
API独自のオペアンプ2520を採用
最終段にはRE-115Kトランスを搭載
3124Vは、従来製品のマイク/ライン・プリアンプ3124+をマイナー・チェンジしたもの。アウトプット・レベル・ノブが追加されたほか、3:1アウトプット・トランス・スイッチ(後述)の搭載により、クラシックなAPIコンソールのサウンドに近付けやすくなったと思います。基本的な設計は3124+と同様で、ディスクリート回路を使用したオーディオ・デザイン、REICHENBACH ENGINEERING RE-115Kトランスを使ったマイク入力、サウンドの肝となるAPIオリジナルのオペアンプ=2520を採用したインプット・ゲインなどが特徴です。
パネルに関しては3124+と同様、APIらしくブラックを基調としつつブルーを随所に配したデザイン。ノブもAPI独特の丸みを帯びたもので、触るだけでも同社製品だと分かるでしょう。各チャンネルの構成は全く同じで、インプット・レベルを示すVUメーター(LED仕様で縦型)やアウトプット・レベルおよびインプット・ゲインのノブ、位相反転、48Vのファンタム電源、−20dBのPAD、入力レベル切り替え(マイクもしくはHi-Z)、3:1アウトプット・トランスの各スイッチがあります。
さて、皆さんが一番気になるのは、3:1アウトプット・トランスのスイッチだと思います。本機の回路の最終段にはアウトプット・トランスがあり、回路内部のアンバランスのオーディオ信号をバランス出力にします。ビンテージ・オーディオ機器全般に通じることですが、トランスが命と言えるほど、それによるサウンドの変化は重要。トランスには一次側のコイルと二次側のコイルがあり、それらの巻き線数の比率により、レベルやインピーダンス、サウンドに変化がもたらされます。そして3:1スイッチをオンにすると、巻線数の比率がデフォルトの1:1から3:1へと切り替わるのです。3:1のときは、レベルが9.5dB下がることになります。本機のゲインは最大65dB。3:1アウトプット・トランスとアウトプット・レベル・ノブにより、そのサウンドを損なうことなく、さまざまな機器に送ることができるでしょう。
エッジがあって抜けの良い音質
オンマイク時に特徴が出る印象
さて、実際に使用してみましょう。まずはエレキベースでチェック。Hi-Z入力に接続してテストしてみると、思った通り張りがあって、明るく、非常に抜けの良いサウンドです。サウンド・ダリのNEVE 1073と比べてみたところ、どちらも甲乙が付けがたく、お互いに譲れない部分を持っていることが再確認できました。この3124Vだからこそ楽しめるのは、インプット・ゲインとアウトプット・レベルを組み合わせた音作り。ヘッドルームの広さを生かし、ひずむギリギリまでゲインを上げても、後段の機器の耐入力に合わせてアウトプット・レベルを下げることができるのです。次にアコースティック・ギターでチェックしてみました。やはり想像していた通りで、ベースと同様に明るくてエッジの効いたサウンドです。
3124Vは、非常に近接したオンマイクで用いる方がオフマイクよりも良さが出るようです。オフ気味のマイキングで使用すると、エッジも立たず、やや物足りないサウンドに感じました。これはピアノに使ったときにも思ったことです。あくまでも想像ですが、APIが設立された1968年と言えば、すべての楽器をオンマイクで録音し始めたロック誕生のころなので、設計自体がオンマイクでの使用を念頭に置いているのではないかと感じました。
最後にドラムでのチェックです。これは、さすがAPIという感じ。まさに脱帽です。とりわけスピード感や抜けの良さは唯一無二で素晴らしい。パーツ単位で聴いてみると、フィルのタムの抜けが特に良いです。3:1のスイッチに関しては、残念ながら今回のレビューだけでは音質変化を検証するまでに及びませんでした。レベルは確実に9.5dB下がるのですが、大きなサウンドの違いがあるのかと言われれば、本当に微差だと思います。ただし、よりさまざまなソースを試せれば、おいしいポイントが見つかるかもしれません。総合的には、オンマイク時のサウンドに“さすがはAPIだ”と痛感したチェックとなりました。


撮影:小原啓樹
(サウンド&レコーディング・マガジン 2017年12月号より)