SSLコンソールのチャンネル・ストリップに
WAVESプラグインをインサート可能
今回紹介するCLA MixHubは、基本はSSLコンソールをモデリングしたプラグインで、それに加え、BUCKETという機能で操作性を向上させ、実機のコンソールに近い感覚でミックスができるというものです。SSLコンソールとモデリングと言えば、WAVESからは既にSSL 4000 Collectionが発売されています。CLA MixHubの見た目と操作性はそれと同じ感覚ですが、音やかかり方は全く違います。CLA MixHubは、エンジニアのクリス・ロード=アルジ氏が所有するコンソールをモデリングし、同氏のミックス・ワークフローを再現しているというのがポイントです。Mac/Windowsに対応し、DAWではAAX/AU/VSTプラグインとして使用できます。
例えば、1つのトラックにCLA MixHubをインサートすると、一般的なプラグインと同様、普通に画面が出てきて音作りが行えます。これがCHANNEL VIEWという状態です。画面左から、INPUT/EQ/DYN(ダイナミクス)/Insertとモジュール・セクションで分かれています。デフォルトでは、各モジュール機能はオフなので、それぞれの左上ボタンをオンにします。Insertは、WAVESのプラグイン限定ですが、“+”ボタンを押すことで内部にもう一つ違うプラグインを追加することができます。例えば、ボーカルだとディエッサーなどを入れたりできるのはうれしいところですね。モジュール右上にある2重の四角をクリックすると、それぞれのセクションの細かい設定が可能なEXPANDED VIEWモードになります。
信号の流れは左から右へなので、実際のSSLコンソールとはEQとDYNが逆の状態になっています。これは、ロード=アルジ氏のデフォルトがこの流れだからなのだと思いますが、EQ/DYN/Insertはドラッグ&ドロップで入れ替えが可能となっています。
1176 Rev.Aタイプのコンプや
サイド・チェインEQなど機能を拡張
便利な点を幾つか挙げてみましょう。まずEQセクションの中心にあるSOLOボタン。これをオンにしておくと、それぞれのEQ(HMF/LMF)を操作する際に、そのEQバンドがソロになります。EQポイントを決める際に非常に便利で、ゲインだけでなくQの操作でもソロになるので、どの帯域をEQ処理しているかが初心者でも分かりやすくなっています。
また、DYNセクションに関しては、コンプのタイプに“BLUEY”が追加されています。これはUREI 1176 Rev. A(ブルー・ストライプ)タイプのコンプ。特にリズム系には1176系のコンプをよく使うので、キャラクターの違うコンプを選択できるのは非常に便利です。コンプに関しては、原音とのバランスを調整できるCOMP MIX機能も備わっているので、ハードにコンプをかけて実音とのバランス調整ができるもうれしいところですね。
DYN中央のGATEセクションでは、ダッキング効果の“DUCKER”も追加されました。近年多用されるようになったサイド・チェインを使った効果も、コンプではなくダッキングで滑らかにできるのはよく考えられています。
また、それぞれのモジュールのEXPANDED VIEWモードのときには、DYNへのサイド・チェインEQの設定や、ステレオ・トラックでのM/S処理、L/Rの設定などもできるようになっています。かなり細かくサイド・チェインのEQができるのはうれしいですね。
肝心なサウンドは、ほかのSSLモデリング・プラグインよりも、さらにアナログっぽい印象です。SSLのちょっと硬い感じは残しつつ、ちょっとぬるっとした質感とでも言いましょうか。SSLコンソールの実機を使っていた感覚に似ている印象はありました。特に、INPUTセクションには、トリムとしてLINEとMICがありますが、MICの方をちょっと上げてほんのちょっとサチュレーションを加えたニュアンスが、とても印象が良かったです。単純なレベルの上下はLINEで、サチュレーションはMICで、と使い分けることで音の太さや滑らかさも調整できます。CLA MixHubをインサートしただけでも若干ガッツが出ますので、その点でもSSLらしい雰囲気を味わえます。
8ch×8グルーブのBUCKETは
1つのプラグイン画面で64chをミックス
では次に、CLA MixHub最大の特徴であるBUCKET VIEWを見てみましょう。簡単に言うと、最大8つのCLA MixHubのパラメーターが同時に見られる&操作できる画面です。このBUCKET VIEWを生かすためには、すべての、もしくはある程度の数のトラックにCLA MixHubをインサートする必要があります。
複数のトラックにMixHubをインサートした後、CHANNEL VIEWの右上にあるBUCKET VIEWへの切り替えボタンを押します。そうすると何も無いBUCKETの表示になるので、1〜8の数字部分をダブル・クリックし、グループ分けの名前を入力します。あとは、それぞれのトラックで、CLA MixHubのCHANNNEL VIEW右上にある"ASSIGN TO BUCKET"でグループを選びます。
これでBUCKETに戻ると8ch単位で複数のトラックがまとめて表示されるようになります。EQやDYNなども同様に8ch単位で見られます。この8ch×8グループで最大64chを1画面で管理できます。こうやって見ると、それぞれのEQなどの違いが分かりやすいですよね。関連する前後のトラックがパッと確認できて、なおかつ一つのプラグイン内で設定も変えられます。実際にやってみるとかなりのスピード・アップになります。実機のSSLコンソールでもこれに近い感覚で操作していたので、筆者も使っていて懐かしく思いました。
複数のトラックを一望でき一体感のある音
コンソールライクな作業環境とサウンド
すべての(またはある程度の)トラックに同じプラグインをインサートするのは、DAW環境から音楽制作を始めた方にとってはなじみが無いかもしれません。しかし、コンソールでミックスをしていた当時は当たり前の考え方で、必ずすべてのトラックが同じEQやコンプのモジュールを通って、ミキシングされることになります。そしてキャラクターを変えたいトラックだけ、アウトボードのコンプやEQをインサートして使っていました。CLA MixHubは、そうした環境で今でもミックスを行っているロード=アルジ氏の手法を再現したプラグインだと言えますね。また、音質面では、同じプラグインで処理をした方が一体感が出ます。その点でも、よりアナログ・コンソールの感覚を味わえるのが、CLA MixHubの利点です。
その点、複数のトラックを一望できて、音質のキャラクターもそろうCLA MixHubは面白い使い方ができそうです。実際の仕事で使ってみた感想では、AVID Pro Toolsのフェーダーは0dBで統一して、CLA MixHubのOutputフェーダーでバランスを取り、フェーダー・オートメーションはPro Toolsのチャンネルで行ってみると、音の印象が良かったです。あるいはフェーダー・オートメーションまでCLA MixHubのフェーダーで描き、クライアントの細かい要望の部分だけPro Tools側で、というのも作業効率的にはよいかもしれませんね。
筆者もプラグインを幾つか同時に表示させて作業することは多いのですが、どうしても画面上のスペースを取ってしまうので、細かく切り替えながら表示することも多々あります。あるいはトラックが多くなってきて、離れた位置のものを探すのに苦労したり……。CLA MixHubの表示方法は、やっぱりアナログ・コンソールを使ってきた人の発想だなとしみじみ思いました。現在行っているライブ・ミックスで、全トラックにCLA MixHubをインサートしていますが、作業が速く進められている気がしています。
CLA MixHub内にInsert機能があるので、“一画面で”というコンセプトを守りながらWAVES製プラグインを使ってさまざまな処理を行えるのも良いところです。BUCKET VIEWの便利さだけでなく、プラグイン単体としての出来も良いので、ぜひ一度試してみると面白いと思いますよ。WAVES CLAシリーズは本当によく考えられています。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2019年6月号より)