“奇麗に音圧を上げたい”“手早くマスタリングしてネットに公開したい”などとご希望の方は、Ozone 10のMaster Assistantに注目してみよう。AIによってプロ品質のマスタリングを施すという機能だが、その実力とは? 普段から自らマスタリングを行い、Ozoneユーザーでもあるトラック・メイカーのMasayoshi Iimoriが、ベース・ハウス系のデモ曲を素材に検証する。
Master Assistantとは?
AIを用いたオート・マスタリング機能。プリマスターを解析させるだけで、Ozone 10の各モジュールを組み合わせたエフェクト・チェインが構成されます。もちろん、そのエフェクト・チェインや内包されるモジュールの設定は、好きにエディット可能。Tone Matchというツールを使うと、ロックやR&B、エレクトロニック・ミュージックなど、さまざまなジャンルのキャラクターでマスタリングすることができます。また、自身の曲をリファレンス音源のキャラクターに寄せる処理も可能です。
Ozone 10のMaster Assistant、めっちゃくちゃすごいですよ! 今回のデモ曲は、プリマスターの状態だと低域が多く、音圧感はあるものの少しもっさりしている印象でした。そこでMaster Assistantを使ってみたところ、周波数アナライザーからも分かる通り、ものすごく整ったんです。本当に、“マスタリングされたあの感じ”になったんですよ! トラック・メイクのビギナーの方は、Master AssistantのためにOzone 10を買っても全然良いと思います。もし自分が制作経験の浅い学生だったら、迷わず買うだろうなと。
使い方は簡単で、曲(プリマスター)を読み込ませて解析を待つだけ。まずは“Ozone 10”というプラグインを立ち上げます。次にアシスタント・ビューへの切り替えボタンを押すと、曲を読める状態になるのでDAWで再生。読み込みは10秒前後で終わるため、“曲のどの部分を読ませるか”で解析の結果が変わります。僕は、音が一番多い部分を読ませてみました。その後、解析を元にOzone 10の各モジュールを組み合わせたエフェクト・チェインが生成されます。以上20~30秒で終了! 結果に満足できなければ、Relearnボタンを押して曲の違う部分を読ませてみましょう。
※各機能の効果が把握しやすいようゲイン・マッチ未使用でデモンストレーションしています
プリマスター
Master Assistant処理後
Master Assistantの使い方
①曲を読み込める状態に
↓
②AIによる解析を開始
↓
③エフェクト・チェイン生成中
↓
④20~30秒で完了
↓
あっという間に自動マスタリング!
今回は一発で良い感じになりました。“正解に近いマスタリング”という印象で、音がべちゃっとつぶれずアタック感が残ったので、そのままでも使えると思います。各モジュールを微調整する必要を感じません。Ozone 9のMaster Assistantから飛躍的な進化を感じますし、既に自分の周囲で“Ozone 10がすごいらしい”“エンジンが格段にグレード・アップした”と評判になっているのも納得です。
驚くべき“Shapeモード”とは?
オートで設定されたにもかかわらず、きちんとEDM向けのアルゴリズムが呼び出されているStabilizer。デモ曲を聴いたAIが“これはダンス・ミュージックだ”と認識したのだと思います。正しい判断ですね。StabilizerはダイナミックEQですが、すごいのは“Shape”というモードで、各ジャンルに合った周波数バランスになるようリアルタイムに上げ下げしてくれるんです。例えば、今回のデモ曲はEDMと判断されたので、Ozone 10が持つEDMのデータベース(いわばOzone 10が考えるEDMの理想的なバランス)みたいなものに基づいて補正されるのでしょう。一般的なダイナミックEQでは周波数ポイントを自ら探って設定しなければなりませんが、Stabilizerはそこさえオートなので敷居が低い。補正の結果に違和感が無いのも素晴らしいです。
音圧をがっつり上げるMagnify Soft Clip
マキシマイザーやリミッターは、普段は基本的に2段がけするのですが、Master Assistantのエフェクト・チェインではMaximizer1段でも十分な音圧が出ています。もう1段プラスするかどうかは好みの問題。そのMaximizerの新機能“Magnify Soft Clip”は、トレンドを踏まえたものだと思います。同様の機能を持つコンプがあり、“がっつり音圧が上がる”とトラック・メイカーの間でかねてから評判だったのですが、このMagnify Soft Clipは3つのモードを備え、それぞれキャラクターが違うので、曲調による使い分けも可能です。自動設定されたアタック/リリース・タイム(Character)は、音圧高めのアーティスト御用達の“0”。つまり最速です。僕も旧バージョンから0で使ってきましたが、変なコンプ感が出ないのは演算が優秀だからだと思います。
周波数ポイントの自動検出が的確!
Master Assistantが作ってくれた各モジュールの設定を見ていて、最も目を引いたのはDynamic EQの周波数ポイント。これまで僕が自分で考えて設定していたものと、そっくりなんです。ダイナミックEQはOzoneのものではないプラグインを使ってきましたが、そのユーザー・プリセットの設定は140Hz、300Hz、4.3kHz。Master Assistantの方は222Hz、331Hz、5.3kHzとなっています。これを見たときに“Ozone 10のエンジンの精度をよく物語っているな”と感じました。そしてAIによる解析なので、今回のデモ曲にさらにマッチした設定なのかもしれません。
リファレンス曲に寄せた特性にできる
Master AssistantにはTone Matchというツールがあります。これを使うと各ジャンルにマッチしたキャラクター、または自身のリファレンス音源に寄せたキャラクターにすることが可能です。各ジャンルへのマッチングは、画面左Targets欄のプリセットを選ぶだけ。そのTargets欄にある“+”マークを押すと、リファレンスの読み込み~エフェクト・チェインの自動作成が行えます。今回、2種類のリファレンス音源で効果を試してみたところ、方向性が違う曲を選びましたが、いずれも非常に忠実に音圧感が反映されていると感じました。この2つのTone Matchの結果は下のプレーヤーでご試聴可能です。
Tone Matchの下には、ImagerやImpact、Maximizerといったモジュールのマクロ・コントロールがあります。
結論:“曲の面白み”を生かしてくれるのも魅力
AIのeマスタリング・サービスを幾つか試したことがあるのですが、セオリーから外れた部分を直す方向性のものが多い印象で、あえて極端な音に仕上げたい場合には不向きでした。セオリーから外れているからこそマキシマムで格好良く聴こえるわけで、そこを修正されると面白みに欠けるんです。Ozone 10のMaster Assistantは、その辺りのあんばいを心得ている感じがします。しかもAIからの提案を元に、自ら調整を加えることも可能。マスタリングについて右も左も分からないといった人にお薦めできますし、経験のある方が活用すれば、これまで以上の結果を生み出せるかもしれません。Master Assistantは、まさにバーチャル・エンジニア。そのくらいの役目を果たしてくれそうです。
【Profile】トラップを中心とした楽曲が評価され、気鋭レーベルTREKKIE TRAXよりデビュー。スクリレックス主宰OWSLAの系列=NEST HQやA-TRAKのFool's Goldなど、海外の名門からも作品を発表