
4つのカプセルで全天球録音
さまざまな設置方法で収音できる
パッケージにはマイク本体とショック・マウント・ホルダー、ウィンド・シールド、専用ケーブルと1.5mの延長ケーブルが付属する。マイク本体は4つのカプセルが付いた独特の形で、これ1本で全天球(前後/左右/上下)の情報をすべて収録することができるのが特長だ。Ambisonics方式という1970年代から存在している技術を用いて3D空間を再現することができる。通常のマイクと異なりカプセルが4つあるため、専用ケーブルは途中から4本に分かれる独特の構造。そのため、4chのマイクプリと最低2ch分のファンタム電源、4trの録音ができるレコーダーが必要になる。
4つのマイクの方向はFLU(左前方上向き)/FRD(右前方下向き)/BLD(左後方下向き)/BRU(右後方上向き)で、収録時はマイクを縦にしてSENNHEISERのロゴを正面にするのが基本。こうすることで床からの反射を最小限に抑え、前後の音もより明確になるが、逆さまにつるしたり、横にして音源にまっすぐ向ける形での収録も可能である。この4方向の収音を行った4chの信号をAmbisonics方式ではAフォーマットと呼ぶ。VRで使用するためには、このAフォーマットから無指向/前後/左右/上下の4つの信号であるBフォーマットに変換する必要がある。フォーマット変換用プラグイン、Ambeo A-B Format ConverterはSENNHEISERのWebサイトから無償でダウンロード可能。使用時は4chを1trで扱う必要があるため、マルチチャンネル・トラックに対応するAVID Pro Tools|HDやSTEINBERG Nuendo、COCKOS Reaperなどでの使用が推奨されている。
では実際にどのように360°の空間を表現するのか検証していこう。Pro Tools|HDでは、まず最初にAmbeoで録音した4つのオーディオ・トラック、そしてQuadトラックを用意。QuadトラックにAmbeo A-B Format Converterをインサートし、Aフォーマットの4chを送ってレンダリングすることでBフォーマットに変換される。しかし、このままでは360°の空間をヘッドフォンなどでモニタリングできないため、ステレオ環境で聴けるようにバイノーラル方式へ変換するプラグインが別途必要になる。今回は推奨されているNOISE MAKERS Ambi Head、そしてAUDIO EASE 360Pan Suite、WAVES NXの3種類を聴き比べながら検証を行った。
立体感と奥行きのあるサウンド
ステレオよりも没入感ある音像に
まずはデッドなレコーディング・ブースにAmbeoを立て、シェイカーを振りながらAmbeoの周りをいろいろな方向に移動してみる。バイノーラルに変換した2ミックスをヘッドフォンでチェックしたところ、単なる左右の動きでもかなり立体的な感じがした。部屋の反射音を立体的にとらえているからだろう。AKG C414をAB方式で立てて録音したステレオとも比較してみたが、立体感と奥行きの表現も確実に差がある印象。続けて足音や外の雑踏を録音してみたところ、Ambeoではまるで箱の中に入っているような立体感を得ることができた。それに比べると通常のステレオは至って平面的。定位感は優れているが、どこか物足りなく感じてしまう。想定していたほどの上下感はないが、バイノーラルではこれまでのステレオよりはるかに没入感のある音像を作れた。また、サラウンド・スピーカーで再生してみると、さらにリアルな全方位感を得られる。特にマイクの後ろ側に回ったときの音などはバイノーラルでは再現しきれない位置関係が感じられ、上下への移動も自然に聴こえる印象だ。
ここまでバイノーラルとサラウンドでのモニタリングを検証してきたが、このAmbeoの音は360°の映像と合成させたときにさらなる力を発揮する。YouTubeやFacebookで360°の映像をよく見かけるようになったが、音はL/Rに固定されたものがほとんど。しかし、Bフォーマットに変換した4trをそのまま360°の動画と一緒に落とし込めば、映像とリンクして音も360°回すことが可能になる。この“回る音”や3Dモニタリングはこれからの音楽の作り方としてとても未来を感じるものであり、360°の空間をマイク1本だけでキャプチャーできるこのAmbeoは“音楽を面白くするキラー・アイテム”としてこの先もさらに注目度がアップしていくに違いない。

(サウンド&レコーディング・マガジン 2018年1月号より)