
ショック・マウントをカプセルに内蔵
着脱可能な金属メッシュ・フィルターも用意
第一印象は、グリル部がしっかりしていて、ややエラが張ったようで、グリップ部も前シリーズの細長いシェイプより一新された。同社のC7、C5といったハンド・マイクのデザインを踏襲している。サイズは52(φ)×186(H)mm。頑丈な亜鉛合金ボディは全体的に黒で統一され、落ち着いた光沢だ。グリルにはワイアー・メッシュを採用し、耐久性を高めている。重量は328g。C535EBの260gと比べるとやや重くなっているが、今日的なボーカル・マイクとしては標準的な重さだろう。むしろC535EBがかなり軽かったと言える。
構造的にはバック・エレクトリック方式のコンデンサー・マイクで、使用に際しファンタム電源(48±4V)が必要だ。またボディ裏側にローカット・フィルターのスイッチが有り、Flat/80Hz(−12dB/oct)を切り替えることができる。インピーダンス200Ω以下と標準だが、最大音圧レベルは150dB SPL(THD 1%)とボーカル用マイクとしては高い数値で、声の大きいボーカリストはもちろん、楽器にも使用可能だ。
資料を見ると、本機は長年にわたりプロのステージで高い評価を受けているC535EBのサウンドはそのままに、万全のノイズ対策を施した後継モデルとある。そのノイズ対策の一つとして、カプセル部に振動の吸収性能が高い特殊なゴムを使用したショック・マウントを、ボディとカプセルの接合部上下2カ所に配置。さまざまな方向/強度の衝撃も効率的に吸収するため、振動の影響による低域ノイズ(ハンドリング・ノイズなど)を大幅に低減できる構造だ。

さらにカプセルの土台を重厚にすることでダイアフラムの不要な共振を抑える構造になっているようだ。マイク内側の不要な反響をコントロールする構造にもなっており、ハウリングの発生を抑える工夫が施されている。
またカプセルはグリル、高密度スポンジ・フィルター、マグネット着脱式メタル・フィルターの3層で保護され、異なる素材のフィルターを組み合わせ、ポップ・ノイズをはじめとする中高域ノイズの影響を最小限に抑えている。前述のローカット・フィルターを使えば空調機器や振動などによる低域ノイズにも対応可能。ノイズ対策には徹底的に力を入れているようだ。

鋭い指向性でカブリを回避
近接効果を積極的に利用可能な作り
今回は屋内イベントのチューニング時に声で試してみた。持った感じはかなりしっかりした印象。声はハイ上がりで抜けの良さが目立つが、過度にギラギラしているまではいかない程良さだ。SHURE SM58と比べて5〜6dBほど感度が良く、カーディオイド指向性もかなり鋭く感じた。一般的に、コンデンサー・マイクの指向性は感度の高さも相まって広がってしまいがちだが、ライブでは分離の良さも求められるので、この指向特性は良い印象だ。
特に感じたのは近接効果が大きいこと。単一指向性マイクは、グリルを口に付けるほど近付けると、低域がブーストされる。これをメリットとしてとらえるか、デメリットと考えるかはPAオペレーターやボーカリスト次第だが、本機は近接したときと離し気味のときとの差が大きい。常にオンマイクで歌う人に使えば、安定したふくよかな低音はメリットになると感じた。さらにフィルターのローカット周波数も80Hzと程良く低いので、オンマイク時では低音が減るというより、ローは残しながら不要な部分をカットできる印象だ。高い耐入力も相まって、男性ボーカルにも向いているのではないかと思う。
本機の使用が想定されるパターンとして、ボーカリスト本人が気に入ってライブで使うケースが多いだろう。マイクの選定の基準として、声質や好みも重要だが、コンデンサー・マイクは感度が良い分、バンドの中音(ナカオト)も含めて声以外のいろいろな音を拾ってしまうことがある。天井が低く狭いステージでは、反射面が近いためカブリが多く、扱いづらいことも多い。さらにマイクの持ち方や距離も一定な距離でないと、その分モニター・エンジニアが音量を稼ぐときに忙殺され、苦労してハウリング・マージンを稼ぐはめになる。
そういったアンバランスな状況のパフォーマーにはダイナミック・マイクの方が良いのでは?と言いたくなることもあるが、本機は高域が持ち上がっている特性と、前述の近接効果をうまくコントロールできれば、一般的なコンデンサー・マイクよりもダイナミック・マイクと近い感覚で扱えるように感じた。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2018年6月号より)