作業フロー革命が起きそうなAPPLE Logic Pro for iPad【第36回】realize〜細井美裕の思考と創発の記録

iPadによる初手の出しやすさと画面サイズ制限で操作性の悩みが解決

 APPLE Logicただいま! Logic Pro for iPad、誇張抜きで個人的に作業フロー革命が起きそう。11インチのAPPLE iPad Pro+AirPods MaxでLogicを使ってみているのですが、ここ数年でなんだかなあと思っていた操作周りがかなり解決すると思っています。前提として、デモ音源制作用にABLETON Liveを使い(と言ってもほとんど私の声の多重録音なので、音は大体オシレーターでサイン波だけ)、録音とエディットにAVID Pro Toolsを使っている者の場合です。最終的な録音とエディットは、やはり慣れている&そのままエンジニアの方に共有できるPro Toolsを使うことは変わらないのですが、デモ制作をLogic Pro for iPadで試しています。

APPLE Logic Pro for iPadのステップ・シーケンサー画面。各ステップでは、枠内のタップする場所を変えることでその音が鳴る“発現率(%)”を一発で設定できる

APPLE Logic Pro for iPadのステップ・シーケンサー画面。各ステップでは、枠内のタップする場所を変えることでその音が鳴る“発現率(%)”を一発で設定できる

 結論から言うと、下記に当てはまる人はLogic Pro for iPadも向いているかもしれないのでぜひ触ってみてください。総じて、エンジニアよりクリエイター向けだと思います。

  1. LiveのPackを買っても全部使いこなせない:後で説明
  2. リズム遊びが好き:ステップ・シーケンサーがめちゃくちゃいい。DAW付属のものの中だと一番好きかも。各シーケンスの進め方の速さ(4/8/16Tとか)をノートごとに変えられるのが素晴らしい。ランダムの値の設定のユーザー・インターフェースも好き。
  3. オートメーションをいっぱい書いちゃう:ずっとオートメーションは手で書きたいと思ってたんだよ、直線以外。APPLE Apple Pencilが使えるじゃないか。
  4. 録音やオーディオ・トラックの波形エディットはコンピューターでやるから全部iPadで完結しなくてもいい:iPadは開けたらいつでも鳴ってくれる。
  5. コンピューターで作業しているときに“うわ、今画面を指で操作できたらめちゃくちゃ楽なのに、マウスでやるのめんどくさいな……”という瞬間がある:iPadなら指で操作できる。
  6. たまにはヘッドフォン作業でいい:いいです、たまには。遅延が影響する作業はiPadでやらない(し、気にならない)。
  7. 初手が遅いのをなんとかしたい:これは私の問題ですが、きっとほかにもいるだろう。

 どうでしょうか。私はMIDIで作ってそれをすべて多重録音し直す体育会系録音&エディット芸人なので、MIDIからオーディオにするところの体力を録音とエディットに残しておきたいんですよね。Liveの強みはリズムや音色のパターンの調整がしやすいところにあったりすると思うので、そこを声(喉)というハードウェアで置き換えている私は、Liveを持て余している体感がかなりありました。だからこそ劣等感からLiveのチュートリアルを見るようにしているのですが、見るとさらに自分が何もできないような感覚になって自己肯定感が下がっていく(真面目)。チュートリアルを見てPackを買って試しても、己の実力では聴いたことがある音楽にしかならないなあと思ったり。

パック数はまだ多くないが、デモ作りには十分……というか、あまり多いと選べないのでこれくらいでありがたい

パック数はまだ多くないが、デモ作りには十分……というか、あまり多いと選べないのでこれくらいでありがたい

 などなど、自分のレベルとDAWの機能が最も生きる瞬間とのかい離に思うところがあったタイミングでのマイ・ファーストDAWことLogicが顔を出してきたので、思わず手を出してしまいました。そしてしばらく触っていなかったLogicのアップデートを知って謝りたい気持ちになりました。

 とは言えLiveを使わなくなることはないです(不満がない)。やっぱりCYCLING '74 Max系に強いし、開発者が多いから面白いものがいっぱいある。ポン出しとかセンサーとの連結とか、そういう現場で強いのは圧倒的にLiveですね。私の中でLiveは(ソフトウェアだけど)コントローラーというイメージです。Max for Liveが実装されているうまみは捨てがたい。今あり得そうなフローは、Logic Pro for iPadでMIDIを書き出して、それをLive内のSamplerで鳴らしてオーディオで書き出し、Pro Toolsで録音&編集……ですね。

