したのは深田晃氏。ポップスからジャズ、サウンドトラックまで幅広い作品に参加し、海外でのさまざまなオーケストラの録音経験も豊富なエンジニアだ。

▲深田晃氏。幼少よりバイオリンなどの音楽教育を受け、CBS/SONY録音部チーフ・エンジニア、NHK放送技術制作技術センター番組制作技術部チーフ・エンジニアなどを歴任。現在は自らdream windowを立ち上げ、森山良子、小澤征爾サイトウキネンオーケストラのレコーディング、空間音響デザインなどで広く活躍している ▲深田晃氏。幼少よりバイオリンなどの音楽教育を受け、CBS/SONY録音部チーフ・エンジニア、NHK放送技術制作技術センター番組制作技術部チーフ・エンジニアなどを歴任。現在は自らdream windowを立ち上げ、森山良子、小澤征爾サイトウキネンオーケストラのレコーディング、空間音響デザインなどで広く活躍している。http://dreamwindow.info/homepage/

深田氏はまず「マイクはどう使おうと自由ですが、物理的な挙動を理解すると、求める音が手早く得られます」と語り、DPA 4011、4006、楽器用の小型マイクd:vote 4099の周波数特性とポーラー・パターンのグラフを投影しつつ、それぞれの特性を解説。各機種に共通する音色キャラクターとしては、「周波数レンジが広く、フラット。指向特性も奇麗です」と述べた。

さらにDPAマイクの際立った特徴として、「マイクの正面(軸上)以外の、横や後ろから回り込む音の特性が優秀」な点を挙げ、「カブりの音が濁らないため、たくさんのマイクを立てなければならない状況でも空間の表現力に優れているのです」と説明した。

また深田氏は、DPAマイクのアクセサリーの豊富さにも言及。4006に付属する3種類のグリッド(フリー・フィールド、クローズ・マイキング、ディフューズ・フィールド)や音圧イコライザー(別売)を紹介し、これらのアクセサリーを活用することで「マイクの音色キャラクターをアコースティック領域で変化させ、1本のマイクでいろいろな使い方ができます」と、その利点を語った。

▲4006A(外側)に取り付けられた50mmの音圧イコライザーAPE50RS。ダイアフラム付近の音場を変化させることで高域に指向性が付き、無指向性のマイクでもシャープな音像が得られるという ▲4006A(外側)に取り付けられた50mmの音圧イコライザーAPE50RS。ダイアフラム付近の音場を変化させることで高域に指向性が付き、無指向性のマイクでもシャープな音像が得られるという

続いて深田氏は「複数の楽器による倍音のハーモニーは、オフマイクでしかとらえられません」と語り、ステレオ録音の手法を紹介。レコーディング・アングルの考え方やAB/XY/ORTF(準同軸)それぞれのセッティング法、最適な角度や距離について解説した。オーケストラ録音などでよく使用されるデッカ・ツリーについては、「実は3点定位的で位相は良くないのですが、これが人の感覚だと自然に聴こえるところが面白いですね」と、グラフとともに解説していたのが印象的だった。

さらに深田氏はDPAのマイクを使った自身の録音(アコースティック・ギター、ピアノ・トリオ)のマルチをMERGING Pyramix VirtualStudioで再生した後、ピアニストのあびる竜太、ベーシストの早川哲也を招き入れ、録音セッションを敢行。簡易的な録音であったが、観客は鮮度の高いプレイバック音に耳をそば立てていた。

▲あびる竜太(ac.p)と早川哲也(contrabass)を迎えたレコーディング・セッションの模様 ▲あびる竜太(ac.p)と早川哲也(contrabass)を迎えたレコーディング・セッションの模様
▲ピアノへのマイキング。左のオフマイクより、AB方式で立てられた4006A×2、外側がAPE50RSを取り付けた4006A×2、中央に見えるのがORTF方式で立てられた4015×2、オンマイクは4011A×2に加え、d:vote 4099×2がピアノ本体にクリップで取り付けられていた ▲ピアノへのマイキング。左のオフマイクより、AB方式で立てられた4006A×2、外側がAPE50RSを取り付けた4006A×2、中央に見えるのがORTF方式で立てられた4015C×2、オンマイクは4011A×2に加え、d:vote 4099×2がピアノ本体にクリップで取り付けられていた
▲コントラバスのネック部を狙って立てられた4011A。これに加えて、ボトムの響きをNOS方式にセットした4011C×2で拾い、ボディ中央部にはd:vote 4099がクリップで取り付けられていた ▲コントラバスのネック部を狙って立てられた4011A。これに加えて、ボトムの響きをNOS方式にセットした4011C×2で拾い、ボディ中央部にはd:vote 4099がクリップで取り付けられていた

