「WALDORF VCF1」製品レビュー:ディストーション回路を備えたアナログ・フィルター・モジュール

WALDORFVCF1
WALDORFといえば、名機PPG Wave 2.3やMicrowaveなどを生み出したドイツのシンセ・メーカーだが、先進的なデジタル技術を駆使した独創的なアイディアは、1980年代ころから異彩を放っていた。そんな老舗メーカーが、近年Eurorackモジュラー・シーンに向けて次々と製品を送り出している。今回チェックしたのはVCF1というフィルター・モジュールだ。

オーディオ入力は2系統あり
1つはDistortionを経由する

早速スペックを説明する。本製品はアナログ回路による12dB/Octのステート・バリアブル・マルチモード・フィルター方式のEurorackモジュール。この方式の特徴はハイパス/ローパス/バンドパスといった異なる特性のフィルターを同時に生成できることが利点であり、後述する本機の特徴でもある。サイズは18HP、奥行き21mmで、他社の同サイズのモジュールに比べ、ズシリと重く高級感のある作り。奥行き21mmは、近年のパワー・ケースの流行を考慮した薄め(Skiff Type)の設計だ。

それでは本機に目を移し信号の流れを。パネル・デザインも分かりやすく好感が持てる。オーディオ入力にDistortionを経由するものとスルーするものの2つのチャンネルがあり、それぞれをミックス可能。ミックスされたソースはフィルターに送られ、ハイパス/ローパス/バンドパスの3つにエフェクト処理される。そして最終段のアウトの前で、オーバードライブ可能なゲイン・ポットを経てアウトプットへ。ここで気付くのは、Distortionや最終段のゲイン・ポットなど、本機のウリはひずみを付加できるパラメーターが多いということだ。実を言うと2つのインプットのポットにもその要素が含まれていて、12時の位置がユニティ・ゲイン(入力に対して出力が1:1)、それ以上にすると徐々にブーストされオーバードライブがかかる。試しに三角波をインプットに入れ徐々にインプットのツマミを上げていくと奇数倍音が増え、オシロスコープで確認すると矩形波に近付いて行く。この効果はアウトプットのツマミもほぼ同じで、どこでどうひずませるかが音作りのバリエーションになるだろう。ひずみによってFoldやWaveshaper的な音の変化にも似たうま味のある倍音が得られる。もちろん最大のひずみを付加できるのはDistortionセクションだ。どんなに奇麗な波形を入れても最終的にはダーティで凶暴な矩形波に変ぼうする。

本機には最終アウト以外にもハイパス/ローパス/バンドパス、そしてDistortionアウトという独立したアウトがあり、ソースは常に出力されている。モジュラー的な柔軟な考え方をするとバンドパス信号だけをエコーに送るなど、さまざまなアイディアが浮かぶ。例えばカットオフを12時辺りに設定してハイパス/ローパス/バンドパス各アウトをミキサーに立ち上げ、フェーダーでバランスを変えながら、またはVCAでコントロールしながら、DJアイソレーター的に使うのはどうだろう。レゾナンスを少し上げると癖がついてより効果的だ。

CVインプットは単/双極性の仕様で
多彩なモジュレーションに対応できる

モジュレーションに目を向けてみよう。CV制御できるパラメーターはカットオフ・フリケンシーとレゾナンスである。カットオフにアサインできるCVインプットは2つ。1つ目はユニポーラ(単極性)、もう一方はバイポーラ(双極性)の仕様になっている。もちろん2つは同時使用可能で、それぞれの電圧はミックス処理される。ユニポーラについては0~最大のアッテネーターと考えれば良いが、バイポーラ側のインプット・ツマミは12時がゼロで左がマイナス、右でプラスの仕様。よりフレキシブルなモジュレーションに対応できる。レゾナンス用のCVインプットにはアッテネーターは無い。仕様としては0~5Vの電圧範囲でレゾナンスのツマミをCVコントロール可能だ。

音に対する所感を述べる。入力段、Distortion、アウトプット・ドライブすべてのひずみ要素を無しにして、12dB/Octステート・バリアブル・フィルターの純粋なサウンドを吟味してみると、素直で癖のない実直な音がする。レゾナンスは2時くらいの位置で発振を始め、セルフ・オシレーションによる奇麗なサイン波が得られる。CVインにシーケンサーや鍵盤からの電圧を送れば音階も演奏可能である。次に入力したソースに対し徐々に各ポットのドライブを付加していくと今までの素直な性格がひょう変していく。特にレゾナンスは金属的な響きに変わっていき、ファットでアグレッシブなサウンド・メイクが可能だ。

最後に。1990年代以降Eurorack規格の普及の中で始まった新しいモジュラー・カルチャーの中で、私はシンセサイザーとは何かという概念を再考してきた。そこで出会ったのはBUCHLAやSERGEといった実験的なシンセである。語弊があるかもしれないがこれらのシンセシスにはフィルターという概念が希薄だ。1980年代に、どっぷりとフィルター・サウンドに代表されるMOOGシンセシスに浸かった私にとってカルチャー・ショックであったことは言うまでもない。翻って今、時が満ち、私の中で再びフィルター・ブームが巻き起こっている。フィルターは針穴からのぞいていた世界を一瞬にして大パノラマに変ぼうできるダイナミックなパラメーター。新しいモジュラー・カルチャーは2つのシンセシスの流れを融合し新しいフェイズに入っている。

▲最終段のオーバードライブをかけられるセクション。ゲインのつまみとハイパス/ローパス/バンドパスの切り替えスイッチを備える ▲最終段のオーバードライブをかけられるセクション。ゲインのつまみとハイパス/ローパス/バンドパスの切り替えスイッチを備える

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サウンド&レコーディング・マガジン 2018年1月号より)

WALDORF
VCF1
47,000円
▪シグナル・パス:distortion -> filter -> overdrive ▪インプット:オーディオ×2(ゲインつまみ付き)、CV(カットオフ)×2(ユニポーラ/バイポーラ)、CV(レゾナンス)×1 ▪アウトプット:Distortion、ローパス、ハイパス、バンドパス、ドライブ(それぞれ1系統) ▪外形寸法:91.4(18HP)×133.3(H)×25(D)mm ▪重量:320g