 今使っているiPadはApple M2チップでストレージが2TBなので、自分のAPPLE MacBook Pro(16-inch, 2018)より安定している気さえする。目下の私の課題は初手の出しやすさだったので、iPadというだけでまず心理的ハードルが大幅に下がっています。あとは、iPadという画面サイズの制限が、私の脳みそ処理能力に合っていることが分かってきました。あの画面で表示できる限界くらいの情報量だと、ちょうどほかが隠れて気が散らないし、良くも悪くもコンピューターと違って意志がないと操作画面にたどり着けない。この違いは地元(愛知県)でのドライブの感覚に似ているかも。大量の看板があって誘惑が多い国道(=コンピューター)を走るか、初志貫徹で目的地へ向かえる田んぼ道(=iPad)を走るか、みたいな感じです。

筆者がLogic Pro for iPadで、ステップ・シーケンサーの芸の細かさを発見した時の興奮を記録。写真で着けているヘッドフォンはAPPLE AirPods Maxで、外音取り込みの性能とAPPLE製品との接続性が圧倒的に良い! 特に外音取り込みは、オンライン・ミーティングでの自分の声の聴こえ方に感動

筆者がLogic Pro for iPadで、ステップ・シーケンサーの芸の細かさを発見した時の興奮を記録。写真で着けているヘッドフォンはAPPLE AirPods Maxで、外音取り込みの性能とAPPLE製品との接続性が圧倒的に良い! 特に外音取り込みは、オンライン・ミーティングでの自分の声の聴こえ方に感動

装着性とノイズ・キャンセリングに優れたAirPods Max

 Logicの流れでAirPods Maxについて書いておきます。重いこと以外は良いです! 私は録音中、ヘッドフォンをずっとしていると頭頂部が痛くなってくるので、ハンカチを折りたたんでちょんまげみたいに挟んで対応するのですが、AirPods Maxは頭頂部がメッシュなので全然大丈夫ですね。

 ノイズ・キャンセリング(以下、ノイキャン)は好みがあると思いますが、私は基本的に電車/新幹線/飛行機以外はノイキャン・オフ派です。中音域をすっきりさせたく、いろいろ試した結果、iPhoneの設定>ミュージックのEQをLate Nightにしたら満足度がかなり上がりました。

 そうだ、細井的“都内で最もノイキャン泣かせな場所”1位は、渋谷駅東口の改札からバス乗り場に行く途中に設置されたマルチチャンネル・モスキートーンです。あそこ、とんでもないです。2、3年前に買ったワイアレスのイアフォンを着けてあの場所ができたときに通ったら、イアフォンからとんでもない暴走音がして(ゴボボボみたいな爆音)、慌てて取るくらい。ノイキャン搭載のものはそこでチェックするようにしているのですが、十分に耐えていました。SONY WH-1000XM5も耐えていたので、数年前に比べると各社ノイキャンのレベルが上がっていることを実感します。同時に、圧迫感問題はあるのですが、用途次第だなと思います。圧迫感よりもノイキャンの効果の方が上だと思うときに使えば良いし、圧迫感が勝つときには切るしかない。ノイキャンの効果だけでヘッドフォンやイアフォンの質を判断せず、使い勝手とか、好きな音楽が好みに聴こえるかで判断するべきと思います。意外にみんなノイキャンの質問をよくしてくるけど……。移動に使うリスニング用ヘッドフォンであれば、便利なものとして割り切るようにしています。ファッションの一部として、洋服と同じくらい見た目で選んでもいいと思います。自分が気持ち良ければどんな音質でも良いじゃないか。

渋谷駅東口バス乗り場に行く途中に設置されたサラウンド・モスキートーン

渋谷駅東口バス乗り場に行く途中に設置されたサラウンド・モスキートーン

 そういえば、AirPods Maxを使うとApple Musicが半年使えるので使ってみているのですが(7年くらいSpotify)、Apple Digital Masterとそうでないもの、全然音が違いますね! びっくりしました。同じ曲で聴いてみてください。あとはアーティストのラジオ番組やオリジナルのインタビューが充実していて、英語の勉強にもなるし移動中ずっと聴いています。曲のサジェストはSpotifyの方が好きかなあ。

 ここ数年使っている機材やソフトウェアを乗り換えるタイミングがなかったので、たまにはホッピングするのも大事ですね。ではまた〜!

 

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細井美裕

細井美裕

【Profile】1993年生まれ、慶應義塾大学卒業。マルチチャンネル音響を用いた空間そのものを意識させるサウンド・インスタレーションや、舞台公演、自身の声の多重録音を特徴とした作品制作を行う。これまでにNTT ICC無響室、YCAM、札幌SCARTS、東京芸術劇場コンサートホール、愛知県芸術劇場、国際音響学会AES、羽田空港などで作品を発表してきた。

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