
オーディオI/O機能を内蔵し
高いヘッドルームで大入力にも対応
かつて、MIDIのハードウェア音源華やかなりしころは、ステージ上のキーボード奏者の周りは何台かの鍵盤本体に加えて、高層ビルのようなラックが林立し、あらゆる発音方式のラック・マウント音源と、その出力をまとめる鬼のようなチャンネル数のキーボード用サブミキサーがセットされている、というのが定番だった。月日は流れ、一台の鍵盤で非常に高品質かつバリエーションに富んだ音色が得られるようになると、現場でのセッティングなども含め、サブミキサーに要求されるチャンネル数は次第に減っていき、代わりにさらなる高音質や、コンパクトであること、堅牢であること、ミキサー以外の機能の統合などが要求されてきたのだが、このKey-Largoはまさにそれを形にしたような製品だと言える。
まず、概要を見るとKey-Largoは4chのペダル型キーボード・ミキサー、と紹介されているが、実際はアナログ・ステレオ入力(2ch)×3、USBデジタル(2ch)×1の8chミキサーである。つまり、ただのミキサーではなく、オーディオ・インターフェース機能を内蔵しているのだ。最近はすべてソフト・シンセで音源をまかなっているパターンも多いし、もちろん同期が必要な現場も増えている。特に、小さいライブ・ハウスなどではオーディオ・インターフェースを別途用意しなくて済むのはありがたい。
各部を見ていこう。入力はch1/2/3に通常のフォーン端子がステレオで2つずつ。Lchのみに入力した場合はモノラル扱いで出力される。デジタルはUSBから入力。エフェクトのセンド/リターン、出力に関してはメインがXLR端子のステレオ、モニターがフォーンでどちらもバランス出力である。また、ステレオ・フォーン・ケーブルを用いて、間にボリューム・ペダルを挟み込むためのセンド/リターン端子も用意されている。
各チャンネルのコントロールは、LEVELとEFX SENDの2つのノブだけ、と非常にシンプルで、パン/EQなどはない。ジャック側にも特にトリム・ノブなどは用意されていないが、かなり高いヘッドルーム持っており、高出力の音源でも全く問題なかった。
エフェクトのレシーブは1つのノブにまとめられていて分かりやすい。さらにモニター、メインともLEVELノブ1つのシンプルな扱いだが、グラウンド・スイッチがそれぞれに付いており、こういうところに現場対応の細やかさが出ていると思う。
パネルの左右両端にはフット・スイッチがあり、左側はエフェクトのオン/オフ・スイッチ。ステレオ/モノの切り替えは、左側面にある小さな穴の中にあるタップ・スイッチをミニ・プラグなどで押して切り替える。右側のフット・スイッチは、なんとサステインのリモート・コントロール・スイッチ。右側面にあるジャックから、キーボードのダンパー/サステインのコントロールに通常のフォーン・ケーブルをつなぐと、このフット・スイッチがダンパー・ペダルの役割を果たす。ちょっとオマケ的なギミックだが、足元に幾つも似たようなダンパー・ペダルを並べるよりは分かりやすいかもしれない。極性はこれも右側面の“穴の中”にあるタップ・スイッチで切り替えられるので、どのメーカーの楽器でも対応できる。また、右側面にはUSBと別に独立したMIDIの入出力端子も用意されており、単純なUSB/MIDIインターフェースとしても機能する。
音質は輪郭がハッキリとしていて
レベルを絞り込んでも色あせない
さて、肝心の音質だが、輪郭がはっきりしていて素直。ライブ向きだと感じたが、粗いとか圧縮感があるというわりではなく、非常に好感が持てる。特に気に入ったのは、レベルを絞り込んでいった際に音色が色あせる感じが全くなく、ちっぽけなツマミ一つという見た目の印象を裏切ってくれたことだ。また、コンピューターからの出力とアナログ入力の“なじみ具合”も好印象。同期やソフト・シンセと、ハードウェア音源とのキャラクターのバランスに現場で頭を悩ませることもないだろう。
RADIALと言うと、DIやベース用のプリアンプが評判の質実剛健なイメージだが、このKey-Largoもその印象を裏切らない出来だった。ちょっと重いのが玉にきずだが、無用に大きなサブミキサーよりも何倍も活躍してくれるに違いない。


(サウンド&レコーディング・マガジン 2017年12月号より)