
高品質ADコンバーターを内蔵
iOSデバイスやコンピューターから電源供給
まずMK 4 Digitalは、SENNHEISERからすでに発売されているMK 4というコンデンサー・マイクに、APOGEEの高品質ADコンバーターを内蔵している製品です。ここがモバイル用途におけるDAWシステムの大革命。通常、コンデンサー・マイクには48Vファンタム電源が必要で、そのためには電源供給可能なマイク・プリアンプやオーディオ・インターフェースなどが必要となります。しかし本製品は、それらのものは一切不要。付属のLightningケーブルやUSBケーブルを用いることにより、iOSデバイスやコンピューターに直接接続し、電源供給を受けられます。さらには、APPLE Logic Pro X、GarageBand、AVID Pro Toolsなどの主要ソフトウェアですぐに録音ができるということです。まさに、YouTubeなど、近年におけるインターネット動画配信ユーザーが“もっと手軽なセッティングで良い音質のマイクはないの?”という声を反映して作られた製品なのではないでしょうか。
次に、スペックを見ていきましょう。APOGEEによるADコンバーター部分は24ビット/96kHz対応です。SENNHEISERのハイエンド・ボーカル・マイク、E965の音響特性を元に開発されたマイク部分は、24金メッキ1インチのトゥルー・コンデンサー・カプセルを搭載しています。また、マイク本体には、PADやローカットなどのスイッチは一切見当たらず、指向性は単一指向性のみの非常にシンプルな仕様です。
ドライバーが要らない簡単なセッティング
音の角が整った上品な音質
さて、実際に接続してみます。MK 4 Digitalは、主要のソフトウェアであれば自動的にデバイス認識されるため、基本的にドライバーは必要ありません。筆者がAPOGEEサポート・センターに聞くと“唯一、iOSにおける録音アプリなどでマイクを認識しない場合のみ、オーディオ・インターフェース・コントロール・アプリケーションのAPOGEE Maestroを使ってください”とのことです。
まずはiOSから試してみましょう。今回は、ピアノ録音の現場でピアノ向けて立てたNEUMANN U67+マイクプリの横に、MK 4 Digitalを接続したAPPLE iPhoneを立てて録音してみました。iOSアプリのAPPLE MetaRecorderを立ち上げると、もうメーターが振れているのです。その上枠には“MK 4 digital”と表示があり、本機を認識しているのが分かります。後は録音ボタンを押すだけで、簡単にレコーディングが行えました。
MK 4 Digitalの音は、一言で言うと“ナチュラルでフラット”な音だなと思いました。U67はボーカルなどに向いた中高域にある種のピークがあり、素材感のある独特な音色を作っているのに対して、MK 4 DigitalはDAWになじみやすい、フラットな印象があります。個人的には音の角が整った上品な音質です。
また、驚いたのはSPL(最大音圧レベル)が141dBもあるということ。これは、相当大きな音にもひずまないということであり、実際のレコーディングでは、ピアノの突然のフォルテな音にもびくともせず、しっかりアタック音を拾っていたのは驚きました。低価格帯のマイクは、こういう状況では“ビチッ”とひずんでしまうことが多く、個人的には高評価です。また、ボーカルのみならずドラムやギター・アンプなど、音量が大きなもののレコーディングにも、遠慮なく使用できるのではないかと思います。
自宅スタジオでは、付属のUSBケーブルでマイク本体とMacに接続。APPLE Logic Pro Xを立ち上げ、オーディオ設定画面を開いて見たところ“MK 4 digital”というデバイス名のオーディオ・インターフェースとして認識されました。早速、簡単な楽曲トラックを流しながら自分の声を録音し、再生してみたところ、プロ・スタジオで試したときと全く同じ印象。楽曲に使いやすい音質のボーカル音が聴こえてきました。
MK 4 Digitalは、オーディオ・インターフェース要らずの手軽さと、デバイスの自動認識におけるセッティングの楽さ、それでいて音質も高品質で、さらにボーカル以外のいろいろな楽器の録音にも使えるという、オールマイティなコンデンサー・マイク。筆者自身、コンピューターとマイクをUSBケーブルでつなぐだけで、こんなに簡単にいいサウンドが録音できる便利さと、クオリティの高さにとても感動しました。モバイル使用したいユーザーには、特に一押しの製品だと思います。

撮影:川村容一
(サウンド&レコーディング・マガジン 2017年11月号より)