
最小限の機能に絞ったシンプルな設計
トランスレス回路によってクリアな音質に
本体は重量感があり、金属製のシャーシで頑丈そうな作り。安価なマイクとは思えないほどしっかりしています。指向性はマルチパターンで、双指向/単一指向/無指向を用意。

−10/−20dBのPADを搭載しているので、大音量の演奏にも対応できます。ハイパス・フィルターも80/160Hzの2種類から選択可能。プリアンプにハイパス・フィルターが付いていない機種も多いので、マイクで2ポイントから選択できるのは結構便利です。宅録では適切にローカットされていないことも多いのですが、なだらかな−6dB/octのカーブで切り過ぎずに使える点も良いですね。
付属品はマイク・スタンドの振動によるノイズを軽減するショック・マウントと、風や息からの吹かれを防ぐ、今はやりの音質変化が少ない金属製のポップ・フィルターが用意されています。ポップ・フィルターは、マイク・ホルダーに差し込み、垂直に高さを調節するタイプです。

輪郭が立つ自然で明るいサウンド
歯擦音やリップ・ノイズを自然に低減
それでは実際にチェックしていきます。まず自分の声で簡単にチェックしてみました。全体的に癖のない音色で、抜けとふくよかさ共に“おっ、これは……!”と期待を感じるサウンド。この第一印象、結構大事なんです。指向性に関しては中域が広めで使いやすくなっており、ちょっと動いても音像が極端にぼやけるといったことはありません。ただ高域は少し指向性が狭めになっているので、録音時のポジションには少し注意が必要。ですが、ほかのマイクに比べて扱いやすい部類に入ると思います。
筆者がマイクで必ず確認することが吹かれへの対応ですが、吹かれには若干弱めの印象。息や風圧モノには注意が必要です。その分反応が良いということでもありますが、ポップ・フィルターが付属しているのもうなずけます。マイクとボーカルの距離による低域の近接効果も過度になり過ぎず、ハンドリング・ノイズも少ない方です。
続いて男性/女性ボーカルで試してみましょう。高域は固くならずにスッと抜けている感じ。痛くならない印象が男女ともに強く、ボーカリストをさほど選ばないマイクです。中域はフラットな特性で、女性で多い中域の耳に付くところもうまく抑えられています。押し出し感はグイグイ前に出てくる感じではありませんが、低域はふくよかな印象です。抜けの良いサウンドながらも決して軽くないのは良いですね。先述の通りボーカリストによって吹かれることもあったのですが、付属のポップ・フィルターを使えばバッチリ防げます。ナチュラルな音質で非常に扱いやすいマイクと言えるでしょう。
次はサックスでテスト。ボーカルで使用したときと同じく、抜けとふくよかさを持ち合わせたサウンドで録音できました。サックス特有のブロー気味のときに出る、中高域の少し耳に付くところがしっかり抑えられています。感度に関しては小さい音より、ある程度音量があったほうが良さが出るマイクだと思いました。距離感に関しては、遠いマイキングはあまり得意ではなさそうです。
バス・ドラムやベース・アンプにはポップ・フィルターを付け、PADを−20dBで入れてチェックしてみます。重低音は少ないものの小さいスピーカーでも感じられる低域はうまくとらえてくれて、軽い音にはなりません。必要な低域は距離感をうまく合わせれば十分に使えるサウンドでした。
アコギに試してみると奇麗なニュアンスの演奏によく合う印象。ざっくりとした押し出し感を出すのにはやや不向きですが、高域が目立つさわやかなサウンドには使えます。低域はボワつきも無く、自然な低域をとらえてくれます。
さりげなく良かったのがディストーション・ギター。バッキングは痛くならない抜けの良い高域と豊かな低域で、主張し過ぎず楽曲に溶け込んでくれました。リード・フレーズはSHURE SM57などのダイナミック・マイクで、足りない帯域を補うようにして使うのがお勧めです。
最後にプリアンプとの相性ですが、さまざまな価格帯、およびメーカーのプリアンプとも相性の悪さは感じませんでした。特にナチュラルな中域が起因していると考えられます。
全体的に癖が少なく、扱いやすいマイクです。いつも使っているほかのマイクの癖をあらためて感じるほど、ナチュラルな音質でした。手に入りやすい価格で、何にでもそつなく使えるマイクは意外と少ないものですが、音質的に変に特徴を持たせようとしている感じもなく、オールマイティに使える感じは好印象。宅録でさまざまな音を録れる“最初の一本”として、及第点をあげられるマイクです。前シリーズが評判が良かったのも、納得できました。この手のマイクはステレオでの使用も良さそうですね。手に入りやすい価格帯ですので、ぜひ試してみてください。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2018年12月号より)