プロの現場で選ばれ続けるMANLEYの常勝アウトボード

アメリカはカリフォルニア州のチノを拠点とするメーカー、MANLEY。アウトボードやコンデンサー・マイクなどのレコーディング用機器を手掛ける同社は、その製品に真空管を使用しているのが特徴だ。今回はMANLEYの社長であるエヴァンナ・マンリー氏へのインタビューと、日々MANLEYの製品を愛用する鈴木Daichi秀行氏のユーザー・レポートを通じて、Stereo Variable Mu Limiter CompressorとMassive Passive Stereo Tube EQの魅力に迫っていこう。

真空管回路で圧縮するコンプ/リミッター
Stereo Variable Mu® Limiter Compressor

mslchp-ft

▲リア・パネル。ステレオの入出力(XLR)を備える ▲リア・パネル。ステレオの入出力(XLR)を備える

ピーク・リダクションおよびコンプレッションを真空管回路で行う、ステレオ・コンプ/リミッター。パラメーターは入出力ゲイン、スレッショルド、アタック、リカバリー(リリース)を用意し、ハイパス・サイド・チェイン・フィルターも搭載する。通常バージョンに加え、2ミックスのプロセッシングに最適化されたマスタリング・バージョンもラインナップ。どちらのモデルもM/S方式にも対応するMS Modと、五極管の6BA6を一つの三極管として結線し、双三極管の5670(または6386)に置き換えるT-Bar Modというオプションが用意されており、注文時に追加することができる。

オープン・プライス
Standard Version(市場予想価格468,000円前後)
with T-Bar Option(市場予想価格528,000円前後)
with MS Mod Option(市場予想価格558,000円前後)
with MS Mod & T-Bar Option(市場予想価格598,000円前後)

Mastering Version(市場予想価格598,000円前後)
with T-Bar Option(市場予想価格658,000円前後)
with MS Mod Option(市場予想価格688,000円前後)
with T-Bar & MS Mod Option(市場予想価格738,000円前後)

真空管アンプ+パッシブ回路のEQ
Massive Passive Stereo Tube EQmsmp-ft

▲リア・パネルにあるステレオの入出力(XLR&TRSフォーン) ▲リア・パネルにあるステレオの入出力(XLR&TRSフォーン)

真空管アンプとオール・パッシブ回路を組み合わせた4バンド・ステレオEQ。各バンドは周波数とQ幅の調節が可能で、カーブをシェルフとベルで選択できる。ローパス/ハイパス・フィルターも装備。こちらもStereo Variable Mu Limiter Compressorと同様に、マスタリング・バージョンが用意されている。マスタリング・バージョンは通常バージョンとは異なる真空管(12AU7×2)やステップ式つまみ(ゲインとバンドワイズ)などがあしらわれており、ブースト/カットの範囲やローパス/ハイパス・フィルターなどに特別なチューニングが施されている。

Standard Version(オープン・プライス:市場予想価格578,000円前後)
Mastering Version(オープン・プライス:市場予想価格680,000円前後)

President Interview
エヴァンナ・マンリー

常に時代に求められる製品作りを心掛けています
Interpretation:Mariko Kawahara

サウンドとデザイン、共に洗練されているMANLEYの製品。その理念と物作りにかける情熱について、同社社長であるエヴァンナ・マンリー氏に聞いた。

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─ MANLEYのアウトボードは、どのようなサウンドを狙っているのでしょうか?
マンリー  何十年にもわたって数々のマスタリング・スタジオとかかわってきた私たちは、極めてニュートラルなサウンドを目指しています。一番のこだわりは、優れたサウンドを追求し続けることです。

─ 時代に合わせた内部機構の変更はしていますか?
マンリー  はい、常に時代に求められる製品作りを心掛けています。例を挙げるなら、コンピューター・ベースの音楽制作が普及したことによる改良です。アナログ機材はミスマッチがあるものですが、若いクリエイターからはコンピューターのような精密さを求められますから。

─ どのようなことを変更したのか教えていただきたいです。
マンリー  かつてのStereo Variable Mu Limiter Compressorにはステレオ・インプットの可変抵抗器が装備されていて、所定のダイアル地点でどちらかのチャンネルが2dBほど大きくなることがあったんです。それを改良してほしいとのご要望をいただいたので、トラッキング・エラーが最悪でも1dBにとどまるように、ポットのマッチングを始めました。それから数年たつとそれでも不十分という意見をいただいたので、ポットを分解して2つの要素を再度マッチングさせて、誤差を0.5dBに向上させました。その後、もっと精密にしてほしいという声があったので、ついにデュアル・ポットを誤差1%の精度を持つレジスターのスイッチに変えたのです。

─ サウンド面にかかわる仕様の変更はしていますか?
マンリー  もちろんです。近年の新製品で導入したスイッチング電源は、近年のMANLEYにおいて最も重要な革新でした。きっかけは世界で最も重要なオーディオ・デザイナーの一人である、ブルーノ・プッツェイス氏と親交を持ったことです。彼はスイッチング電源やクラスDのパワー・アンプの専門家で、私たちは真空管に使えるスイッチング電源の開発を彼に頼みました。プッツェイス氏とそのチームが開発したパワー・サプライは、MANLEYに奇跡をもたらしました。私たちがかつて使用していた古いリニア・サプライよりも優れているスイッチング電源を開発してくれたのです。

