「SPITFIRE AUDIO Hans Zimmer Strings」製品レビュー:映画音楽の巨匠ハンス・ジマーが開発に携わったストリングス音源

SPITFIRE AUDIOHans Zimmer Strings
今回レビューするのは、SPITFIRE AUDIOより発売されたHans Zimmer Strings。ハリウッド映画音楽の巨匠作曲家として知られ、サウンドトラック・シーンをけん引するハンス・ジマーがSPITFIRE AUDIOとタッグを組み生み出した、話題のストリングス音源です。ロンドンが世界に誇るエア・スタジオにて、何と344名(!)ものプレイヤーを起用し、演奏のサンプリングを行ったという贅沢(ぜいたく)を極めた内容。このスケール感を自分の音楽に取り入れることができるというのも夢のようですね。

200GBに迫るライブラリーを備え
超現実的なサウンド・アプローチも可能

Hans Zimmer StringsはMac/Windowsに対応したストリングス音源で、VST/AU/AAX Nativeプラグインとして使用できます。コンピューターに求められるCPUは2.5GHz/クアッド・コアのINTEL Core I7以上のもので、RAMの容量は16GB以上を推奨。必要とされるディスク空き容量は184GB以上、インストール時のみ200GBとなっていますが、スムーズに動作させるためにも、かなりの余裕を設けておいた方がよいかと思われます。また、動作時に読み込むサンプルも大容量なので、SSDを推奨しているのもうなずけます。

Hans Zimmer Stringsには、コンポーザー目線で作られた細かいこだわりが目白押しです。まずサンプル・ライブラリーを運用するためのプラグインは、USTWOと協力して作られた専用のもの。収録された奏法は147種類、プリセットに至っては234種類という充実の内容です。また、通常のストリングス録りでは不可能な人数の規模でサンプリングが行われているのも特徴。例えばバイオリンだけでも総勢60名の演奏家が参加していて、その60名全員分を合わせた音/バイオリン・セクション左側の20名/右側の20名/中央の20名/外側の20名のそれぞれの音を独立して扱えるところにハンス・ジマーのこだわりを感じます。

▲プラグイン画面中央にあるオーディオ波形のアイコンをクリックすると、奏法の選択画面が現れる。レガートやロング・トーンといったオーソドックな奏法から、弓の棒の部分(スティック)を用いたものや、弦楽器の駒(ブリッジ)付近を演奏するものなど、この音源ならではのユニークな奏法も選択可能 ▲プラグイン画面中央にあるオーディオ波形のアイコンをクリックすると、奏法の選択画面が現れる。レガートやロング・トーンといったオーソドックな奏法から、弓の棒の部分(スティック)を用いたものや、弦楽器の駒(ブリッジ)付近を演奏するものなど、この音源ならではのユニークな奏法も選択可能
▲プラグイン画面上部にはプリセット音色の名称を表示するウィンドウがあり、そこをクリックするとプリセットの選択画面が出現する。左側に奏法や音色によるカテゴリーがリスト・アップされており、それぞれから目的のサウンドを探す仕様だ ▲プラグイン画面上部にはプリセット音色の名称を表示するウィンドウがあり、そこをクリックするとプリセットの選択画面が出現する。左側に奏法や音色によるカテゴリーがリスト・アップされており、それぞれから目的のサウンドを探す仕様だ

特にチェロ60名、コントラバス24名の音では、この人数でしか得られない唯一無二のサウンド・アプローチができるのも魅力。SPITFIRE AUDIO創業者のクリスチャン・ヘンソン氏いわく“大人数の弦を集めると、それはエジプトの綿のシートを使った糸のようになります。人数が多くなれば多くなるほど、シルクのような質感になります”とのことで、この音源が単なるリアル志向ではなく、音楽的に進化したアイデンティティを持っていることが伝わってきます。

専用のプラグインはとても分かりやすく、グラフィックを見ただけで機能を直感的に理解することができます。一つの画面に各マイクのバランスから内蔵リバーブのセッティング、奏法の切り替えに至るまでとても分かりやすくレイアウトされているので、立ち上げてすぐに把握できたほどです。

ただ、ライブラリーの容量が184GBもあるので、ダウンロードにそれなりの時間を要するのは注意しておきたいところですね。プリセット音色のブラウジングは、画面上部のウィンドウから行います。そのウィンドウには、デフォルトでは“60 Cellos:All In One”というプリセット名が表示されていますが、クリックするとポップアップが現れ、奏法カテゴリー(Selection/Long/Short)、楽器カテゴリー(Violin/Viola/Cello/Bass)、そしてユーザー・カテゴリーのそれぞれでプリセットの絞り込みが可能に。好きなものを選択した後、Clearボタンを押せば元の画面に戻れます。

