2010年よりネット・ミュージックのシーンにおいて活動を始め、ボカロPとして「ロキ」や「いーあるふぁんくらぶ」などのヒット曲をリリースしてきたみきとP。ボカロ曲制作のほか、自身で歌唱するライブや楽曲提供なども行い、マルチに活動している。住宅地の一角にあるプライベート・スタジオを訪ね、音や楽器へのこだわりについて話を聞いた。
内装は旧邸や昔の裁判所をイメージ
2年前に新居を構えるにあたり、昔からの夢でもあったプライベート・スタジオを作ったという。
「内装は、旧邸や昔の裁判所みたいなものをイメージしています。昔ながらのレトロな喫茶店などがすごく好きで。これは多分、中学のときにレッド・ツェッペリンから音楽にのめり込んだからじゃないのかなと。自然と、“自分の基地はレトロっぽくしたいな”と思っていたんです」
かつては、防音の賃貸で試行錯誤しながら音楽制作ができる環境を構築していたというみきとP。部屋の形から設計することのできた現在のスタジオには、良い音で制作をするためのこだわりが詰め込まれている。
「部屋の形は、正方形だと音が回りやすいので長方形にして、角の部分は90度にならないように斜めにしてあります。実際にスタジオを使っていて、音の反射が気になると思ったところには自分で吸音材を張って、かなりデッドな空間にしました。一番効果を感じたのはTRINNOV AUDIOの音場補正プロセッサーですね。入れると入れないとじゃ全然違います。奥行きや臨場感が生まれて、説得力のある音にすることができるんです。ここに至るまでにいろいろなことを試してきたのですが、いったんこれで良いだろうというところまで落ち着きました」
環境に対しての言い訳ができないようにした
このスタジオは楽曲制作以外に、歌やアコースティック・ギター、エレキギターなどのレコーディングもできるようになっている。しかし、あえて外のスタジオに録りに行くこともあるそうだ。
「ここで録るか、外で録るかは気分で決めています。僕はずっと一人で音楽をやってきたので、誰かと一緒に音楽をやるのが楽しくて。このスタジオでできることでも、あえて外のスタジオで録ることもあるし、“どうすれば曲作りに対して前のめりになっていけるか”というのを考えて、楽しい方を選んでいきたいと思っています。同じことを繰り返していても飽きちゃうし、それが曲にも出てしまうんです」
部屋の一角にはエレキギターやアコースティック・ギター、ベースなどが並んでいる。「最近はCREWS MANIAC SOUNDのギターやベースがすごく弾きやすくて好きです。DANELECTROのギターも弾いていて楽しい。アコギはGIBSONのものが好きで、何本か持っているのですが音が違うので使い分けています」と、みきとP。楽器好きであることがよく伝わってくる一方で、「極論、曲が良ければギターは1本でもよいんです」と語る。
「身も蓋もないことを言うと、“この曲のギターがシングル・コイルからハムバッカーのギターになったところで誰が気にするのか?”と思うこともあるんです。でも、曲を構成していく要素として、何かこだわりを持って楽器を変えていくっていうのが音楽の楽しいところであり醍醐味というか。それでいろいろと変えていますね。また、やりたいことを突き詰めることで自分の中の自信や充実感が生まれると、発信する側としてのテンションも変わってくると思います。たとえ聴きわけることができなかったとしても、“良いものができたんで聴いてください!”っていうテンションになった方が良いと思うので。そういうテンションはリスナーの方に伝わると思います」
エレキギターは、さまざまな録り方をするとのこと。
「アンプ・シミュレーターを使うときも、アンプにマイクを立てて録ることもありますし、アンプからUNIVERSAL AUDIO OXを通してラインで収録するというのも選択肢としてありますね。シミュレーターはものすごく進化していて、マイクで録ったのものと違いが分からないレベルまで来たんじゃないかと思います。NEURAL DSPのArchetype: Cory Wongや、Tone King Imperial MKIIは、音も良いですし、自分が良いなと思うところに素早く行けるので、めちゃくちゃ好きです。UNIVERSAL AUDIO UAFX Dream '65 Reverb Amplifierもすごく良くて、最近はAURORA AUDIO GTQ2を通して録音しています」
