2つのサウンドをレイヤー可能
オケの中で抜けてくる不思議な音色
僕は以前からRevやAnalog Stringsはもちろん、SignalやSubstanceなど数多くのOUTPUT製品を使ってきました。同社ソフト音源は、圧倒的な音の太さ、そしてセンスの良さが光ります。音が最優先ですが、扱いやすいデザインも出色です。エンジンはこれまでの製品と同様NATIVE INSTRUMENTS Kontakt 5 Playerを使用していて、Mac/WindowsでスタンドアローンまたはAAX Native/AU/VSTプラグインとして動作します。
Analog Brass & Windsでは、AとB、2種類の音をレイヤーして1つのプリセットを構成。A/Bそれぞれの音色が素晴らしく、低域から高域までまんべんなく出ているのですが、これらが組み合わさることで表現できる太さと量感がピカイチです。プリセットは生の金管/木管楽器とアナログ・シンセを組み合わせたものが基本で、A/B個別の音色変更やレベル調整も可能となっています。
まず上部中央の音色名をクリックすると、29種に分類されたプリセット一覧が表示。aggressiveやrises&dropsを使えば、激しめな音色を作り込まずともすぐに鳴らすことができ、ここぞとばかりのサビ前や劇伴などで重宝します。
波形下の音色名部分をクリックすると各レイヤーの画面に移り、選択可能な音色の一覧が登場。レイヤー単位で好みの音色に変更可能(画面1)。Orchestral、Synths、Creativeと3つのカテゴリーに分かれており、CreativeはOrchestralとSynthsの中間的かつエフェクティブな音色(スウェルやドローン、ライズ系)が中心です。ちなみにOrchestralを選択したときのみ、画面右上のclose/farスイッチでマイキング位置=音の距離感を変えることができます。
さらに、レイヤー画面の上部では、バリエーションとしてone shot、pad、tapeが選択可能。one shotは単発フレーズ、padはその名の通りパッド的な空間のある音色、tapeは低域と高域を少しカットしてひずみっぽくなった、いかにもアナログ・テープ的な音色となります。先述のカテゴリーと合わせて、すごい数の音色が得られるわけです。
個人的にお薦めしたいのは生系=Orchestralカテゴリーの音色。オケと混ぜた際にすごく抜けてきますし、無機質でない。そしてダイナミクスがちょうど良いのです。基音が発音された後に聴こえる高域のブレスの出方が妙に人間っぽい。かといってただレンジが広いだけでもない、不思議な音色です。Analog Stringsもそうでしたが、この生音部分だけのソフト音源があってもよいほどだと思います。
エフェクトやモジュレーションも充実
macroスライダーでの簡単操作も可能
さらに、レイヤーA/Bそれぞれのパン設定やエフェクトなどの調整もedit、fx画面から操作可能です。上部のタブに機能が区分けされているのですぐにアクセスが可能な上、目的外の情報が画面に表示されません。またfxや後述のrhythm、arpタブにオン/オフ・ボタンが付いているのも、音色を確認していく上で非常にありがたいです。
またエフェクトに関してはプリセットそのままの状態で、音質はもちろん、かけ方やセンドの具合いが絶妙。まさにセンスの良さがそこに現れています。
そのほか、rhythm、arpタブはパターンのバリエーションが豊富で、人間味のある抑揚を含め、こんなリズムまで用意してくれているのか!と思うほど、面白いプリセットがそろっています(もちろん細かくエディットも可能)。注目すべきはrhythmのfluxボタンで、これをオンすると音をスライスしたかのようなブツ切り効果を演出可能。もちろんそのかかり具合やスライス・タイミングを調整することができます。リズムに関しては無限のパターンが作り出せますね。
最後に、メイン画面のmacroスライダーは、先のedit、fx、rhythmなどの画面に入ることなく、それぞれのパラメーターをメイン画面で調整できる機能。計4つのバーに、プリセットごとに異なるパラメーターがアサインされます。スライダーに音のひずみ&ローファイ感が増していくdirtや、アルペジエイターの音構成が変わっていくmoreなどに設定し、曲中でオートメーションをかけて変化をつけていくこともできます。
OUTPUT製品の良さは多数ありますが、今っぽいセンス、または独創性という意味で1つ上を行っているような気さえします。ただ注意しなければならないのは特徴がはっきりしているため、使うとすぐに“OUTPUTの音”だと分かるところです。良い意味でそれを感じさせない手法や技をユーザー自身でそれなりに見つけていくことも大事。ソフトのオリジナリティにユーザーのオリジナリティが試される……そんな魅力のある最高なソフトだと感じます。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2018年6月号より)