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「LAVRY ENGINEERING Synchrony-16」製品レビュー:最大16系統の同時出力に対応するマスター・クロック・ジェネレーター

LAVRY ENGINEERINGSynchrony-16
今の時代、マスター・クロック・ジェネレーターでDAWシステムを同期するのは、もはや当たり前になってきました。やはりマスター・クロックを変えると、良くも悪くも音が変化するのです。よくエンジニア同士でも“どの製品がどう変わるのか?”などと情報交換をしていますが、今回はそのマスター・クロック・ジェネレーターのチェック。LAVRY ENGINEERINGは、マスタリングを中心としたプロのエンジニアの間ではおなじみのメーカーです。早速その新製品をレビューしてみましょう!

出力は4系統×4グループ
256倍スーパー・クロックにも対応

まずSynchrony-16の外観ですが、フロント/リア・パネルは共に説明書を読む必要も無いくらいシンプルで分かりやすいです。

フロント・パネルの一番左にあるLOCKボタンを押してRUNのLEDランプを点灯させると、LOCKボタン以外のすべてのボタンにロックがかかります。そして、EDITのLEDランプを点灯させると、すべてのボタンのロックが外れます。これは付いていてうれしい機能ですね。その隣のRATEボタンは、基本となるサンプリング周波数を44.1kHzと48kHzの2つから選択することができ、GROUP A〜Cのボタンは×1、×2、×4の設定、GROUP Dのボタンは×64、×128、×256(スーパー・クロック専用)の設定が行えます。さらにその隣には、1から16までのLEDランプが横一列に並び、点灯/消灯でリア・パネルのそれぞれの出力が機器につながっているかどうかを表しています。リア・パネル側にある出力の接続状況をフロントで確認できるのは、便利ですよね。

リア・パネルの特徴としては、全16個あるクロック出力がA〜Dの4グループに分かれているところです。また、GROUP A〜C(ch1〜12)は一般的に広く使われているワード・クロック出力で、グループD(ch13〜16)はDSDなどに使用するスーパー・クロック用の出力となっています。

使い方としては、まずRATEボタンで基本となるサンプリング周波数を選択し、各グループごとにその周波数の倍数を選択するという流れです。ちなみにSynchrony-16は、最高12.288MHzのクロック出力が可能です。

アナログ的な滑らかな音質
音像に奥行きが出て中低域もスッキリ

今回はAVID Pro Tools|HDXシステム環境でHD I/Oに対してインターナル・クロックとSynchrony-16からワード・クロックを供給した形で聴き比べてみました。

まずは、筆者自らミキシングを行ったオーケストラ編成の楽曲で聴き比べ。クロックはPro Toolsのセッションに合わせて48kHzで出力しました。これまでさまざまなメーカーのマスター・クロックで聴いてきましたが、良い意味でほかのメーカーのものとは違うサウンドが出てきました。特にストリングスは、少々ザラついていた高域も奇麗に伸び、マイクのカブりによる中低域の“モワッ”とした部分が消えてスッキリといった感じです。

全体のサウンドはアナログ的な質感と言いましょうか、滑らかな音質になり、レンジも広がりました。音像に奥行きが出てデジタル特有のギスギス感が薄れたように思います。簡単に言うと“マスタリングしてちょっと整えた?”と思えるほどの違いを確認することができました。また、ルビジウムを使用したクロック・ジェネレーターにも似たような音像ですね。ボーカルなどDAW内部のみで完結するミックスでは、2kHz〜4kHz辺りに声を張ったときのピーキーな部分があるのですが、その辺りの帯域もうまく抑えられています。EQでこれらの処理をやろうと思っても、ここはなかなか難しい部分です。スネアのリバーブなどは“長くなった?”と思えるほどリリース感が分かります。ちょっと大げさな表現かもしれませんが、それくらい音が変わるのです。ただし、音量感という部分では若干小さく聴こえる傾向があるようですね。

次は、ダンス・ミュージックの楽曲でも聴いてみましたが、クロックはPro Toolsのセッションに合わせてここでも48kHzで出力。結果、出音の傾向は同じでしたが、中低域の“モワッ”とした部分を前に出したいこのような音楽ジャンルでは、その辺りが逆にスッキリとしてしまうので、好みが分かれるところでしょう。

最後にレコーディングで使用してみました。ここではクロックは96kHz(48kHz×2)で出力しましたが、奇麗に録りたい楽曲であったため、とても良い印象でした。ただし、ゴリゴリのロック・ミュージックの録音だと、洋楽のような整った音になり気持ち良いのですが、迫力に関してはちょっと物足りないかな……という感じもありました。

このSynchrony-16は全体的に音を整えてくれるので、音像に奥行きを出したい場合や、とにかく奇麗に聴かせたいときにはぴったりだと思います。変にデジタルくさい音にもならないので好印象ですね。LAVRY ENGINEERINGはマスタリング向けAD/DAでは有名なメーカーですが、Synchrony-16においてもマスタリングで使用するのが想像できる音質だと思いました。やはりマスター・クロックを変えるとその音も変わりますので、実際に試してみることをお勧めします。個人的にはこのSynchrony-16はマスター・クロック・ジェネレーターのバリエーションの一つとして持っておきたいと思いました。変にギスギスせず奇麗な音を作りたい方は、ぜひ一度試してみてください。あらためて、デジタルは奥が深いですね。

▲リア・パネル。左から、ワード・クロック出力×12(BNC)、スーパー・クロック出力×4(BNC)、電源端子、電源スイッチを備えている ▲リア・パネル。左から、ワード・クロック出力×12(BNC)、スーパー・クロック出力×4(BNC)、電源端子、電源スイッチを備えている

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サウンド&レコーディング・マガジン 2017年12月号より)

LAVRY ENGINEERING
Synchrony-16
オープン・プライス(市場予想価格300,000円前後)
▪サンプリング・レート:44.1/48/88.2/96/176.4/192kHz、2. 8224/3.072/5.6448/6.144/11.2869/12.288MHz ▪出力端子:BNC×16 ▪外形寸法:482.6(W)×44.5(H)×292.1(D)mm ▪重量:6kg