フィット感が良く長時間使用にも耐える
独自構造でヘッド・バンド長を自動調整
第一印象は、シンプルな外観で洗練されたイメージ。手にしてみると筐体の質感も良く、従来のシリーズ機よりも高級感が増したように思います。重量は約295g(付属ケーブルを含む)で、ヘッドホンとしては決して軽くありませんが、クラス最大級という50mm径のドライバーを採用しているため妥当な重さと言えます。ケーブルは片出しの着脱式なので、今流行のリケーブルも容易。付属のケーブルは5m長で、カール・タイプのため、実際には1.5mくらいの感覚です。出先で使用する場合も長過ぎず、オールマイティに使えそうですが、スタジオではもっと長さが欲しくなることもあるかもしれません。その際はリケーブルで対応すればいいと思います。ヘッドホン・アンプに挿す方の端子はステレオ・ミニで、付属するねじ込み式の変換プラグでTRSフォーンにも変えられます。
本機は“3-AXIS”という特許出願中のヒンジを採用し、プロ向けのヘッドホンとしては珍しい折りたたみ式。ヒンジは金属製で強度も考えられていますが、折りたたむ際には軽い力でカクッと曲がります。こうしたディテールも、上質な感触でよくできていると思います。専用のキャリー・ポーチも付属するため、あちこちのスタジオにマイ・ヘッドホンを持ち込んで使っている人にもよいでしょう。
LとRの表示はイア・パッド内側のメッシュ部分に大きくプリントされており、とても分かりやすい上、装着すると外からは見えない仕様なので“これはいいな”と思いました。スタジオに来るミュージシャンには左右を間違って装着している人も多いのですが、本機なら間違わないでしょう。
イア・パッドは低反発素材で、イア・カップが柔軟に動くためフィット感抜群。長時間付けていても疲れにくく、また適度な側圧があるため音漏れも少ないと思います。頭の大きさに合わせてヘッド・バンドの長さが変えられるセルフ・アジャスト構造はKシリーズの伝統ですが、イア・パッド形状の違いからか、従来機に比べるとやや小さめに作られている印象。筆者のように大きな頭の人にも優しく問題ないものの、装着前の状態からは割と大きく広げて使うイメージです。
極めてフラットかつ解像度が高い
低域もしっかりしておりタイトで素直
肝心の音のチェックは、なるだけいろいろなヘッドホン・アンプを使って、さまざまなソースで行いました。まずは“フラットでとても聴きやすい音”というのが最初の印象です。個人的に、Kシリーズの音はパンチがありつつもダークというイメージで、K275にも同じセンスを感じはするのですが、アップデートの方向性なのかそのキャラクターが薄まった感じ。リファレンス・モニターとしてのフラットさを、より追求しているように思えます。全体的には“優しい音”で、ハイ上がりだったり派手だったりということはありません。例えば旧来のK270 Studioには、10kHz辺りに特徴的な明るさがありますが、そういうクセがどこにも無く極めて平坦で、しかも解像度が高いです。低域もしっかりと出ており、タイトで素直な感じ。キックとベースの相関関係も分かりやすいです。
特筆に値するのは、中域から中高域にかけての再生能力の高さ。音量が変わってもその印象は変化しません。例えばひずみギターの3kHz辺りにあるピーキーな感じは、スピーカーでモニターすると気にならないのに、ヘッドホンではやけに出ているように思えることがあります。しかしそうした音源をK275でチェックすると、スピーカーの印象に近いものがありました。またドラムなどのアタック感が分かりやすく、一つ一つの音の粒立ちが明りょうで、リバーブの奥行き感もうまく再現できています。これは左右のクロストークが少ないからかもしれません。大きめの音量にしてもひずみ感が少なく、クオリティは高いと思います。
SONY MDR-CD900STなどと比べても全帯域に渡って控えめな印象なので、ガツンと来る音を求める人には物足りないかもしれませんが、ソースのキャラクターを忠実に再現しているヘッドホンというのは、このK275のようにどちらかと言えばおとなしい音の傾向のものが多いです。
ヘッドホンはエイジングに大きく影響されやすいので、あと1カ月ほど使えばさらに伸びやかな音になってくるのは間違いないでしょう。手ごろな価格帯で持ち運びもしやすく、フラットで解像度の高いヘッドホンをお探しであれば、本機はチェックの価値アリです。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2019年6月号より)
※ヒビノ取り扱いの3年保証付き版K275-Y3は22,000円前後