
3基のエンジンを搭載するEuropa
波形を分解/再構築できるGrain
Reasonが最初にリリースされたのは2000年なのですが、独自のGUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェース)と操作感をぶれることなく今も貫いている点に感心してしまいます。使用する音源やエフェクトをラックにマウントするというシンプルで明解なインターフェースは、まだハードウェアからソフトウェアへの過渡期にいたユーザーに分かりやすさと安心感を与えてくれました。それから17年近い月日がたち、ソフトウェアが主流となった昨今ですが、音源/エフェクトを個別のバーチャルな機材として扱うReasonのGUIは、筆者のような世代に懐かしい感覚を、ソフトウェアから入った世代にはハードウェアに対する興味やあこがれのような気持ちを与えてくれるのではないかと思います。時代とともにGUIの果たす役割は少し変化しましたが、変わらないのは機材を扱う楽しさを随所に感じさせてくれる遊び心。そんなところに開発者たちのReasonに対するビジョンとこだわりがあるのではないでしょうか。
今回のバージョン・アップの大きな目玉と言えるのがEuropa(画面①)とGrain(画面②)という2種類のソフト・シンセ。Europaは多彩なオシレーター変調と通常のフィルターの前段に設置されたSPECTRAL FILTERによって、従来のシンセでは得ることのできない、動きを伴ったフィルター処理を可能にしています(画面③)。オシレーター、SPECTRAL FILTER、HARMONICS、UNISONの各セクションが3つずつあり、1組のセットがENGINEと呼ばれ、従来のシンセのオシレーター1基に相当します。2つのモジュレーターを持つオシレーター・セクションだけでもかなり音作りができますが、複雑かつ動きのあるカーブを設定できるSPECTRAL FILTERを組み合わせられるので、音作りの幅は想像を超えます。やはり得意なのは変調を生かした変化のある動的なサウンドで、一言でいえばエッジの効いた攻めのサウンドを得意とするシンセです。



音源となるサンプルをms単位に分割し、再配置して合成するグラニュラー・シンセシスを用いたGrainも、タイプは違いますがEuropaと同様に攻めの音作りを得意としたシンセです。グラニュラー・シンセシスだけでも、素材となるサンプルからかなりかけ離れたサウンドが作れるのですが(画面④)、Grainはエフェクトを含めたほとんどのパラメーターに対してLFOやエンベロープ、ベロシティ、ランダム、ノイズなどをソースとして変調が行えます。波形を解体し、再構築するその発音/変調方法は、サンプリングされたフレーズや音から摩訶不思議で非現実的な響きを生み出すことが可能です。またEuropaとGrainに共通して言えることですが、かなり複雑なモジュレーションができるにもかかわらず、インターフェースはシンプルに分かりやすくまとめられています。この点はPROPELLERHEADの“Reasonのデバイスはこうあるべし”というポリシーと、それを実現する巧みさを感じました。

複合エフェクトのSynchronousは
3つのLFOで高度なモジュレートが可能
次に紹介するのはオーガニックなサウンドに特化した3種類のプレイバック・サンプラーです。Klang Tuned Percussionはグロッケンやオルゴール、カリンバなどの音階が出せるパーカッションの専用音源。Pangea World Instrumentsはサズやアンクルン、ビザール・シタールなどの珍しいエスニック楽器を収録しています。Humana Vocal Ensembleはコーラスやソロなどのヒューマン・ボイスに特化した音源です。これらのデバイスはシンプルで分かりやすい共通のパネル・レイアウトを持ち、アタックやリリース、フィルターなど、サウンドの微調整が簡単に行えることが魅力です(画面⑤)。

Radical Pianoはサンプリングと物理モデリングを併用したハイブリッド・タイプのピアノ音源です(画面⑥)。3台のピアノ(2種類のグランドとアップライト)をベースに、マイクのセッティングが違う音をブレンドしたり、鍵盤やダンパー・ペダルの発するノイズや共鳴具合を調整して、幅広い音作りができます。ユニークなのがCHARACTERというパラメーター。EQやコンプ/リミッターが複合されたようなプリセットを25種類用意しており、つまみ一つでダークでおとなしいキャラクターから過激で荒々しい音まで、多彩にサウンドを変ぼうさせることができます。

最後に紹介するのは、ディストーション(リング・モジュレーションやビット・クラッシャーのモードもあり)、フィルター、ディレイ、リバーブが1つになったマルチエフェクト、Synchronousです(画面⑦)。テンポに同期する高度なモジュレーション機能を持ち、3つのLFOをソースとして画面中央に並ぶ10個のエフェクト・パラメーターをモジュレートできます。1つのパラメーターを複数のLFOで同時にモジュレートできるので、“16分で揺れながら2小節かけて上昇する”というような複合的な動きも簡単に作れます。そのほか、別のデバイスからのCVでLFOの動きに変化を加えたり、逆に別のデバイスにLFOをCVとして出力することも可能。リズミカルかつ複雑な動きを持ったサウンドを生成できます。

今やDAWに欠かせない規格であるREXファイルやReWireを策定するなど、PROPELLERHEADは高い技術力を持ったメーカーです。そんなPROPELLERHEADが長年こだわりを持って開発を続けているReason。初代から一貫して継承されている、中低域に量感があり少し重心が低く感じる独特のサウンド・キャラクターも魅力的です。また、Reasonは単独での使用はもちろん、ReWireを使用してほかのDAWとコラボレートする形での機能拡張も得意。機能制限なく30日間使用できるデモも用意されているので、他社のDAWをお持ちの方も、自分の制作環境にどのような刺激を与えてくれるか試してみることをお勧めします。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2018年2月号より)