音響設備ファイル Vol.59 LUXURIANT STUDIO

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美麗や肥沃といった意味を持つ語をその名に冠したLUXURIANT STUDIO。約3年前に麻布十番駅から徒歩1分の場所に造られた、比較的新しいレコーディング・スタジオだ。声優やアーティストのレコーディングをはじめMAも行っている同スタジオが、2つ目のコントロール・ルームとブースを新たに造ったと聞き、編集部は向かった。

Text:Yuki Nashimoto Photo:Takashi Yashima

 

古き良きブリティッシュ・サウンドを求めて

LUXURIANT STUDIOは、楽曲制作やMAなどを行うラッシュが運営している。代表の大竹マサカズ氏にスタジオを増設した理由を尋ねた。

「LUXURIANT STUDIOは社内の制作案件での使用に加えて外部への貸し出しも行っているのですが、従来からある1stだけでは賄い切れなくなってきたので、新たに2stを作ったんです。社内の制作案件で使っていた、編集用の部屋を改装しました」

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左からブッキングを行うサウンド・シティの明地権氏、レコーディング・エンジニアの川上章仁氏、LUXURIANT STUDIOを運営するラッシュで代表/サウンドディレクターを務める大竹マサカズ氏、アコースティックエンジニアリングの代表入交研一郎氏と、同社プランナーの山本真由氏

LUXIRIANT STUDIOはインテリアに特徴があり、かつてオアシスやブラーが使ったメゾン・ルージュ・スタジオ(現在は惜しくもクローズ)をリスペクトし、イギリスのアンティーク家具を多く配置。中には180年モノの椅子(!)という逸品もある。空間作りに対するこだわりを大竹氏が語る。

「居心地の良い空間はクリエイティビティを喚起するので、レコーディング・スタジオにおいて最も重要なことだと思っています。2stは1stでは実現しなかった“イギリスっぽさ”を演出するために、レンガの壁とヘリンボーン模様に組み上げたオーク材の床を使っています。ヘリンボーンの床は小さな板を一つずつ組み込んでいるので、普通のフローリングより良い乱反射が生まれているんじゃないかと思っています。ヘリンボーンの床を使ったレコーディング・スタジオはなかなか無いのではないでしょうか。すごく気に入っています」

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コントロール・ルーム内。レンガの壁とヘリンボーン模様に組み上げたオーク材の床は、大竹氏が特にこだわったポイントだ

部屋鳴りに求めたポイントも大竹氏に伺った。

「ブリティッシュ・ロックが映えるようなファットな響きを得るために、ある程度響きを残したルーム・チューニングをしてもらいました。徹底的に吸音するより、その方が制作中のテンションが上がりますよね。ブースは言葉が聴き取りやすい程度の響きに抑えてもらいました」

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2stのブース。エンジニアとプレイヤーのコミュニケーションを大切にしたいという意向で、コントロール・ルーム側の壁にガラス窓を取り付けた。セッティングされているマイクはANTELOPE AUDIO Edge Duo。1stで使用しているSONY C-800GやNEUMANN U87AIをエミュレートして使うことが多いそうだが「エミュレート無しのサウンドも気に入っています」と大竹氏。座りながらの収録にも対応できるよう、右端にアンティークの椅子を用意している

 音響設計を担当したのはアコースティック・エンジニアリング。同社代表の入交研一郎氏は「音楽の仕事をされている方は、潜在的に内装のビジュアルと響きの好みがリンクしていることが多いです。見た目は好きだけど響きは嫌い、というパターンは少ないですね」と話す。 

「例えば古レンガのルックスが好きな人は、古レンガに反射したサウンドが好きなことが多いと僕は考えています。なので希望している内装のイメージをヒアリングして、そこから部屋の響きをコーディネートしていくんです。さまざまなマテリアルを使いたいという大竹さんの嗜好は、僕の設計面でのコンセプトとマッチしていました。いろいろな素材が壁に使われているとさまざまな響きが生まれ、音響的に良い結果が得られると僕は思っています。吸音にはグラスウールを入れたファブリックを採用しました」

 

