スガ シカオのプライベート・スタジオ|Private Studio 2022

スガ シカオのプライベート・スタジオ|Private Studio 2022

アレンジの実験と構築からライブ配信まで、持ち前の探究心をカタチにしたワーク・スペース

 12月22日にメジャー・デビュー25周年イヤーのキックオフ作品として、アルバム『SugarlessIII』をリリースするスガ シカオ。叙情的なボーカル・チューンのイメージが強いかもしれないが、ブラック・ミュージックの影響を感じさせるアレンジにも音楽的な説得力が宿っている。その制作手法は、あたかも“ビート・メイカー”のようであった。

Text:Tsuji. Taichi Photo:Takashi Yashima

音像が洗練されていても曲が伝わるとは限らない

 カセットMTRに始まり、1990年代の後半はROLANDやTASCAMのハード・ディスク・レコーダー、2000年代からはAVID Pro Toolsで“宅録”しているスガ シカオ。「ABLETON Liveを覚えたいんですけどね。サンプリングでヒップホップ的に作っていく俺みたいなタイプには、すごく向いてそうだし」と話す。

 

 「サンプリングと言ってもレコードから引っ張ってくるんじゃなくて、オーディオやMIDIのライブラリーを買って使うんです。で、“なんじゃこれ!?”みたいなフレーズが出てくるまで、テンポの全く違うループを組み合わせたりする。例えば90BPMのドラムに120BPMのベースをランダムに張り付けていくと、100小節目とかにグッとくるグルーブが生まれるんです。そこを切り取って曲の構成を一気に作る。だから“オケ先”なんですよ。昔はライブラリーに頼らず、良いフレーズが出てくるまで楽器を弾いたりしていましたが、自分の中にあるものなんてたかが知れているし、似たような結果になるから徐々に今のスタイルへ移行したんです。それに“リズムとグルーブありき”って部分が強いので、メロディとコードで気分が乗って作り始めることは少ないですね」

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AVID Pro Toolsを中心とするデスク周り。ディスプレイ内右側に映るのは、お気に入りのシンセARTURIA Pigments 3。「プリセットが秀逸で、ピアノもリードも非常にモダンな音。最近こればかり使っています」と絶賛する。モニター・スピーカーは、本文中で言及しているEVE AUDIO SC207。オーディオI/OはAVID HD I/Oを使用している

 メイン・ボーカルの録音とミックス以降のプロセスを除いては、楽曲制作の大半をここで自ら行うという。

 

 「今回のアルバムは特にそうですね。打ち込みなどを専業の方にお願いすることもあるんですが、自分でやると“これ絶対にプロに頼んでないな”という仕上がりになるので、その出っ張り方がアルバムの中で格好良く聴こえる。今のプラグインやDAWの機能って、設計の基本が“整えること”にあると思うんです。アマチュア・ミュージシャンのデモを聴いてもむちゃくちゃプロっぽい仕上がりだし、それはプラグインの進化も手伝っているんじゃないかと。でも、音像が洗練されていることと曲が伝わることは、必ずしもイコールではないと思うんです。ちゃんとしてるだけじゃん、ってなったらグッとこないわけで。だからこそ、テンポの違うループをぶっ込んだりして“デコボコにする方向”へ持っていくようにしているんです。でもデコボコにするのって意外と難しいんですよ。昔、ドラムの音を全部LESLIEスピーカーに入れて鳴らしたことがあるんですが、それくらいやらないとデコボコにはならないからね(笑)」

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プラグイン・コンプには感じられない自然なかかり具合が魅力というSUMMIT AUDIO TLA-100A、歌やギターの録音に愛用中のプリアンプVINTECH AUDIO X73×2台のほか、往年の音源モジュールなどをラッキング。アウトボードは専らレコーディング時に使う

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10年以上使い続けているコンデンサー・マイク、SE ELECTRONICS Gemini II。スモーキーかつ中低域の充実したサウンドが好みだそうで、メインテナンスを重ねながらもいまだ現役だ。奥に見えるヘッドフォンはJVC KENWOOD HA‐MX100V

内装から機材選び&設定まですべてDIYで造った配信ルーム

 個性重視のサウンドは、エンジニアの岡田勉氏によって磨き上げられる。「ここにあるEVE AUDIOのスピーカーは、彼が見繕ってくれた15機種ほどの中から選んだものなんです。“多分これにするだろう”と予想していたモデルとは全然違ったみたいですけど(笑)」とスガ。

 