今後スタジオをアップデートさせたいところはあるかと尋ねると「例えば“エレキギターをアンプ録りする際にもっとスムーズにする”など、使い勝手の面ですね」とのこと。音の面ではいったん満足できる環境を構築できたので、この1年は自分のやるべきことについて深く考えていたそうだ。
「音について勉強していろいろやってきたものの、作曲のことにもっと着目しないといけないような気がしていて、最近はいったん落ち着かせています。そこに時間を割きすぎていると、じゃあ肝心の曲は?っていう話になってくると思うんです。なので、この1年は曲そのものについて考える1年だったなと思います。最高にクリアで雑味の無い音だったらすべて良いのかって言われたらそうでもない。それでも音に対してこだわったのは、今の環境に対しての言い訳ができないようにしたっていうのもあるかもしれないですね。あとは良い曲を作っていくのみです」
Equipment
DAW System
Computer:APPLE iMac Pro
DAW:STEINBERG Cubase Pro 12
Audio I/O:UNIVERSAL AUDIO Apollo X8
Outboard & Effects
Mic Preamp:AURORA AUDIO GTQ2
EQ:API 550A
Pedal Effects:BOSS TW-1、WEED BD-2 Mod、EVENTIDE PitchFactor、FISHMAN Aura Spectrum DI、HOMEBREW ELECTRONICS UFO Ultimate Fuzz Octave、IBANEZ Tube Screamer、LIMETONE AUDIO Irodori、OKKO 42、STRYMON BlueSky、Iridium、JHS PEDALS The AT Signature Channel Drive、TC ELECTRONIC Polytune、VEMURAM Jan Ray、XOTIC EP Booster
Channel Strip:SOLID STATE LOGIC XLogic SuperAnalogue Channel
Amp Simulator:UNIVERSAL AUDIO UAFX Dream '65 Reverb Amplifier、UNIVERSAL AUDIO OX
Recording & Monitoring
Monitor Speaker:FOCAL Trio6 Be 、GENELEC 6010A 、SONY ZS-M5
Headphone:FOCAL Clear MG Pro 、SONY MDR-CD900ST (Mod)
Microphone:SHURE SM57(UMBRELLA COMPANYモディファイ)、SENNHEISER MD 421、ROYER LABS R-121、NEUMANN TLM 103、NEUMANN U 87 AI
Instruments
Keyboard:NATIVE INSTRUMENTS Komplete Kontrol M32、他
Rhythm Machine:ROLAND TR-330
Guitar:CREWS MANIAC SOUND TLタイプ、DANELECTRO 59M N.O.S、GIBSON J-45、他
Guitar Amp:MARSHALL JTM45 2245、FENDER Twin Reverb、AKG SOUND DESIGN Overdrive Custom Head、FENDER The Twin、FENDER Deluxe Reverb
Bass:CREWS MANIAC SOUND JB-Modern、FENDER Jazz Bass、他
みきとP
2010年にネット・ミュージックのシーンにて活動を始め、ボカロPとして、さまざまなVOCALOID楽曲を発表。海外でのイベント興行、本人歌唱でのライブやアルバム制作などクリエイターとしてもマルチに活動する。音楽作家としてもアニメの主題歌やアーティストへの楽曲提供など幅広く活躍中。
次に欲しい機材は…?
アコギですね。今よく使っているGIBSON J-45は中域に寄った音色なので、ドンシャリ系のGIBSON J-200が欲しいです。アコギって言い出すと、実はベースも欲しくて。ジンジャー・ルートの楽曲でよく使われているベースの音が特徴的で、何を使っているのかを調べたら、HARMONYのベースでした。ジミー・ペイジが「天国への階段」で使ったアコギもHARMONYで、好きなものがつながっている感じがして良いなと思いましたね。
Recent Work
『奈落』
みきとP