クリーンな音色を実現する EHRLUND三角形振動板マイク

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マイクで最もシンボリックなパーツといえば、グリルから姿をのぞかせる丸いフォルムの振動板(ダイアフラム)であろう。EHRLUNDは三角形の振動板を採用する、スウェー デンの先進的なマイク・ブランド。この三角形振動板により余分な振動を軽減させ、クリーンな収音を実現するという。一般的なマイクとは異なるコンポーネントが投じられた EHRLUNDのマイクは、いったいどのようなサウンドなのだろうか? レコーディング・エンジニア加納洋一郎氏 による5機種のレビューを通して、その魅力に迫ろう。

 

REVIEWER:加納洋一郎

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ミキサーズラボを経てフリーのエンジニアに。LM.Cやシシド・カフカ、GILLE、土岐麻子などの作品を手掛けてきた。映画やBlu-rayのサラウンド・ミックスもこなす

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 スウェーデンの小さな町、シリヤンスネースを拠点にするEHRLUND。音響エンジニアであるヨラン・アーランド氏が1980年代に開発した三角形振動板(トライアングル・カプセル・メンブレン)を製品化すべく、電気回路の設計などを行う会社RESEARCH ELECTRONICSが2005年に立ち上げたマイク・ブランドだ。EHRLUNDの主要スタッフはプロダクション・マネージャーとディベロッパー、テクニシャンから成る計6名で、全製品の開発から製造までをスウェーデンのEHRLUNDで行っている。手作業で電子回路を選別し、ステンレス鋼製のメッシュと航空機グレードのアルミニウムで作られた筐体にパーツを組み込む。

 

 中でもEHRLUNDのマイクで特別なコンポーネントが、先述のヨラン・アーランド氏が開発した三角形振 動板。三角形の開口部を設けたベース・プレートで円状の振 動板を挟み込むことにより、音声をとらえる面を三角形にしている。金属はベルやゴングのようなラウンド形状より、トライアングル形状の方が残響が少ないことに着目し、開発された構造だ。実際にトライアングル形状はラウンド形状に比べて残響が75%少なく、この三角形振動板によってクリーンでトランジェントに優れた音色を実現した。さらに数μmという極めて薄い素材を採用することで、レスポンスの速さも獲得している。

 

 独自のパーツは振動板だけではなく、内蔵のプリアンプにも及ぶ。スウェーデンの物理/電子工学の研究者スヴェン=オーケ・エリクソン氏によって開発されたプリアンプはフラットでクリアな音色を持ち、すべての個体で位相特性を一致させる。これによりステレオ・マッチングが不要なことも、EHRLUND製マイクの優れている点として挙げることができる。(Text:編集部)

 

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音響エンジニアのヨラン・アーランド氏。1980年代 に三角形振動板は彼によって既に開発されていた

EHR-M

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オープン・プライス(市場予想価格:213,000円前後)

EHRLUNDを代表する、トゥルー・カーディオイドのコンデンサー・マイク。現代の音楽制作に適応すべく作られたEHR-Mは、低ノイズかつ高感度で、高い出力レベルを誇る

 

Review:EHRLUNDの哲学を象徴するマイク
 EHRLUND製マイクのアルミ製ボディには、スパルタンなかっこ良さを感じる。ポピュラーなコンデンサー・ マイクNEUMANN U87AI(20Hz~20Hz)と比べ、EHR-M(7Hz~87kHz)は驚くほどハイスペックだ。ドラムのオーバー・ヘッドとカルテットのルーム・マイクとして使ってみると、リボン・マイクに似た温かみがありつつクリアな質感。ピーク感とは無縁のスムーズな音色で、特にストリングスの生々しさとバランスの良さは驚いた。出力レベルが高いため、弱音楽器でも距離を保ちつつクリアに収録できる。(加納洋一郎)

 

SPECIFICATIONS
▪指向性:トゥルー・カーディオイド
▪周波数特性:7Hz~87kHz
▪最大入力音圧レベル:122dB
▪外形寸法:155(H)×60(φ)mm
▪重量:340g

 

EHR-D

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オープン・プライス(市場予想価格:123, 000円前後)

EHRLUNDの中で最も小さく軽量で、かつ耐久性に優れたのコンデンサー・マイク。ライブでの使用も想定し、ダスト・フィルターや丈夫なシャーシなどがあしらわれている

 

Review:リアルな響きで収音するドラム向き機種
 小ぶりな形状から想像できるように、ドラムなど音圧の高い楽器を収音できるようにデザインされている。スネアに立ててみたところ、皮の響きがリアルに伝わってくる。中域の張り出し感を持ちつつも耳触りな感じがないため、EQでの補正は不要だった。EHR-M1と合わせて複数本でドラムを録りたいと思わせる良いサウンドだ。“気持ち良くたたけるリアルな音がする”と演者からも好評。プレイヤーのパフォーマンスを大いに引き出してくれるマイクと言えよう。出力が大きいため、マイクプリによってはひずまないように注意。(加納洋一郎)

