今月から執筆させていただくことになりました作編曲家のShotaroと申します。ずっとこのコーナーに憧れていましたので、お話をいただけてとても光栄です! 僕は主に作編曲、ギタリスト、レコーディング、ミックス、マスタリング、Dolby Atmosミックスで活動しています。また、プロデューサーというスタイルでアーティスト活動もしています。これらの作業をすべてPRESONUS Studio One(以下S1)でやっていまして、今回はS1の好きなところをお伝えしたいと思います。何卒よろしくお願いします。
ソフト音源の“大きすぎるデフォルト音”を簡単に調整できる入力コントロール機能
S1導入のきっかけは6年くらい前、僕がまだ学生だった頃にお世話になっていた音楽プロデューサーの方にお薦めしていただいたことです。それからずっとS1を愛用しています。もともとは他のDAWのユーザーだったのですが、そのDAWのショートカットがS1のテンプレートにあって、一瞬でショートカット設定ができたため簡単に移行することができました。また、動作が軽かったりCELEMONY Melodyneとの連携性が高かったりと、いろいろな操作が直感的に行えるので、とても感動したのを覚えています。
音楽を作る上で、作曲やミックス、マスタリングなどの作業は、すべて何かしらでつながっていると考えていまして、それらをトータルで妥協なくシームレスに行えるのがS1のメリットだと思っております。
S1には、決して派手ではないものの、便利な機能として“入力コントロール”があります。入力ゲインを上げたり下げたりできる機能、という至ってシンプルなものですが、どんな場面で活躍するのでしょうか?
例えば、最近のソフト・シンセはデフォルトやプリセットの音量が大きいことが多く、エフェクトをインサートすると意図しない方向でプラグイン内でピークを超えたり、ひずんだりすることがあります。そのときにエフェクトの入力ゲインやシンセの出力ゲインを下げるのですが、ソフトによっては入出力の操作がやりにくかったり、プリセットを変えたら入出力の設定が戻ったり変わったりすることがあります。ですが、この入力コントロール機能を使うと一発で解決します。
まずは、ミキサーの左側にあるスパナ・マークをクリックして“入力コントロール”にチェックを入れます。
あとはインサート欄の上に出てくるゲイン・ツマミを任意の値にするだけなので、わざわざプラグインを開いて入出力ゲインを調整したり、プリセットを変えるたびに確認したりという必要がなくなります。また、アウトボードをシミュレートしたエフェクトは、実機と同じく入力の大きさで挙動が変わるものもあるので、それを意識した使い方も可能。ミックスの時短ツール、音作りに命をかけるトラック・メイキング・アプローチが1つのツマミでできる機能だと思います。こういう“あると地味にうれしい機能”を直感的に使えるS1は最高です。
“テイクのレイヤー化”を応用し意外性のあるギター・フレーズを作る
“レイヤー”という、レコーディングでおなじみの機能があります。よくある使い方は、複数のテイクからベストなものを選択するというものですが、ギターなどのフレーズ作りにも応用できます。
まずはソング画面下部の録音パネルにて、歯車マークをクリック。それから画面左側の“テイクをレイヤー化”にチェックを入れます。以上でレイヤーの設定は完了です。
続いてはフレーズの録音。ループ範囲を指定して繰り返し録っていくと、自動でテイクのレイヤーが生成されます。
仮に4本のテイクを録ったとして、それぞれから面白い部分を選択してみましょう。ここはもう、センスで選んでいけばよいと思います。すると、選択した部分をオーディオ・トラックで1本につなぐことができますので、新しいフレーズが出来上がるわけです。
人間の演奏では難しいフレーズ、もしくはグリッチやカットアップとは違ったアプローチを実践でき、今の音楽シーンにマッチした使い方かなと思います。その後、S1とMelodyneの親和性を利用してタイミングを編集したり、あえてピッチを変えたりしてフレーズを追い込んで、オリジナリティ・マックスの最強フレーズを簡単に作ることができます。僕自身、洋楽系の音楽やダンス・ミュージックを作ることが多いので、インパクトのあるフレーズを作る方法の数や、よりタイトに追い込むためのタイミング・エディットまでの道のりがとても大事です。なので、このようにフレーズ作り~エディットまでがサクッとできてしまうのは、いつも助かっています。
アウトボードとのルーティングも含め保存/呼び出しできるトラックプリセット機能
S1には、アウトボードを持っている方にうれしいPipeline XTというプラグインが付属しています。
これは、オーディオI/Oを介して、アウトボードへのセンド/アウトボードからのリターンをルーティングするためのもの。アウトボードを使用したミックスで、どうしても発生してしまうのがレイテンシーです。Pipeline XTを使えば、そのレイテンシーを補正することができてとても便利。ほかのDAWにも同様のプラグインが備わっていますが、Pipeline XTではレイテンシーの補正をグラフィカルに目視できる上、アウトボードの写真を貼りつけることができたり、必要事項をメモしたりすることも可能です。
そして、まだまだあるS1の魅力。バージョン6から実装された“トラックプリセットの保存”も、その1つです。
これは、複数のトラックの設定を保存できるというもの。例えば、ボーカルや各種楽器のトラックにPipeline XTを挿し、それぞれの入出力を設定した状態で保存しておくと、それをいつでもリコールさせることができます。つまり、アウトボードもプラグインのような感覚で、事前にルーティングを組んだ状態から作業を始められるわけです。アウトボードを取り入れた音作りをしながらサクサク曲を書けて、ミックス時はピッチやタイミングのエディットも並行して行える。このシームレスさがS1ならではの良さかと思います。
今回は、各工程を“1つのつながった作業”として行える面にフォーカスしました。次回は、最新のバージョン6.5で実装されたDolby Atmos向けの機能について紹介します。
Shotaro
【Profile】作編曲家/ギタリスト/音楽プロデューサー。学生時代に音楽プロデューサーに師事し、作家事務所で数々のアーティストに楽曲提供を行い実績を積む。その後、日本人が作る音楽のかっこよさを世界に発信したいというコンセプトのもとで作編曲、ミックス、イマーシブ・ミックスを自身で行って表現するアーティストとして活動中。これまでに鷲尾伶奈「Call Me Sick」(映画『小説の神様』主題歌)の作曲/編曲/ギター、中西圭三「BABY」の編曲/ミックス、舞鶴よかと「ばってん!ふくおか!よかろうもん!? 」の作曲/編曲/ギター/ベースなどを手掛けてきた。
【Recent work】
『Without You』
Shotaro & Mimi
PRESONUS Studio One
LINE UP
Studio One 6 Professional日本語版:52,800円前後|Studio One 6 Professionalクロスグレード日本語版:39,600円前後|Studio One 6 Artist日本語版:13,200円前後
※いずれもダウンロード版
※オープン・プライス(記載は市場予想価格)
REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.14以降(64ビット版)、INTEL Core I3プロセッサーもしくはAPPLE Silicon(M1/M2チップ)
▪Windows 10(64ビット版)、INTEL Core I3プロセッサーもしくはAMD A10プロセッサー以上
▪共通:4GB RAM(8GB以上推奨)、40GBのハード・ドライブ・スペース、インターネット接続(インストールとアクティベーションに必要)、1,366×768pix以上の解像度のディスプレイ(高DPIを推奨)、タッチ操作にはマルチタッチに対応したディスプレイが必要