会場は、東京・代々木上原にあるMUSICASA(ムジカーザ)。室内楽などを念頭に設計された最大120席の小型ホールだ。ステージには講師が使用するデスクの後ろにピアノ、コントラバスが配され、DPA製のマイクも多数セッティングされている。中2階/2階にも用意された客席は予約の時点で埋まっており、注目度の高さがうかがえた。
DPAマイクの特徴を明快に解説した深田晃氏
まず登壇したのは深田晃氏。ポップスからジャズ、サウンドトラックまで幅広い作品に参加し、海外でのさまざまなオーケストラの録音経験も豊富なエンジニアだ。
深田氏はまず「マイクはどう使おうと自由ですが、物理的な挙動を理解すると、求める音が手早く得られます」と語り、DPA 4011、4006、楽器用の小型マイクd:vote 4099の周波数特性とポーラー・パターンのグラフを投影しつつ、それぞれの特性を解説。各機種に共通する音色キャラクターとしては、「周波数レンジが広く、フラット。指向特性も奇麗です」と述べた。
さらにDPAマイクの際立った特徴として、「マイクの正面(軸上)以外の、横や後ろから回り込む音の特性が優秀」な点を挙げ、「カブりの音が濁らないため、たくさんのマイクを立てなければならない状況でも空間の表現力に優れているのです」と説明した。
また深田氏は、DPAマイクのアクセサリーの豊富さにも言及。4006に付属する3種類のグリッド(フリー・フィールド、クローズ・マイキング、ディフューズ・フィールド)や音圧イコライザー(別売)を紹介し、これらのアクセサリーを活用することで「マイクの音色キャラクターをアコースティック領域で変化させ、1本のマイクでいろいろな使い方ができます」と、その利点を語った。
続いて深田氏は「複数の楽器による倍音のハーモニーは、オフマイクでしかとらえられません」と語り、ステレオ録音の手法を紹介。レコーディング・アングルの考え方やAB/XY/ORTF(準同軸)それぞれのセッティング法、最適な角度や距離について解説した。オーケストラ録音などでよく使用されるデッカ・ツリーについては、「実は3点定位的で位相は良くないのですが、これが人の感覚だと自然に聴こえるところが面白いですね」と、グラフとともに解説していたのが印象的だった。
さらに深田氏はDPAのマイクを使った自身の録音(アコースティック・ギター、ピアノ・トリオ)のマルチをMERGING Pyramix VirtualStudioで再生した後、ピアニストのあびる竜太、ベーシストの早川哲也を招き入れ、録音セッションを敢行。簡易的な録音であったが、観客は鮮度の高いプレイバック音に耳をそば立てていた。
深田氏は最後に3Dサウンドにも言及。チャンネル・ベース、オブジェクト・ベース、シーン・ベース(アンビソニック)という現在主流の3方式を紹介しつつ、「横や後方からの特性が奇麗なDPAマイクはマルチマイクでの収音において大きな可能性がある」と述べ、1時間強に及んだセッションを締めくくった。
オノ セイゲン氏はDPA4000/2000シリーズで音の違いがほぼ無いことを検証
しばしの休憩の後、登壇したのはオノ・セイゲン氏。まず私物のミニチュア・マイクB&K 4021を披露し、「現在の4011ERの元になっているモデルです。4011のカプセルで、フィルム・アンプが本体に入っている。音は4011と同じで、とにかく便利です」と語る。「B&K 4006のペアは、NEUMANN U87やAKG C414と同様、スタジオやホール定番のマイク」とのことで、主にステレオ・ペアで、クラシックの場合はメイン・マイクとして、ロックの場合はルーム・アンビエンスの収音に重宝しているという。
「1995年から僕の定番は、B&K 4009とAPE50RSのセット。4009は、4006より10dBヘッドルームが高い130V仕様の4008のステレオ・マッチング・ペアです。ポーラー・パターンと音色が、ちょうどNEUMANN M50のようになる」とのことで、周波数特性的にもM50のように、1〜1.5kHz辺りからシェルビングでなだらかに伸びるところが気に入っているそうだ。
「深田さんの解説にもあったように、ステレオやサラウンドでのマイキングは、前方以外の周波数カーブもなだらかでなければなりませんし、個体差があると空間がつながりません。ビンテージのM50で、音色がそろっているものはまずないですよ。ボーカル・マイクは、好きな個体が1本だけ見つかればいいと思いますが、空間をとらえるにはDPAが最適。たまに本国に送って完ぺきにキャリブレーションしてもらいます」と明かした。
オノ氏は今回のセッションに際し、自身のサイデラ・マスタリングに4006A、2006A、4011A、4011E、2011Aをそれぞれペアで立て、ビブラフォン、バイオリン、コントラバスなどの楽器をDSD録音したとのことで、セッティングの模様を写真で解説。