 

SPECIFICATIONS
▪指向性:カーディオイド
▪周波数特性:7Hz~87kHz
▪最大入力音圧レベル:137dB
▪外形寸法:72(H)×53(φ)mm
▪重量:170g

 

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▲スネアのトップ側にEHR-Dを立てている様子。リアルな質感で、モニターしているプレイヤーからもたたきやすいと好評であった

 

EHR-M1

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オープン・プライス(市場予想価格: 213,000円前後)

ドラムなどマイクの設置に制限がある場合にも使えるよう、EHR-Mを小型にしたコンデンサー・マイク。ダスト・フィルターを内蔵し、高い耐衝撃性を持たせている

 
Review:EHR-Mを小型にしたライブ対応マイク
 EHR-Mをコンパクトにして、耐久性を上げたライブ向きのモデル。今回はスタジオでマリンバに立ててチェックしてみた。マリンバはアタックが強い楽器なので、同じ距離に立てたポピュラーなスタジオ用コンデンサー・マイクでは良くも悪くも中域がキンキンした音になってしまったが、EHR-M1は低域の膨らみも加味されて生音に近く、ちょうど良いレンジ感でキャプチャーできた。EHR-M が持つ温かさもしっかり継承されている。この音質がレコーディングのみならずライブでも扱えるのは素晴らしく思う。(加納洋一郎)

 

SPECIFICATIONS
▪指向性:カーディオイド
▪周波数特性:7Hz~87kHz
▪最大入力音圧レベル:122dB
▪外形寸法:95(H)×53(φ)mm
▪重量:185g

 

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▲EHR-M1。アタック感の強いマリンバでも嫌なピークが付くことなく、低域のふくらみも加味されて生音に近い音色でキャプチャーできた

 

EHR-T

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オープン・プライス(市場予想価格: 350,000円前後)

EHR-Mのデュアル・カプセル・モデル。前面と背面の三角形振動板は付属のケーブルを用いて個別に出力でき、それぞれの音量や位相を変えることで指向性をコントロールできる

 

Review:デュアル・カプセルの可変指向性モデル
 一見EHR-Mと同じEHR-Tは前面と背面に2つのカプセルを搭載しており、それぞれを付属のXLRケーブルで個別に出力できる。収録後にそれらのレベルや位相を調節して、指向性を変えられるのが特徴だ。実際にブラスのアンビエンス・マイクとして使ってみた。EHR-Mと同じカプセルを使用しているため音色は同様。楽曲対して広めに表現したければオムニにしたり、タイトにしたければ背面のカプセルで収録したトラックを下げるなど、トラック・ダウン時に表現を細かく調整できるのは非常に興味深い。(加納洋一郎)

 

SPECIFICATIONS
▪指向性:カーディオイド/スーパー・カーディオイド/バイダイレクショナル/オムニ・ダイレクショナル
▪周波数特性:7Hz~87kHz
▪最大入力音圧レベル:122dB
▪外形寸法:155(H)×60(φ)mm
▪重量:350g

EHR-H

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オープン・プライス(市場予想価格: 90,000 円前後)

三角形振動板を装備するハンド・ヘルド型コンデンサー・マイク。レコーディングにはもちろんライブ・ユースでの使用も想定し、最大入力音圧レベルが高めに設計されている

 

Review:言葉が聴きやすい高域とボディ感のある低域
 ライブを意識してか黒のつや消し塗装が施されており、グリップ部分は細身で手に収まりやすい形状。ライブでの使用を想定した近年のマイクは高域上がりなモデルが多いと感じているのだが、EHR-Hはそれらと一線を画す仕上がり。言葉が聴き取りやすいクリアな音色を持ちながらも、声のボディ部分を押し出す低域も有する。声を張ってもひずみ感や中高域の破綻はなく、そのまま素直に出力してくれる。ダイナミック・マイクではゲイン・コントロールが難しかった声量の低い歌手も、出力レベルの高いEHR-Hなら扱いやすそうだ。(加納洋一郎)

 

SPECIFICATIONS
▪指向性:カーディオイド
▪周波数特性:7Hz~87kHz
▪最大入力音圧レベル:136dB
▪外形寸法:152(H)×53(φ)mm
▪重量:272g

 

Total Impression 加納洋一郎

 EHRLUNDのマイク群は、温かい質感のコンデンサー・マイクを探している人にぜひ試してほしい。コンデンサー・マイクであるが、どこか現代的なリボン・マイクのような質感が特徴だ。総じてクリアなのに自然な音色で、温かみのある低域の押し出しがある。出力レベルが非常に大きいのも魅力的なポイント。ハイレゾ音源に対応するためにマイクの周波数帯域がワイド・レンジに作られている昨今、周波数特性7Hz~87kHzを誇るEHRLUNDのマイクは、今後さらに注目される可能性を秘めたマイク・ブランドのように思う。
 
 
■EHRLUND製品に関する問合せ:オタリテック

http://www.otaritec.co.jp/products/ehrlund/