
ARTURIAの独自技術TAEによって
高い再現性を持つエミュレーション音源
V Collectionシリーズに収録されているシンセは、TAE(True Analog Emulation)というARTURIA独自の技術を使い、実機のオシレーターやフィルターなどのエミュレーションを高い再現性で行っています。その粒立ちや太さ、独特の揺らぎなどは、最近のソリッドかつ多重発声で分厚い音が作れるソフト・シンセとは趣が異なりますね。
僕がARTURIAのソフト音源を使い始めた十数年前はまだバンドル版が無かった単品買いの時代。V Collection 2がリリースされたタイミングでアップグレードしたのですが、V Collection 2でバンドルされたのはARP 2600 V、CS-80 V、Jup-8 V、Mini V、Modular V、Prophet Vくらいのもの。V Collection 6は21種類ものシンセがセットになって66,000円で手に入れることができるのですから、技術の進歩もさることながら良心的な価格に驚きですね。個人的に仕事でよく使うのはARP 2600 VとModuler V。コシミハルさんのレコーディングではARP 2600 Vでトラウトニウムのような音を作ったり、BUMP OF CHICKENではシンセ・ベースに必ずと言っていいほどModuler Vを使用しています。あと、シンセ・リードには独特の揺らぎがあるProphet Vを試すことが多いです。
V Collectionはバージョン5で意匠が大きく変わり、インターフェース画面の大きさも任意で変更できるようになりました。V Collection 6でもその点は継承されています。主な変更点はバンドルされたソフト音源が増えたこと。Buchla Easel V、CMI V、DX7 V、Clavinet Vの4つですが、個人的には駆け出しのころにメインで使っていたFairlight CMIとDX7が加わったことが興味深いです。
モジュラー・シンセのBuchla Easel V
Fairlight CMI ⅡXを元にしたCMI V
Buchla Easel Vは1973年にBUCHLAから発売されたMusic Easelというキャリング・ケースに収められたモジュラー・シンセをエミュレーションしたもの。多少の変更はあるものの、ほぼ実機と似たパネル・デザインです。右上の矢印マークをクリックすると、Buchla Easel V独自のファンクション・パネルが表示されて、実機には無かったモジュレーション・セクションとステップ・シーケンサー、XYパッド、エフェクトの操作が可能。新たに追加された機能も組み合わせていろいろな使い方ができますが、この手のシンセらしくコンテンポラリー系や飛び道具系の音作りに向いています。スペーシーなアンビエント音や変態サウンドもお手のものですね。Buchla Easel Vだけで数十ページくらいの解説が必要なほど奥が深いシンセです。

CMI Vは1980年にリリースされた大きな筺体のサンプリング・シンセ(エアコンの室外機のよう)をエミュレートした音源です。実機のFairlight CMIの価格はリリース当時1,500万円くらいでした。僕は1988年ごろからFairlight CMIのSeries IIIを5年間ほど使わせてもらっていました。Series IIIでは分解能が8ビットから16ビットへと進化したこともあり、ライブラリーも前シリーズとはがらっと変更になっていたようで、Fairlight CMI ⅡXをエミュレートしたCMI Vに収録されているサンプルはどれもなじみのない音が多かったです。しかし、1984年ごろに流行していたデジタル・ポップなどで聴き慣れた音や、僕の心の師匠でもあるトーマス・ドルビー先生がサウンド・エフェクト的に使っていた音色などが幾つか見つかりました。

CMI Vにはサンプルをアサインするスロットが10個用意されており、サンプルを組み合わせて新たなサウンドを作ることができます。サンプルはビット・デプスが任意で下げられるので、ただフィルターでこもらせるのではなく劣化させることによる音作りも可能です。
右上のSCRと書かれたマークまたはプラグイン画面上のスクリーン部を押すと、ズームするアニメーションとともに音色エディットの画面が表示されます。実機もCRT画面とタッチ式ペンで操作していたので、こういうところも継承されているのかとうれしくなりました。ちなみに、プラグイン画面のQWERTYキーボードをクリックするとキー・タッチの音が出るギミックもあります(恐らく8ビット)。

実機には無いフィルターを備えたDX7 V
アンプ・シミュレーター搭載のClavinet V
次はFM音源のDX7 Vです。インターフェースは初代DX7の様相。音の再現性が素晴らしく、実機のDX7にかなり近い音がします。大きな違いと言えばS/Nが良くなったことと、フィルターとエフェクターが加わったこと、そしてエディット画面が洗練されたことです。それによりエディットがすこぶる簡単に、感覚的にできるようになりました。僕はFM音源でこの世界に入ったのでDX7系のエディットは慣れている方なのですが、DX7では数値だけしか目で見えるものが無かったので、頭の中でイメージしつつ音作りをしたものです。しかしこのDX7 Vではキャリアとモジュレーターの関係、エンベロープ・カーブなどが見た目で確認でき、どんどん音色を変えていける。これは素晴らしいなと実感しました。また、モジュレーション設定のパネルも秀逸でかなり分かりやすいです。

実機のDX7はフィルターが無く、もどかしい思いでエディットしていましたが、このDX7 Vでは簡易的ではありますがフィルターを搭載したことで、カラッとした音色からこもらせていくような音作りが可能になっています。さらに、実機のDX7の音色データであるSysExファイルをインポート可能。しかし、僕が所有している実機はDX7 II FDのためか、SysExファイルを読み込めませんでした。ボイス・モードもMonoかPolyの2択なので、DX7 II FDから追加されたUnison Polyモードが選べないため、持っている多くのプログラムの再現は叶わず……。初代DX7を持っている方は試してみるとよいでしょう。
最後のClavinet Vは、1960年代にHOHNERから発売された撥弦式ビンテージ・キーボードをエミュレートした音源。サンプリングに頼らない物理エミュレーションなので、細かいツマミの変更で元となる音そのものをエディットできるようになっているのが特徴です。加えて、Clavinet Vでは5種類のペダル型エフェクターとギター・アンプ・シミュレーターが内蔵されており、もう一歩踏み込んだ音作りが可能になっています。

V Collection 6の音源は、本棚アイコンから開くプリセット・ブラウザーがかなり見やすく、目的の音を探しやすいという利点があります。また、V Collectionのシンセの中から抜粋されたプリセットを収録するAnalog Labはバージョン3となり、ブラウザーは見やすく、そして2種類の音源を同時に鳴らせるマルチモードへの移行がシームレスになりました。以前のバージョンを使っている方も、この機会を逃さずアップグレードすることをお勧めします。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2018年3月号より)