電源スイッチをフロント・パネルに搭載
接続状況が確認可能なインジケーター
以前、僕は同社のUAD-2 Satellite USBを使っていたのですが、それと比べるとST3はデザインがより洗練された印象です。フロント・パネル中央にはロゴが大きく配置され、電源を入れると点灯するところが格好良いですね。また、ホストとの接続を確認するためのインジケーターも見やすくなり、接続状況が把握しやすくなりました。フロント・パネルの色は黒からダーク・グレーになり、同社の最新オーディオI/O、Apollo Xシリーズと並べても相性バッチリでしょう。
背面にあった電源スイッチも、ST3ではフロント・パネルに設置されたため、オン/オフの切り替えが非常に行いやすくなりました。ただ、重さやサイズ感はほとんど変わらないと言えるでしょう。
最新UAD-2プラグイン群を
無理なく扱えるDSPパワー
ST3には標準プラグイン・バンドルAnalog Classics Plusが付属しているため、購入してすぐにUAD-2プラグインでのミックスを始められるのも魅力の一つですが、ここからは同社のUA 175B&176 Tube Compressor Collection(以下175B、176)を試してみたいと思います。これらは、1960年に発売されたレコーディング/ミキシング用アナログ・コンプレッサーのUNIVERSAL AUDIO 175Bと176を再現したプラグイン。175Bと176ではノブの配置や仕様は同じなのですが、レシオ・ノブに関しては175BがLOW/HIの2段階設定、176が4段階設定となっています。
まず175Bと176をボーカルにかけてみたところ、倍音が豊かになり輪郭が強調されたような印象。ウィスパー系のボーカルにおいては、200Hz辺りに厚みが出て、全体的に温かみが足されたような感じです。2つの違いを挙げるならば、175Bはチューブ・アンプ特有の粗さがあり、176はその質感を残しつつもより高域につやがあるように思いました。
次は、175Bと176をキックで試してみます。175Bではアタックが丸くなり、中域が強調されてウォームになる印象。176では想像以上にアタック・タイムが速く、張りのある音になりました。
使い分けとしては、トラックになじませつつキックの芯が欲しいときは175B、とにかくキックを前に強く出したいときは176とすると良いかもしれません。また、これらはトラックに挿すだけでも倍音が豊かになり鮮明度が増すので、“コンプをかけずに通すだけ”という使い方もお勧めです。
もう一つ、Capitol Chambers(以下Chambers)も試してみましょう。Chambersは、LAにあるキャピトル・スタジオのエコー・チェンバーをエミュレーションしたコンボリューション・リバーブ。実在するエコー・チェンバーは、レイ・チャールズやボブ・ディランなどの名だたるアーティストが使用してきました。
画面上部にある4つの黄色いボタンでは、4種類のチェンバーを切り替えることができます。それに伴って部屋のイメージ画像も変化。使用するマイクは4種類から選択できるようになっています。また、マイク選択画面の下部にあるスライダーで、マイクとソース・スピーカーとの距離を決めることが可能です。そのほかプリディレイやディケイ、EQ、フィルターを調整するノブや、ドライ/ウェットを決めるMIXノブ、ステレオ幅を決めるWIDTHノブが配置されています。
まずは初期設定の状態でボーカルにかけてみたのですが、聴いてすぐにすごい!と感じました。とてもナチュラルで密度が濃い響き………まさに本物のチェンバーで収音したようなサウンドです。滑らかでつやのあるリバーブが空間中に広がっていくイメージ。リバーブの音作りを、ますます楽しくさせてくれるプラグインでしょう。
175B、176、Capitol Chambersはどれもクオリティが高く、ミックス時に欠かせないプラグインとなりそうです。ST3に内蔵されたSHARCプロセッサーが強力なDSPパワーを提供してくれるおかげで、何不自由なくこれらのプラグインが使用できました。ST3は、大規模なミックスでもDSPパワーを気にせずたくさんUAD-2プラグインを使いたい!という方にお薦めです!
(サウンド&レコーディング・マガジン 2020年1月号より)