 「中域の張りがちょっと奥まって聴こえるものの、低域はすごくよく分かるんです。俺は、オケ全体における低域の強さや厚さを見極めたいと思うことが、すごく多くて。と言うのも、2枚目のアルバム(『FAMILY』)のときに低域のバランスで大失敗したトラウマがあるからです。プレス工場で低域が膨らんでしまったんですけど、初回盤以降はすべて差し替えたくらいだったので、また低域で失敗するんじゃないかという思いが拭い去れなくて。デモの段階で“こんなバランスや質感にしたい”というベーシックを作るし、それを元に岡田君がミックスしてくれるから、やっぱり低域のよく見えるモニターが必要なんです。それでEVE AUDIOを選びました」

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写真手前のヘッドレス・ギターはJAMMY Jammy G。コンピューターにUSB/Bluetooth接続し、MIDIコントローラーとして使える一台だ。GIBSON J-45やLes Paul、FENDER Telecasterなどもスタンバイ

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スタンド手前のアコギは、1940年代後半のMARTIN 000-28。知人からの借り物で「ものすごく枯れた音なんだけど、ビッグで太いんです」と言う

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KORG Microkorgはベースのサウンド・メイクに特化して使っている

 曲作りだけでなく、配信ライブも行えるよう専用ルームを自らセットアップしたという。

 

 「内装から機材選び、セッティングまで、全部自分でやりました。配信ルームでは、LEWITTのLCT 540 SubzeroっていうマイクとAMEKのプリアンプSystem 9098 EQを歌に使っています。この組み合わせがすごく良くて、曲作りで長年愛用しているSE ELECTRONICS Gemini IIの音とそっくりになるんですよ。スモーキーな質感というか、ローミッドがしっかりとしていて好みですね。あと、Instagramライブなどを見越して買ったミキサーYAMAHA AG03も良い。オーディオ・インターフェースを内蔵する上、本体のEQとかで音作りしてから配信できるんです。入力数が多いモデルのAG06なら、2~3人でのライブ・ストリーミングにも対応するでしょうね」

 

 旺盛な探究心で制作スタイルとスタジオをアップデートし続けるスガ。その姿勢こそが、息の長い活動のバックボーンとなっているのだろう。

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DIYで構築した配信ルーム。楽器用の倉庫だった部屋を改装した10畳ほどの空間だ

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配信ルームのAPPLE MacBook ProにはABLETON LiveやPro Toolsなどをインストール。白いミキサーはYAMAHA AG03で、内蔵オーディオI/OによりコンピューターやiOSデバイスなどと直接つないで使用できる。ループバック機能も備え、配信に適した仕様だ

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映像収録における録音は、AVID Mbox Pro(黒パネルの機材)を介して行っているという

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配信用のボーカル・マイクはLEWITT LCT 540 Subzero。ラック最上段のプリアンプAMEK System 9098 EQと組み合わせることで、前出SE ELECTRONICS Gemini IIに通じる低重心なサウンドが得られるそうだ

Equipment

 DAW System 
Computer:APPLE MacBook Pro、Mac Pro
DAW:AVID Pro Tools|HDX、ABLETON Live
Audio I/O:AVID HD I/O、Mbox Pro

 Outboard & Effects 
Mic Preamp:AMEK System 9098 EQ、TAYLOR GUITARS K4、VINTECH AUDIO X73
Compressor:SUMMIT AUDIO TLA-100A
DI:RADIAL ENGINEERING ProD2

 Recording & Monitoring 
Mixer:MACKIE. 1402-VLZ3、YAMAHA AG03
Monitor Speaker:EVE AUDIO SC207、YAMAHA NS-10M Studio
Monitor Headphone:JVC KENWOOD HA‐MX100V
Headphone Distributer:BEHRINGER HA4700
Microphone:LEWITT LCT 540 Subzero、SE ELECTRONICS Gemini II、SHURE SM58
Monitor Controller:CRANE SONG Avocet

 Instruments 
Synthesizer:KORG Microkorg、NORD Nord Lead
Sound Module:E-MU Mo'Phatt、Vintage Keys、ROLAND M-BD1、M-DC1、M-SE1、U-220
Guitar & Bass:FENDER Jazz Bass、Telecaster、GIBSON J-45、Advanced Jumbo、Les Paul、JAMMY Jammy G、K.NYUI Custom Bass、MARTIN 000-28、etc.

 

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スガ シカオ

Jポップを代表するシンガー・ソングライターの一人。NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』の主題歌「Progress」をはじめとする名曲のほか、SMAP「夜空ノムコウ」の作詞、KAT-TUNやLittle Glee Monsterら他アーティストへの曲提供でも知られる。

 Recent Work 

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『SugarlessIII』
スガ シカオ
(SPEEDSTAR RECORDS)
12月22日リリース

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