深田氏は最後に3Dサウンドにも言及。チャンネル・ベース、オブジェクト・ベース、シーン・ベース(アンビソニック)という現在主流の3方式を紹介しつつ、「横や後方からの特性が奇麗なDPAマイクはマルチマイクでの収音において大きな可能性がある」と述べ、1時間強に及んだセッションを締めくくった。

オノ セイゲン氏はDPA4000/2000シリーズで音の違いがほぼ無いことを検証

しばしの休憩の後、登壇したのはオノ・セイゲン氏。まず私物のミニチュア・マイクB&K 4021を披露し、「現在の4011ERの元になっているモデルです。4011のカプセルで、フィルム・アンプが本体に入っている。音は4011と同じで、とにかく便利です」と語る。「B&K 4006のペアは、NEUMANN U87やAKG C414と同様、スタジオやホール定番のマイク」とのことで、主にステレオ・ペアで、クラシックの場合はメイン・マイクとして、ロックの場合はルーム・アンビエンスの収音に重宝しているという。

▲オノ セイゲン氏。音響ハウスを経て1980年に独立後、坂本龍一『戦場のメリークリスマス』を皮切りに、清水靖晃、ラウンジ・リザースなど多数のプロジェクトに参加。一方で日本人として初めてVirgin UKとアーティスト契約を結ぶなど広く活躍する。1996年、東京・神宮前にサイデラ・マスタリングを設立。DSDをはじめとするハイ・レゾリューション・オーディオ、立体サラウンドにも積極的に取り組んでいる http://saidera.co.jp/ ▲オノ セイゲン氏。音響ハウスを経て1980年に独立後、坂本龍一『戦場のメリークリスマス』を皮切りに、清水靖晃、ラウンジ・リザースなど多数のプロジェクトに参加。一方で日本人として初めてVirgin UKとアーティスト契約を結ぶなど広く活躍する。1996年、東京・神宮前にサイデラ・マスタリングを設立。DSDをはじめとするハイ・レゾリューション・オーディオ、立体サラウンドにも積極的に取り組んでいる http://saidera.co.jp/

1995年から僕の定番は、B&K 4009とAPE50RSのセット。4009は、4006より10dBヘッドルームが高い130V仕様の4008のステレオ・マッチング・ペアです。ポーラー・パターンと音色が、ちょうどNEUMANN M50のようになる」とのことで、周波数特性的にもM50のように、1〜1.5kHz辺りからシェルビングでなだらかに伸びるところが気に入っているそうだ。

「深田さんの解説にもあったように、ステレオやサラウンドでのマイキングは、前方以外の周波数カーブもなだらかでなければなりませんし、個体差があると空間がつながりません。ビンテージのM50で、音色がそろっているものはまずないですよ。ボーカル・マイクは、好きな個体が1本だけ見つかればいいと思いますが、空間をとらえるにはDPAが最適。たまに本国に送って完ぺきにキャリブレーションしてもらいます」と明かした。

オノ氏は今回のセッションに際し、自身のサイデラ・マスタリングに4006A、2006A、4011A、4011E、2011Aをそれぞれペアで立て、ビブラフォン、バイオリン、コントラバスなどの楽器をDSD録音したとのことで、セッティングの模様を写真で解説。

▲サイデラ・マスタリングでのレコーディング時のDPAマイク・セッティングを解説するオノ氏。ロサンゼルスのキャピトル・スタジオで使われていた大型ブーム・スタンド×2に、オフマイクとして4006Aと2006A、オンマイクに4011A、4011E、2011Aをそれぞれペアでセット。天井にも2011C、4090の各ペアを設置したという ▲サイデラ・マスタリングでのレコーディング時のDPAマイク・セッティングを解説するオノ氏。ロサンゼルスのキャピトル・スタジオで使われていた大型ブーム・スタンド×2に、オフマイクとして4006Aと2006A、オンマイクに4011A、4011E、2011Aをそれぞれペアでセット。天井にも2011C、4090の各ペアを設置したという

