
M/S&パラレル・ミックス機能を搭載
プリセットは100種類を用意
Boost Proには大きい5つのエフェクト・ノブが用意されています。新たに追加された汚し感を付加できるサチュレーションのDIRT、4バンドEQのCOLOUR、マルチバンド・コンプレッサーのCOMPRESS、音像を横に広げることのできるSTEREO、ブリックウォール・モードでの使用も可能なLIMITERです。つまみの下部にある赤いボタンを押すことでライトが消えて、バイパスにすることが可能。これらのエフェクトは通常左から右にルーティングされていますが、boostモードをオンにすることでLIMITERの後段にCOLOURを配置することができます。ただし、この際はクリッピングに気を付けましょう。
エフェクト・ノブの上部には入出力ゲインを装備しており、ハードウェア風にデザインされたVUメーターで入出力値を確認可能です。また、VUメーターをクリックするとバイパス状態にできるのですが、その際、ライトが消えるという粋な仕掛けが用意されています。
新たに追加された機能のADVANCEDボタンはクリックすると各エフェクトの細かな設定ができるパネルを下部に表示させることができます。今どきのプラグインらしく、ほとんどのエフェクトにM/Sモードやドライ/ウェットのパラレル・ミックス機能が用意されているので、言うなればEDM期以降のダンス・ミュージック系サウンドでよく聴かれるような現代的な処理を施すことが可能です。また、左下には6つ目のエフェクト、ハイパス・フィルターが装備されています。

最近のプラグインはプリセットが充実している印象ですが、このBoost Proも例にもれず100種類ものプリセットを収録しています。ExtremeやDanceといったマスタリング用の設定はもちろん、Vocals、Instrumentsといったミックス用プリセットも用意。音の強弱やジャンルなど、用途別で10種類のカテゴリーに分かりやすく分類されているので、この中から好みのプリセットを選んで微調整するのもよいでしょう。

真空管風の倍音付加が可能なDIRT
マルチバンドのステレオ・エンハンサー
それでは各エフェクトの使用感についてレポートしていきましょう。DIRTはビンテージの真空管をほうふつとさせるサチュレーション具合で、温かみを付加するというよりはパンチの効いたアグレッシブなサウンドにすることができます。アナライザーで確認してみたところ、奇数倍音が多く出ているようでした。マスタリングでというよりミキシングで積極的に使用していきたい機能ですね。
COLOURは周波数帯域を広めに設定することが可能。なんとローバンドは15Hzまで低く設定することができます。さすがSAMPLE MAGIC、クラブ・サウンドのポイントが分かってるなと感じました。
同じく4バンドで周波数帯域のクロス・ポイントを幅広く設定できるCOMPRESSは、割とタイトにかかる印象です。バンドごとにニー値やLook Aheadなどの細かい設定が可能となっており、本格的なマルチバンド・コンプとして使用できると思います。
なんと、イメージャーのSTEREOも4バンドに分けてステレオ幅の設定できます。例えば中域のみを外に広げるといったトリッキーな処理をすることもできるので、思い通りに音像をコントロールすることができるでしょう。
LIMITERは2種類のモードが用意されています。エンベロープへの反応が変わるようで、モード1はトランジェントを維持したいような打楽器向き、モード2はトータルで抑えるのに重宝する感じでした。また、画面右上のbrickボタンを押すとブリックウォール・リミッターとして機能し、クレイジーな設定にしてもピークを-0.1dBに抑えてくれます。
エフェクト面以外で便利だと思った機能はLow Latencyモード。昨今のダンス/クラブ・ミュージックのトラック制作では、マスター・アウトにマキシマイザー系のプラグインを挿した状態で作業を進めることも多いので、この軽快さは大いに役立つのではないでしょうか。
さて、いろいろと細かくいじりながら述べてきましたが、この手のプラグインは小難しいことを考えず、5つの大きなノブで微調整、または大胆にノブを回してクレイジーな設定で使用するのがお勧めかと思います。例えるなら一人アベンジャーズ的な1つで何役もこなせるこのプラグインは、あなたのトラック・メイキングやセルフ・マスタリングで活躍すること間違いなしでしょう。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2018年9月号より)