細かなニュアンスまで拾うマイクプリ
Boost機能でサチュレーションが可能
AudioFuse 8Preの入出力はとてもシンプルで分かりやすく、8chのアナログ・イン/アウト、2系統のADAT、そしてスピーカー・アウトとヘッドフォン・アウトで構成されています。最大で16イン/20アウトという入出力数……と仕様には書かれていますが、コンピューターのステレオ出力をDAWへ戻すループバック機能もあるので、実質は最大18入力です。
アナログ入力はすべてXLRとフォーンのどちらも使えるコンボ仕様となっているため、どのような状況でも臨機応変に対応可能。XLR/フォーンのどちらでもマイク/ラインの入力ができるので、切り替えの心配をせず助かります。
また、ライン・アウトとは独立したスピーカー・アウトは、フロント・パネルでボリューム調整が可能で、直感的に触りやすいです。ヘッドフォン出力もステレオ・フォーンとステレオ・ミニの両方が用意されています。最近はイヤホンでモニターする人も増えたので、利便性を考慮した設計と言えるでしょう。
さらに、本機は単体のマイクプリ&AD/DAコンバーターとしても使用できます。そのADATモードでは、すべてのアナログ入力はADAT出力へ、すべてのADAT入力がアナログ出力へアサイン。本機2台をカスケードして、アナログ16イン/16アウトのオーディオI/Oとして使用可能です。96kHz運用もできるように、2系統のADAT入出力はS/MUXに対応していますし、ワード・クロック入出力も備えています。
今回は最もシンプルな方法で使ってみようと思い、APPLE MacBook Proに付属のUSB-Cケーブルで接続し、AVID Pro Toolsを起動してみました。
まずレコーディング・スタジオにてモニタリングしたところ、音の印象はとてもクリアで奥行き感もあり、音像も分かりやすく明るい印象。正直なところ、1Uのオーディオ・インターフェースでここまでのクオリティに仕上がっていることに驚きました。マイクプリもクリアで細かなニュアンスまで拾ってくれる仕上がり。8chすべてのマイクプリについて、ゲイン/48Vファンタム電源/PADがフロントで操作できるのは直感的でとても良いと思います(ch1/2はHi-Zにも対応)。
また、PADはオン(−20dB)/オフでの音の印象が変わらずシンプルにゲインを下げてくれます。さらにマイク入力時に有効なBoost機能(+10dB)もあります。PADボタンを長押ししてオンにすると、ボタンが赤く点灯。若干ではありますが、中低域辺りに倍音が加わり、“アナログ機器でサチュレーションがかかった”というサウンドになります。
また、専用アプリケーションのAudioFuse Control Centerを使うと、キュー・アウト用のバランスを変えるなどより細かな操作が可能に。AudioFuse 8Preでは、ヘッドフォンを含む任意の出力をキュー・アウトとして使用できるようになっています。
プリ/EQモデリングからシンセまで
7種類のプラグインが付属
AudioFuse 8PreにはARTURIA製プラグイン・バンドル、AudioFuse Creative Suiteが付属しています。プリアンプ&EQをモデリングした1973-Preは少し高域が伸びて感じますが、中域の押し出し感はあるのでレンジが広く感じ、聴き心地の良い印象でした。真空管プリを再現したV76-Preも同様な印象ですが、よりTELEFUNKEN V76の実機に近く、声の細かなニュアンスも消さずにナチュラルに聴こえました。1973-Preと同様にコンソールのプリアンプ/EQを模したTridA-PreはM/S機能がとても直感的で使いやすく、音質を損なうことなくEQ処理ができるので、ドラム・ミックスやトータルにかけるのが良さそうです。
そのほかMOOGタイプのフィルターであるMini-Filter、コンプレッサーのComp FET-76、ディレイのDelay Tape-201、ソフト・シンセAnalog Lab Liteという計7種のプラグインが付属しています。
昨今の音楽制作においてアレンジャーやミュージシャンがセルフでレコーディングすることが多い中、この1台があるだけで多様なシチュエーションに対応できそうだと感じました。例えばリハスタに本機とノート・パソコンを持っていくだけで簡易に高音質レコーディングがマルチで行えます。また、ライブ会場でのマルチトラック・レコーディングも可能です。セッティングが簡易なので、ライブでのマニピュレーターのメイン機としてもとても役立つアイテムになる可能性を感じました。加えて、細かなポイントですが電源コネクターがねじ込み式になっているのが親切で、ライブ現場のような仮設での設営でも安心して使用できます。そして、付属プラグインも含め、すべての操作が直感的で、とても使いやすく感じました。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2020年1月号より)