小さなマシン・ルームをスピーカー台の下へ

このスタジオのトピックは、ディスプレイの奥に設置したスピーカー台だと入交氏が教えてくれた。

「コントロール・ルームはスピーカー・スタンドを設置すると空間が圧迫されてしまう広さだったので、ディスプレイの奥にスピーカー台を設けました。表面には木材が使われていますが、内面は共振防止のためにプレキャスト・コンクリートを埋めているんです。このスピーカー台にはさらに工夫があって、下に収納スペースを設けています。左側にはオーディオI/Oやコンピューター、右側にはマイク用のデシケーターが入っているんです」

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限られたスペースを有効活用すべく設けられたスピーカー台は、表面が木材、内面はプレキャスト・コンクリートで作られている。スピーカーはニアフィールド・サイズのYAMAHA HS7(写真外側)とGENELEC 1029A(同内側)を選んだ

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スピーカーの下は収納スペースになっている。AVID HD I/Oなどをキャスター付きのラック内に設置

この収納スペースは音響的な恩恵ももたらしてくれていると大竹氏は話す。

「コンピューターを外に出しているとシャーシ類が発するファン・ノイズの駆動音が気になるのですが、この収納スペースに入れると全く聴こえなくなるので作業に集中できます。小さなマシン・ルームですね。もちろん空調も引き込んであります。限られた空間の中で、入交さんにはさまざまな工夫を提案していただきました」

 

スピーカー台にはYAMAHA HS7とGENELEC 1029Aがセッティングされている。これらの採用理由を大竹氏はこう語る。

「コントロール・ブースの広さを考えて、ニアフィールド・スピーカーを選びました。メインで使用しているHS7は、想像していたよりクリアでハイファイなサウンドで驚きましたね。すごく気に入っています。1029Aは1stでもGENELECのスピーカーを使っていたので置きました。張りのあるサウンドが好きですね」

 

DAWはAVID Pro Tools|HDXで、オーディオI/OにはAVID HD I/Oを採用。メイン・デスクの左側には2chマイクプリ+EQのAURORA AUDIO GTQ2 Mark IIIや、コンプレッサーUREI 1176LN(Rev.H)などを収めたラックを設置している。2stの機材選定を行ったのは、大竹氏の制作案件に携わるエンジニアの川上章仁氏。中でもGTQ2 Mark IIIは、ブリティッシュ・サウンドに欠かせないと川上氏は言う。

「ビンテージNEVEの野太い中低域までは求められませんが、ガッツがあってオールマイティに使える良いマイクプリだと思います。さすがNEVEの歴史に深くかかわってきたジェフ・タンナーさんが手掛けたモデルですね。LUXURIANT S
TUDIOのレコーディングは歌録りがメインなのですが、2chあればアコギやシンセの収録で役立つと思い、2chのモデルを選びました」

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デスク左側にセッティングされたラック。上からFURMAN PL-Plus DMC J、PR ESONUS Central Station、AURORA AUDIO GTQ2 Mark III、UREI 1176L N(Rev.H)、TASCAM BD-01U

 ブッキングを請け負うサウンド・シティの明地権氏が、LUXURIANT STUDIOの良さについて語る。

「特に東京のレコーディング・スタジオはエンジニア視点が強くなりがちだと思っているのですが、LUXURIANT STUDIOは大竹さんが徹底的に使い手の目線に立って造った空間です。ミュージシャンにとって“良い作品が生まれそう”と思える場所でレコーディングできるのがベストでしょうし、ここはまさにそのような場所。間違いなく満足してもらえるレコーディング・スタジオだと思っています」

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コントロール・ルームの出入口。扉(手前)もイギリスのアンティークという徹底ぶりだ。この扉はアコースティックエンジニアリングによってマグネット・パッキンが取り付けられ、遮音性を高めたスタジオ仕様となっている。大竹氏いわく、ステンド・グラスは共振しない。右側にはスライダックの調光器が見える。新しいスタジオにはあまり使われないタイプのものだが、大竹氏はデザイン性を重視して導入。「スライダックの調光器は一般的な位相式の調光器に比べ、光量を変えたときにノイズが出ないメリットがあります」と入交氏が解説してくれた

 

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