セミナー当日は、そのセッションを24ビット/192kHzのWAVにコンバートしたものをAVID Pro Toolsに読み込んだ状態で持ち込んでおり、トラックをランダムに切り替えながら、マイクによる音の違いを聴き比べた。各マイクが設置された距離による微細な違いはあったものの、オノ氏は特に2006A、2011Aの優秀さを強調。
「4011Aと2011Aのごくわずかな差より、マイク位置の3cmの音の違いの方が大きい。当たり前のことですが、“マイク位置に耳を持っていき、実際に音を確認する”という基本を怠ってはいけません。そこでダイレクト音と被ってくる音をしっかり覚えるんです。マイキングは、理論だけでなく基本と経験値も大事。4011Aと2011Aの価格は倍くらい違いますが、正確な場所に置けばどちらも同じ音です。その意味で、2000シリーズはDPAクオリティを十分に満たしています」と語った。
最後にオノ氏は、コントラバス奏者のパール・アレキサンダーと共作した『メモリーズ・オブ・プリミティブ・マン』(http://saidera.co.jp/sr/pm.html)のコントラバス・パートを、ボーカル用ハンドヘルド・マイクFA4018VDPABだけで録音した模様を解説。早川哲也がコントラバスのボディや弦をこする“耳を澄ます”ような奏法や、ピアニッシモの音をとらえるには、超指向性で感度が高く、かつハンドリング・ノイズが少ないFA4018VDPABが非常に有効であることを証明してみせた。
ライブPAでも積極的にDPAを使うルネ・スロット氏
最後に登壇したのは、DPAのグローバル・セールスを務めつつ、現役のPAエンジニアとしても活躍するルネ・スロット氏。まず「DPAマイクはすべて、70名に上るデンマークの素敵な女性によりハンドメイドされています」と語り、「4099などで採用されている5mmカプセルのダイアフラムの厚さは1μmですが、ここに120dBの音圧をかけた場合でも、可動幅0.05μmにとどまっています」と、クリップに強いとされるDPAマイクの構造について解説した。
スロット氏は「4000シリーズでは、軸上だけでなく30°/60°/90°といった軸外の測定データも公表しています。プロ用ですから軸外の特性もおろそかにせず、フラットになるように心掛けています」と、深田氏やオノ氏も言及したDPAマイクのアドバンテージを強調。それを証明すべく、ショットガン・マイク4017Bを水平方向に360°回転させながらグラスに入ったスプーンの音を収録する実験を行った。レコーディング後の波形は菱形状に音の減衰を表しており、再生音はマイクの角度によるひずみも感じられない。空間の表現に長けたDPAのキャラクターが過不足無く表現されていた。
続いてスロット氏はDPAマイクに使用されている5種類のカプセルを紹介。「最も小型のカプセルは5mmですが、無指向性のものは近接効果が発生しないので、虫の羽音も録れるんです」と語り、カプセルに虫が止まっているユニークな写真を披露した。
さらに、ドラム・セットに無指向性の2006CをL/Rにセットした例を動画で再生し、2本のマイクで臨場感のあるドラム録音ができるさまを動画で紹介した。スロット氏は「DPAのマイクはすべてコンデンサー・タイプですが、私はロック・バンドのライブPAを行う際、ドラムもすべてDPAのマイクで収音しています。メタリカのエンジニアもそうなんですよ!」と語り、続けて2011Aと他社製のコンデンサー・マイクでタンバリンを録り比べたテイクを披露。2011Aはタンバリンの輪郭がクッキリと録れているのに対し、後者はひずんでいるさまが聴き取れた。スロット氏はiOS対応のコンパクトなオーディオ・インターフェースd:viceの動画とともに、DPAの新たな取り組みについても紹介していた。
最後には再びあびる竜太、早川哲也の両氏を招き、深田氏とは異なるセッティングでのレコーディング・セッションを敢行した。ピアノには2011Cとd:vote 4099をそれぞれペアでセット。録音後のプレイバックでは、鮮度の高いピアノの録り音が印象的だった。コントラバスの内部に仕込んだSC4060も超低域をよく拾っており、d:vote 4099の録り音とミックスすることで、厚みがありつつ輪郭がのクッキリしたベース・サウンドを聴かせていた。
以上でセミナーは修了。5時間以上に及ぶ長丁場だったが、各氏の講演を通して、なぜDPAのマイクがエンジニア/ミュージシャンに愛され続けているのかが腑に落ちる内容であった。観客の熱量も終始高く、終演後のフリー・トーク・セッションでも、マイクを手に取りながら講師陣に質問をする姿が多く見受けられた。
Presented by Hibino Intersound Corp.
DPA MICROPHONES製品に関する問い合わせ:ヒビノインターサウンド
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