
繊細なリボンを守るしっかりとした作り
ビンテージ・リボン・マイクに似た応答特性
届いたのはかわいらしいサイズのキャリー・ケース。ケースの中にはR-10本体と付属品であるマイク・ホルダーがシンプルに収められています。最近のリボン・マイクはだいぶ扱いやすくなったとはいえ、やはり繊細です。こういった頑丈かつ持ち運びしやすいケースに収められているのはうれしいポイントです。マイク・ホルダーはガタつきも無く、セッティングの際はポジション調整がしやすく好印象でした。
実際に楽器や声でサウンドを確認する前に、簡単なインパルス応答測定を行いました。比較の対象として、ROYER LABSの中で最も私のお気に入りであるSF-12(L側のみ)、そしてコンデンサー型のNEUMANN U87AIも同時に測定しました。なお、測定はいずれも目黒にあるEndhits Studioの環境と機材で行ったので、メーカーが行うような厳密な測定とは異なります。あくまで比較の目安として参考にしてください。
インパルス信号をスピーカーから出力したものをR-10、SF-12 、U87AIで収音した波形を見比べてみます。私がリボン・マイクに求めるポイントはコンデンサー・マイクやダイナミック・マイクとは異なる滑らかなトランジェント。私は、コンプレッサーでアタック調整できる範囲よりも短い範囲をトランジェントと認識しています。マイクを通して音を拾った場合、トランジェントがリニア過ぎる(鋭過ぎる)とかえって耳障りなサウンドになってしまうことがあります。例えばドラムのシンバルやアコースティック・ギターのカッティング、またはボーカルの歯擦音や破裂音などは、特にDAWへ直接録音する際に耳に痛いサウンドとして録音されてしまうことがあります。そんなとき、リボン・マイクを使用すると、生音を耳で聴いている状態に近い自然なサウンドが得られます。
波形を見比べると、U87AIのトランジェントが最も鋭角になっていて、それと比較するとSF-12はやや丸くなっているのが分かると思います。そしてR-10のトランジェントはいったんピークに差し掛かったところで谷ができています。この谷はビンテージのリボン・マイクに良く見られる形です。トランジェントが鋭角だからといって、それが良いマイクとは限りません。マイクを“音の変換器”として見た場合、確かにスモール・ダイアフラムの測定用マイクが“正確性”という意味では勝っていると言えますが、音楽作品を録音する上では正確なマイクが必ずしも最善の選択肢ではないことがほとんどです。人間の耳は非常に繊細で、このわずかなトランジェントの違いによってサウンドの印象がガラリと変わります。
私はこのマイクのキャラクターの違いを利用して、楽曲に合うサウンドを得ることを楽しんでいます。

温かみのある中域が特徴
リア側ではやや明るめのキャラクターに
次にR-10のサウンドを実際にチェックします。測定時と同じく比較の対象としてSF-12とU87AIを一緒に立て、アコースティック・ギター、スネア、ナレーションを録ってみました。
R-10の第一印象は“非常に状態の良いビンテージリボン・マイク”のようで、温かい中域が好印象です。今までのROYER LABSのリボン・マイクにはモダンなサウンドのイメージを持っていましたが、R-10に関してはそれよりも少しビンテージ・リボンに近いサウンドを感じます。SF-12と比較するとやや軽やかな印象で、測定で得られた傾向と同じく、トランジェントの聴こえ方もやはりビンテージ・リボンのようです。
アコースティック・ギター、スネア、ナレーションともにバランス良く拾えるため、非常に使い勝手の良いサウンドだと思います。また、EQでの高域ブーストが非常にスムーズにかかる点も同社のハイエンド・マイクと遜色ありません。−54dBvという高感度と、135dB SPL@50Hz、160dB SPL@1kHzという高音圧対応ということを考えると対応できる楽器は幅広く、個人的にはやはりブラス、特にトランペットとトロンボーンにバッチリはまるのではないかと感じます。
R-10は同社R-121などと同じく、双指向性のリア(背面)側が別のサウンド・キャラクターを持っています。リア側はローエンドが若干抑えられ、ハイが緩やかに持ち上がったような明るい音色を持っています。私はエレキギターやボーカルなど、“立たせたい”サウンドが欲しい場合は積極的にリア側を正面に向けてマイキングしています。
低価格なリボン・マイクの中には、おせじにも褒められないような音質のものも存在しますが、R-10はコストを抑えながらもやはりROYER LABSクオリティであり、プロフェッショナルなレコーディングにも十二分に対応するマイクです。価格を考えると初めてリボン・マイクを導入するユーザーにはもちろんお薦めですが、既にROYER LABS製マイクを所有しているユーザーにも別なキャラクターを持つモデルとして、新たな選択肢になると感じます。

(サウンド&レコーディング・マガジン 2018年2月号より)