SNSは音楽家の敵か?味方か? 【第8回】NO PASSION, NO MUSIC〜Watusi (COLDFEET)

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 引きこもり以前に、この時代の音楽家はとっくに1人=1レーベル時代に突入しているので、各自が自分の思うことを、自身の道を示し続けていけば何の問題もないと思い生きてきた。されどSNS時代というものはなかなか厄介で、当然その場をフル活用し登場してくる音楽家の新たな現場になっていることは認めつつ、常に見知らぬ他者からの一方的な見え方にさらされ続けているので、日夜心や翼が折れたり、急速な性根の悪化という症状と戦うすべを持てない発信者にはなかなか生きづらい時代だ。

 

 回りくどく書いてみたが、単純に僕はSNS嫌い。音楽家だけを見てみても、SNSでイメージ的に得をしていると思った方に会ったことはないし、音楽家を“お願い!僕のことに興味を持って〜!”という、ネット界の客引き係に落とし込むのがSNSだとさえ思っている。それでもやらずにはいられない自分の枷(かせ)と性質にイラついているのが分かっているだけに、何とか少しでもポジティブに付き合いその未来を祈ろうと、Facebookの5千人の“友達”に毎日欠かさず誕生日メッセージを送っているという、全くもって理解されづらいダメ老人状態の男である。

 

 世界的に人がリアルに集まりづらい昨今、P2Pでの音楽配信の勢いはどんどん内容も深く巨大化している(そんな僕も発案者いとうせいこうとMDL*1という配信アクションを毎週末行っていて毎回クラクラしている)。著作権問題*2や課金制度も徐々に整ってきた今、音楽業界としても宣伝ツールとしてのフェイズを超え、ストレートに商売として取り組んでいる。多くのメジャー・レーベルでも、社内か社外かの違いはあっても、所属アーティストのSNSでのリアクションを日々チェックし、宣伝から制作までに反映させるセクションが存在する。言ってしまえば企業コンサルのような存在だが、本来的はメーカーのA&Rというのはそうした時代の流れを読み取り、担当アーティストとどう折り合いを付けていくか、その攻め方を考えるのが仕事だった。そうした先読みができるA&Rの存在に穴が空いている今、昭和の時代にライブ・ハウスを満員にしているバンドを探し回った代わりに、YouTubeで光る存在を(探すのでなく募集をかけてだが)従来のメジャー・フォーマットで磨きをかけより大きく輝かせようというアクションも始まった。YouTuberはもちろん、既に17Liveなどでも年間1千万円以上を稼ぎ出す配信“アーティスト”が多数存在するこの時代。果たしてメジャーの宝刀はまだその威力を発揮できるのだろうか。

*1 Music Don’t Lockdown(https://mdlfes.tokyo

*2 多くの配信サイトがJASRACと包括契約を結んでいるが、原盤権は別の話

 

 現代版A&Rと思えるのがアナリティックス*3と呼ばれる、サイトのサービス機能。SpotifyからThe Orchard*4から、Universal Musicまでもが所属アーティスト向けに各ストリーミングの再生データからSNSのエンゲージメントなどあらゆるデータを可視化するサービスを行っている*5。その数字からはどの街でライブを行ったらどれくらいの動員が予想されるかまでもが示される。これを便利なサービスと呼ぶのか、レーベルの職業放棄と呼ぶのかは別として、日々そんな数字を突きつけられていると感じてしまう、音楽だけを作りたいとピュアに願うアーティストにとっては生まれたのが遅過ぎると嘆くしかない時代でもある。

*3 オンライン・コンテンツとユーザーの接点に関するデータを収集、設定、レポートするためのAPIが用意されている

*4 昨年日本でもローンチされた、マーケティングやデータ分析などさまざまなサービスを提供することで有名なアメリカのディストリビューター。インディペンデント・アーティストの音楽配信ツールを用意する。https://www.theorchard.com/?lang=ja

*5 契約するアーティストとそのマネージャー向けにデータが可視化できるアプリ、Universal Music Artistsをリリース。Spotify、Apple Music、Amazon Music、YouTubeでの再生データの推移からFacebook、Instagram、Twitterでのメンションやコメント数、シェア数、フォロワー数の推移も確認できる

 

 かつて音楽は生演奏というリアルな発信から譜面を楽しむ時代へ、やがて録音されSPから始まるレコードとして日常で楽しむ時代を経て、CDなどデジタル化に。やがてデータとなり価格をも失い、配信サイトへの営業ツールとなった。オフラインでのライブ活動が当分は絶望視しされる音楽たちは今、ネットの数字と戦いながら何を目指していけばいいのだろうか。

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ストリーミングとSNSのレポート・アプリ、Universal Music Artists。Universal Music契約アーティスト/マネジメント向けに情報提供をする

 

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Watusi (COLDFEET)

【Profile】Lori FineとのユニットCOLDFEETのプログラマー/ベーシスト/DJとして、国内のみならず欧米やアジア各国でも多くの作品をリリース。国内では中島美嘉、hiro、安室奈美恵、BoAなどの楽曲プロデュースを手掛け、アンダーグラウンドとメジャーとの接続を試みてきた。2015年には“21世紀の正しいディスコ”をキーワードにしたユニット、Tokyo Discotheque Orchestraをスタート。DUBFORCEや“いとうせいこう is the poet”のメンバーとしても活動している。TOKYO DANCE MUSIC WEEK発起人の一人。ライブ・ストリーミング・イベント、MUSIC DON'T LOCK DOWNにもかかわる

 

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