─ なぜ電源部の改良が必要だったのでしょう?
マンリー  ノイズ対策のためです。スイッチング電源を搭載したユニットには、もうハム・ノイズは存在しません。

─ 製造工程についても聞かせてください。どれくらいのペースで製品を製造しているのですか?
マンリー  販売実績と予測に基づいて全機種の年間製造プランを立てて、1年間のマスター・スケジュールを組みます。絶えず製造されている製品もありますが、Stereo Variable Mu Limiter CompressorとMassive Passive Stereo Tube EQは1カ月おきに生産していますよ。

─ 自社で製造している部品はありますか?
マンリー  たくさんあります。オーディオ・トランスフォーマーとチョークの設計、および製造はすべて社内で行います。どんな製品にとっても最も重要な構成要素のオーディオ・トランスフォーマーの製造はとても大変です。ワイヤー・ハーネスの前処理と組み立ても社内で行っています。

─ 筐体はどのように作っているのでしょう?
マンリー  弊社の近隣にある協力企業が、森精機という日本の会社のCNCスライス盤を使って、ロービレット・アルミニウムから作っています。その機械は1990年後半までMANLEYが所有していたのですが、現在は彼らに売却してパーツを作ってもらっています。MANLEYでは機械/レーザー彫刻やメタル仕上げ、磨き、そしてライン・グレイニングを行い、細部にまで非の打ちどころの無い外観に仕上げているんです。

─ 多くのパーツ製造や組み立て工程を社内で行うことで、クオリティ・コントロールをされているのですね。
マンリー  検査も厳密に行っていますよ。出来上がった製品は必要に応じて調整がされた後、数日間の可動試験を行い、その後も2度再検査を実施します。それから梱包されて、日本も含めた世界中への出荷準備が整うのです。

最後の一味を加えるのに
最高のスパイスです

suzuki

User Report
鈴木Daichi秀行
Photo:Yusuke Kitamura

ここからはMANLEY製品のポテンシャルについて、実際に日々使用しているプロフェッショナルに伺っていこう。Stereo Variable Mu Limiter Compressor(マスタリング・バージョン)とMassive Passive Stereo Tube EQ(通常&マスタリング・バージョン)を所有する鈴木Daichi秀行氏に、MANLEY愛を語ってもらった。

12年前に自身のスタジオ、STUDIO CUBICを設立した鈴木氏。その2年後からMANLEYの製品を使用しており、制作に欠かせない存在になっている。MANLEYの製品で初めて購入したのは、Stereo Variable Mu Limiter Compressor。現在使用しているのは4年前に購入した個体で、これが7台目になるという。
 「製造時期によって内部のパーツや基板が変わっているので、サウンドが違うんです。なのでさまざまな年式のモデルを試しましたが、昔のモデルより今のモデルの方がハイファイなサウンドで、ノイズも少ないです。現代のプロダクションに使うなら、新しいモデルがお薦めですね

Stereo Variable Mu Limiter Compressorは、主に2ミックスにかけるステレオ・バス・コンプの前段に使用することが多いそうだ。
 「基本的にリカバリーはFAST、アタックはSLOWに振り切り、ハイパス・サイド・チェイン・フィルターをオンにして使っています。リダクション量は1~1.5dBくらいです。Stereo Variable Mu Limiter Compressorはコンプレッション感が薄く、サウンドに自然な厚みが付加できます。音色というより音圧の変化といった感じで、実が詰まって大きなサウンドになるんです。かかり具合は非常にナチュラルで、高域が痛くなりません」

高域の特性についてはMassive Passive Stereo Tube EQでも同様の印象だという。
 「高域をブーストしても耳に痛いサウンドになりづらいんです。ハイエンドがなだらかに伸びて、リッチな空気感が出てきます。低域と高域のコントロールに使うことが多いのですが、細かくイコライジングするよりも、感覚的にザックリ使う方が向いているように思いますね。Massive Passive Stereo Tube EQは、気持ち良いところが自然に上がってくれる、音楽的なEQです

Massive Passive Stereo Tube EQの通常バージョンとマスタリング・バージョンの違いについても聞いた。
 「どちらもしっとりとした質感ですが、マスタリング・バージョンの方がナチュラルです。最大のゲイン幅が通常バージョンが±20dB、マスタリング・バージョンが±11dBなので、レコーディングで積極的に音作りをするときは通常バージョンを使っています」

どちらも長年使用してきた中で、MANLEYのアウトボードには共通する良さがあると氏は語る。
 「ほかのブランドの製品だと破たんしてしまうようなプロセッシングでも、MANLEYのアウトボードだと音楽的になるので、数値を気にせずつまみを回せるんです。例えるならギター・アンプのような感じで、クリエイターにも扱いやすい機材だと思います。最後の一味を加えるのに最高のスパイスです」

問い合わせ先:フックアップ ☎03-6240-1213 https://hookup.co.jp/

201911

サウンド&レコーディング・マガジン2019年11月号より転載