セミナー当日は、そのセッションを24ビット/192kHzのWAVにコンバートしたものをAVID Pro Toolsに読み込んだ状態で持ち込んでおり、トラックをランダムに切り替えながら、マイクによる音の違いを聴き比べた。各マイクが設置された距離による微細な違いはあったものの、オノ氏は特に2006A、2011Aの優秀さを強調。

4011Aと2011Aのごくわずかな差より、マイク位置の3cmの音の違いの方が大きい。当たり前のことですが、“マイク位置に耳を持っていき、実際に音を確認する”という基本を怠ってはいけません。そこでダイレクト音と被ってくる音をしっかり覚えるんです。マイキングは、理論だけでなく基本と経験値も大事。4011Aと2011Aの価格は倍くらい違いますが、正確な場所に置けばどちらも同じ音です。その意味で、2000シリーズはDPAクオリティを十分に満たしています」と語った。

▲サイデラ・マスタリングにてDSD録音したテイクを24ビット/192kHzのPCMに変換してAVID Pro Toolsに読み込み、トラックを切り替えながら再生。マイクによる音の違いを試聴した(画面提供:サイデラ・マスタリング) ▲サイデラ・マスタリングにてDSD録音したテイクを24ビット/192kHzのPCMに変換してAVID Pro Toolsに読み込み、トラックを切り替えながら再生。マイクによる音の違いを試聴した(画面提供:サイデラ・マスタリング)

最後にオノ氏は、コントラバス奏者のパール・アレキサンダーと共作した『メモリーズ・オブ・プリミティブ・マン』(http://saidera.co.jp/sr/pm.html)のコントラバス・パートを、ボーカル用ハンドヘルド・マイクFA4018VDPABだけで録音した模様を解説。早川哲也がコントラバスのボディや弦をこする“耳を澄ます”ような奏法や、ピアニッシモの音をとらえるには、超指向性で感度が高く、かつハンドリング・ノイズが少ないFA4018VDPABが非常に有効であることを証明してみせた。

▲FA4018VDPAB。スティーヴィー・ワンダーやスティングらがステージでも愛用する超指向性マイク。オノ氏はボーカル・マイクとしての素性の良さに加え、「どんな小さな音もクローズアップ・レンズのように録れる」とその性能を評価する ▲FA4018VDPAB。スティーヴィー・ワンダーやスティングらがステージでも愛用する超指向性マイク。オノ氏はボーカル・マイクとしての素性の良さに加え、「どんな小さな音もクローズアップ・レンズのように録れる」とその性能を評価する

ライブPAでも積極的にDPAを使うルネ・スロット氏

最後に登壇したのは、DPAのグローバル・セールスを務めつつ、現役のPAエンジニアとしても活躍するルネ・スロット氏。まず「DPAマイクはすべて、70名に上るデンマークの素敵な女性によりハンドメイドされています」と語り、「4099などで採用されている5mmカプセルのダイアフラムの厚さは1μmですが、ここに120dBの音圧をかけた場合でも、可動幅0.05μmにとどまっています」と、クリップに強いとされるDPAマイクの構造について解説した。

▲ルネ・スロット氏。DPAのグローバル・セールスを務めつつ、グレン・ヒューズ、カリフォルニア・ブリードらのPAエンジニアとしてツアーに帯同。ステージでもDPAマイクを愛用しており、ドラムには2011Cやd:vote 4099を立てているという ▲ルネ・スロット氏。DPAのグローバル・セールスを務めつつ、グレン・ヒューズ、カリフォルニア・ブリードらのPAエンジニアとしてツアーに帯同。ステージでもDPAマイクを愛用しており、ドラムには2011Cやd:vote 4099を立てているという

