
AVID Pro Toolsユーザーに、仕事で使う道具としてのPro Toolsについて語っていただくこの連載。今回は東京・恵比寿にあるコンテンツの総合制作会社、ジーアングルを訪問した。同社ではナレーション/吹き替え収録やMAに使えるスタジオを設けており、AVID Pro Tools|HDXを導入している。チーフ・エンジニア/ディレクターの中山誠一氏にお話を伺った。
ハイファイなマイクプリを導入し
最高のクオリティを求めたスタジオ
ジーアングルの設立は2002年。現在は映像制作やイラスト制作、Webサイト制作など、総合コンテンツ制作を業務としている同社だが、もともとはケータイ用着メロ制作からスタートしたという。メロディの代わりに声を再生する“着ボイス”の制作を行うために、当時の本社にスタジオを設置。2012年には現在の恵比寿に本社オフィスを移転した際、さらなる業務拡張に対応できるよう、音声収録からMAまで対応できるA-Studioと、ワーキング・ルームであるB-Studioを社内に設けた。当初からPro ToolsをDAWとして使用し、コントローラーにはAVID D-Command ESを採用していたという。もともとエンジニアであった中山氏は、そのスタジオを有効に稼働させるために同社に加わったそうだ。
「そのころ、スマートフォンが普及し、LTE(4G)回線が出てきたことで、ソーシャル・ゲームに声をつけようという流れが出てきました。もともと着ボイス配信を手掛けていた取引先が、ソーシャル・ゲーム制作に移行していて、弊社でもソーシャル・ゲームの音声を手掛けるようになりました」
中山氏は着任早々、このスタジオのアップデートに着手したという。
「クライアントの立会いを考えて設計されているので、コントロール・ルームが理想的な形状よりも横長になっています。モニター環境として判断が難しい部分があったので、まずはそこから手を付けました。REAL SOUND LAB Coneq APEQ-2 Pro DIOで補正し、インプットやアウトプットの主要部分にOYAIDEのケーブルを導入することで、音の良しあしをジャッジできる環境が整ったので、そこからアップデートを重ねていきました」
A-Studioの機材セレクトでポイントとなっているのは、GRACE DESIGN M101やSYM・PROCEED SP-MP2といったハイファイなマイクプリだ。
「最高のクオリティを目指すのが弊社の企業理念でもありますから、最高の音質を目指すべく導入しました。特にSP-MP2は中高域の密度の高さは随一だと思います。ただ、女性の声優の方で、もともと声の中高域の密度が高い方だと過剰になってしまいますので、その場合はM101を使いますね。M101をD-Control ESの上に置いているのは、突発的な音量変化に対応するインプット・フェーダーの代わりに、M101のTRIMノブを使っています。音量の変化量が大きくないので、コンプレッサーのインプット側で調整するよりやりやすいんです。SP-MP2の場合は、コンプの前にフェーダーを入れて調整しています」



各スタジオのPro Tools|HDXシステムには
必要十分なAVID製コントローラーを追加
さて、本連載の主題であるPro Toolsに関して言えば、このスタジオが完成した当初のPro Tools|HD3からPro Tools|HDXにアップデートしている。
「特にソーシャル・ゲームの場合は、アニメやドラマなどと違って収録したセリフがどういうシチュエーションで鳴るか分からないので、収録後にIZOTOPE RXでノイズを細かく除去するなどのポストプロセッシングをしています。そうした次の工程に渡す効率の意味でも、Pro Tools 11でオフライン・バウンスが可能になったのは大変大きなことでした。ただ、以前のPro Tools|HD3システムはPro Tools 10までの対応でしたので、そのタイミングでHDXに入れ替えました。DVDのMAなどで2時間分の書き出しをする際にもオフライン・バウンスは便利ですね」
その後、ジーアングルでは2014年にANNEX、2016年に“離れ”というMAスタジオを増床。それぞれPro Tool|HDXに加え、C|24、S3+Pro Tools|DockというAVID純正のコントローラーで稼働している。
「他社のコントローラーを兼ねたコンソールを入れようかという話も挙がりますが、コストをかけるのならもう少し全体のサウンドが向上する方向にしたいです。今使っているコントローラーはどれも導入時の現行品で、フェーダーとして必要十分なものだと思います」
そんなジーアングルの各スタジオ、基本的には自社利用が中心だが、レンタルにも対応しているそうだ。また、社内業務でもゲーム用セリフ収録以外の用途に使われることも多いと中山氏は語る。
「例えばゲームから派生したキャラクターのドラマですとか、関連した楽曲のボーカル録音、制作している楽曲のミックスなどでスタジオを使うこともありますね。判断のできるモニター環境と、声の収録のクオリティに関しては間違い無いので、さまざまな用途に使用しています」
今後はA-Studioのさらなるモニター環境の向上なども検討していきたいとのこと。中山氏は「やはりスタジオにいらしたお客様に“こんな音は聴いたことがない”と思っていただけるような環境を常に追求したい」と結んでくれた。




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