周波数レンジが広く重厚なサウンド
弦のザラッとした質感までも見える

さて、実際に音を出してみましょう。ここではまずプリセットの“60 Violins:All Standard”を試してみます。デフォルトの状態ではTreeマイク(スタジオの天井付近に設置したマイク)の音量のみが上がっていますので、フラット方向かつ落ち着いたイメージのサウンドですが、プレイヤーとの距離が近いCloseマイクなど各ポジションのマイク音量を上げていくと、弦のシルキーで明りょうな美しい質感を十分にとらえることができます。ちなみに各マイクのボリューム・スライダーを有効にすると、その分動作が重くなります。よって、プリセットをロードするときの負荷を最小限に抑えるために、デフォルトではTreeマイクのみがアクティブになっているのだと思われます。

それなりの負荷はかかりますが、Closeマイクなどの音量を上げて出音をチェックしてみました。周波数レンジがワイドで、非常に重厚かつ爽快であり、独特の緊張感をたたえています。各楽器がそれぞれの表情を持っているので、アレンジやアンサンブルの作りが顕著に音に現れると思います。近接系マイクの音量をさらに上げると、とても明るい響きが前に出てきて弦のザラっとした心地良い質感が見えてきます。

▲プラグイン画面中央下にあるマイク・セクションをクローズアップしたところ。左に見えるスライダーはサンプリングに使われた各マイクの音量を調整するもので、それらの下にある“<”や“>”などのボタンでページ送りすると、さらなるマイクのスライダーが現れる(全5ページ)。右にあるのはステレオ幅や定位を調整するスライダーで、“LR”と書かれたボタンでは左右の反転が可能だ ▲プラグイン画面中央下にあるマイク・セクションをクローズアップしたところ。左に見えるスライダーはサンプリングに使われた各マイクの音量を調整するもので、それらの下にある“<”や“>”などのボタンでページ送りすると、さらなるマイクのスライダーが現れる(全5ページ)。右にあるのはステレオ幅や定位を調整するスライダーで、“LR”と書かれたボタンでは左右の反転が可能だ

ユニークな奏法を駆使することで
楽曲に緊張感をプラスできる

奏法についても見ていきましょう。例えばLegatoはとても伸びやかで、Short(いわゆるスタッカート)は小気味良く、Bartok Pizzicatoはこの人数で録られているだけに迫力満点です。また弓の毛の部分ではなく、棒の部分を利用し摩擦で音を発する奏法である“Col Legno Tratto”、極端に駒寄りのポイントを擦って硬い音で弾くロング・トーン奏法“Long Super Sul Pont”などは、この音源ならではのものではないでしょうか。緊張感のある演出(奏法)を曲に盛り込むことができるという、映像音楽に携わるハンス・ジマーらしいコンポーサー目線の機能がたくさん詰まってます。

プリセットのマイク・セッティングや奏法をエディットし、狙いのサウンドを作り込めたら、ユーザー・プリセットとして保存することも可能。画面左にある下向きの矢印のアイコンをクリックすれば、名前を付けてセーブできます。

▲プラグイン画面の左にある下向きの矢印のアイコンから、ユーザー・プリセットのネーミング&セーブ機能にアクセスすることができる ▲プラグイン画面の左にある下向きの矢印のアイコンから、ユーザー・プリセットのネーミング&セーブ機能にアクセスすることができる

このHans Zimmer Stringsは、メロディやリズムに加えて、デリケートな温度感や音のニュアンスを求められるコンポーサーの皆さんにとって、とても魅力的な音源だと思います。今後もアップデートしていくと思われるので、コンピューター・スペックに余裕のある環境であればあるほど、のびのびと活躍してくれると思います。

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サウンド&レコーディング・マガジン 2018年7月号より)

SPITFIRE AUDIO
Hans Zimmer Strings
95,504円(価格は為替相場によって変動)
【REQUIREMENTS】 ▪Mac:OS X 10.10/10.11/macOS 10.12/10.13、VST/AU/AAX Nativeに対応したホスト・アプリケーション ▪Windows:Windows 8/10(いずれも32/64ビット)、VST/AAX Nativeに対応したホスト・アプリケーション ▪共通項目:2.5GHz/クアッド・コアのINTEL Core I7以上のCPU、16GB以上のRAM、184GB以上のディスク空き容量(SSDを推奨。インストール時のみ200GB必要)、64ビットOS/64ビットDAWでの使用を推奨