スロット氏は「4000シリーズでは、軸上だけでなく30°/60°/90°といった軸外の測定データも公表しています。プロ用ですから軸外の特性もおろそかにせず、フラットになるように心掛けています」と、深田氏やオノ氏も言及したDPAマイクのアドバンテージを強調。それを証明すべく、ショットガン・マイク4017Bを水平方向に360°回転させながらグラスに入ったスプーンの音を収録する実験を行った。レコーディング後の波形は菱形状に音の減衰を表しており、再生音はマイクの角度によるひずみも感じられない。空間の表現に長けたDPAのキャラクターが過不足無く表現されていた。

▲スタンドに立てたショットガン・マイク4017を水平方向に360°回転させながら、グラスに入ったスプーンの音を収録する実験の模様 ▲スタンドに立てたショットガン・マイク4017Bを水平方向に360°回転させながら、グラスに入ったスプーンの音を収録する実験の模様

続いてスロット氏はDPAマイクに使用されている5種類のカプセルを紹介。「最も小型のカプセルは5mmですが、無指向性のものは近接効果が発生しないので、虫の羽音も録れるんです」と語り、カプセルに虫が止まっているユニークな写真を披露した。

▲無指向性のミニチュア・マイクSC4060を使えば近接効果が発生せず、虫の羽音もクリアに収音できる ▲無指向性のミニチュア・マイクSC4060を使えば近接効果が発生せず、虫の羽音もクリアに収音できる

さらに、ドラム・セットに無指向性の2006CをL/Rにセットした例を動画で再生し、2本のマイクで臨場感のあるドラム録音ができるさまを動画で紹介した。スロット氏は「DPAのマイクはすべてコンデンサー・タイプですが、私はロック・バンドのライブPAを行う際、ドラムもすべてDPAのマイクで収音しています。メタリカのエンジニアもそうなんですよ!」と語り、続けて2011Aと他社製のコンデンサー・マイクでタンバリンを録り比べたテイクを披露。2011Aはタンバリンの輪郭がクッキリと録れているのに対し、後者はひずんでいるさまが聴き取れた。スロット氏はiOS対応のコンパクトなオーディオ・インターフェースd:viceの動画とともに、DPAの新たな取り組みについても紹介していた。

▲会場にはコンパクトなオーディオ・インターフェース、d:viceも持ち込まれていた。2ch分のマイクプリを内蔵し、最高24ビット/96kHzに対応。レコーディングはもちろん、最近は測定のために導入される機会も多いそうだ ▲会場にはコンパクトなオーディオ・インターフェース、d:viceも持ち込まれていた。2ch分のマイクプリを内蔵し、最高24ビット/96kHzに対応。レコーディングはもちろん、最近は測定のために導入される機会も多いそうだ

最後には再びあびる竜太、早川哲也の両氏を招き、深田氏とは異なるセッティングでのレコーディング・セッションを敢行した。ピアノには2011Cとd:vote 4099をそれぞれペアでセット。録音後のプレイバックでは、鮮度の高いピアノの録り音が印象的だった。コントラバスの内部に仕込んだSC4060も超低域をよく拾っており、d:vote 4099の録り音とミックスすることで、厚みがありつつ輪郭がのクッキリしたベース・サウンドを聴かせていた。

▲ピアノのオンマイクには2011C(左)とd:vote 4099(右)をそれぞれペアで使用していた ▲ピアノのオンマイクには2011C(左)とd:vote 4099(右)をそれぞれペアで使用していた

以上でセミナーは修了。5時間以上に及ぶ長丁場だったが、各氏の講演を通して、なぜDPAのマイクがエンジニア/ミュージシャンに愛され続けているのかが腑に落ちる内容であった。観客の熱量も終始高く、終演後のフリー・トーク・セッションでも、マイクを手に取りながら講師陣に質問をする姿が多く見受けられた。

▲フリー・トーク・セッションではDPAの各種マイクがハンズオンされた。観客はミニチュア・マイクやアクセサリーを手に取り、その作りの良さに感心しつつ、熱心に講師陣に話を聞いていた ▲フリー・トーク・セッションではDPAの各種マイクがハンズオンされた。観客はミニチュア・マイクやアクセサリーを手に取り、その作りの良さに感心しつつ、熱心に講師陣に話を聞いていた

Presented by Hibino Intersound Corp.

DPA MICROPHONES製品に関する問い合わせ:ヒビノインターサウンド
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