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Mitchie Mに学ぶ初音ミク NTの調声テクニック

Mitchie Mに学ぶ初音ミク NTの調声テクニック

ボカロPは、どのようにVOCALOIDなどの歌声合成ソフトを使いこなしているのか? 現役ボカロP7名がおすすめのテクニックを紹介。ここでは、Mitchie Mが調声テクニックを解説します。調声のビフォー/アフターを比較できる音源も掲載しているので、ぜひ参考にしてみてください。

初音ミク NTを使ってラップをリアルに演出する

◎使用ソフト:
DAW:
APPLE Logic Pro

エディター・ソフト:CRYPTON Piapro Studio NT
音例に使用したボイス・ライブラリー:CRYPTON 初音ミク NT

◎調声のビフォー/アフター:


Step❶ 『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』の人気に見られるように、近年のボカロ・シーンでもラップが広まりつつあります。僕は10年前からVOCALOIDでラップをやってきました。今回は初音ミク NTを使ったラップの調声方法を初披露したいと思います。まずはピアノロールに、ラップのリズムを打ち込みましょう。自分でラップを録音してみて、その波形を参考にしながらノートを打ち込むのもよいかもしれません

Step❷ エディター画面左端の“NT Parameters”から“Consonant Rate”をクリックし、それぞれのノートでConsonant Rateの値を設定しましょう。Consonant Rateは子音の長さを調声できる機能で、値が低いと子音の長さが短くなります。波形を見ながら子音を伸ばしたり縮めたりして、歌詞がはっきり聴こえ、リズム感が出るようなところを探してみてください

 僕の場合、普段からノートを子音と母音で分けて調声していますが、ここでは全体的に子音は長めに、母音は短めに設定するとラップらしいパーカッシブな感じが出るでしょう。

Step❸ ここからはラップ特有のピッチを付けていきます。ラップっぽく聴かせるコツは、母音の語尾を下げること。おおよそのイメージとして、ノートの頭では2〜5度下くらいから基準となるピッチまで上がり、母音のところでは1オクターブくらい下げるといいでしょう。ここではノートを細かく切って、ラップらしいピッチになるように試行錯誤していきます。僕の場合、ノートはグリッドに関係無く、32分音符以下の間隔で切っています。最終的には耳で確かめて判断するのがベストでしょう。

Step❹ 次は鉛筆ツールでピッチカーブを描いていきます。青い線はもともとのピッチカーブで、赤い線は僕が手描きしたものです。ここでのポイントは、ピッチカーブがなめらかになるように描くこと。これでかなり自然なピッチ変化になって、リアルに聴こえるかと思います。あまり神経質になり過ぎず、大胆に描いてみてください!

Step❺ さらにリアルにするために、息継ぎが必要なところに“ブレス”のノートを入れましょう。ノートに“br1”と入力すると、ブレスが入ります。例えば、ここでは“調声法紹介、バリバリ学ぼう”という歌詞の、“しょうかい”と“ばりばり”の間にブレスを入れてみました(赤枠)。

Step❻ ここでもう一つ。画像を見ると分かるかと思いますが、ブレスの後に“m”と書かれたノートが“ばりばり”の直前に入っているのにお気付きでしょうか?(黄枠) この“m”のノートは“ん”と発音され、一瞬裏拍で鳴るように打ち込んでいます。同じように、その後に来る2回目の“ば”の前にも“ん”を入れていますが、こうすることによって“んばりんばりまなぼう”となり、ラップのリズムにグルーブが出せるのです(黄枠)。特に濁音の前に“ん”を入れると効果的。例えば“だけど”→“んだけど”という具合です。

Step❼ ここで若干ブレスが聴き取りづらく感じたので、ブレスの音を大きくします。エディター画面左端の“NT Parameters”から“Dynamics”をクリックし、画面下段のオートメーショントラックにて、該当するブレス・ノートの値を100%まで上げましょう(赤枠)。そのほかにも、歌詞で強調したいところに同じ処理をしてメリハリを付けます。“しょうかい”の“か(k)”、“ばりばり”の“ば(b)”などにDynamicsのオートメーションを描き、子音を強調しています(青枠)。

Step❽ ブレス音をさらにリアルにするために追加で“Breathiness”を用います。Breathinessは息成分を調整できるパラメーター。Dynamicsと同じく、エディター画面左端のNT Parametersから“Breathiness”をクリックし、現れたオートメーショントラックにラインを描いていきます(赤枠)。値を20%くらいにするとハイパス・フィルターがかったような音になるところが、個人的には好印象。EQ的なアプローチでBreathinessを使うのがお薦めです。

Step❾ ラップ上でアクセントを置きたいノートのアタックを強調します。ここでは、Piapro Studio独自機能であるE.V.E.C.の“Voice Color”というパラメーターを使ってみましょう。任意のノートにマウス・カーソルを置くと、そのノートの左上部分に“□”アイコンが表示されるので、これをダブル・クリックします(赤枠)。

Step❿ すると“ノートの設定”画面が現れるので、“E.V.E.C.”タブにある“Accent”にチェックを入れてOKを押しましょう。このノートのアタック部分に該当する波形が大きくなり、再生すると以前よりも音にアクセントが付いたかと思います。ちなみにこのノートをもっと柔らかく聴かせたい場合は、先ほどの“ノートの設定”画面で“Soft”をクリックすればOK。アタックが弱くなって聴こえます。

Step⓫ もしアタックが出すぎたと思った場合は、“Voice Voltage”で上げ下げして調整するのもよいでしょう。Voice Voltageは声の力み具合を制御するパラメーターです。Dynamicsと違って音量の上げ下げだけでは表現できない、声の力強さや柔らかさを演出できます。

 ほかの主要パラメーターと同じく、エディター画面左端のNT Parametersから“Voice Voltage”をクリックして、オートメーションを描いていきましょう(赤枠)。子音の部分は値を100%にし、母音の頭でそこから下がるように描くと、よりリズム感のあるラップに聴こえると思います。僕は全体的にデフォルトで20%くらいに設定しており、強調したいところだけ100%に上げるのが好みです。もしVoice Voltageが最大でも物足りなければ、Dynamicsを組み合わせて音量を上げてみてください。このようにいろいろなパラメーターを複数調整していくことで、よりリアルなラップのニュアンスが表現できます。

Mitchie Mからのアドバイス

Mitchie M

自身の強みや個性を生かした楽曲を作ってみるとよいでしょう

 ラップの調声テクニック、いかがでしたでしょうか? ラップらしさは母音のピッチが下がる感じだったり、歌詞のアタック感やアクセントを出すのが一番のポイント。初音ミク NTやVOCALOID自体が、そもそもラップをすることを想定して作られていないので手間がかかるかもしれませんが、細かく打ち込めばリアルな表現が可能です。ぜひ今回のテクニックをまねしてみてください。

 僕はボカロPとしてデビューした当初、調声テクニックにおいて注目された部分があります。なので、自分にしかできない何かを見つけることが大切だと思っています。トレンドなどに左右されない、あなた自身の強みやオリジナリティを生かした楽曲を作ってみるとよいでしょう。

Mitchie M
【プロフィール】2011年『FREELY TOMORROW』がVOCALOIDを使った楽曲としては当時最速の100万回再生を達成。また安室奈美恵『B Who I Want 2 B feat. HATSUNE MIKU』で作詞と調声を手掛けるなど、調声技術に定評がある。

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