
3機種共に出力トランスを搭載
透き通るような音質のマイクプリ502
今回のテストは、スタジオにてMIDASの3つのモジュールとSSL SL4000シリーズ・コンソールの入力チャンネルを比較する形で行った。電源ラックはMIDASのL6(オープン・プライス:市場予想価格34,800円前後)を使用。500互換モジュールを6台収められるもので、シリーズ機として10台仕様のL10(オープン・プライス:市場予想価格58,000円前後)もラインナップされている。3つのモジュールの接続順序は、マイクプリの502→EQの512→コンプの522とした。
まずはマイクプリの502からチェックしてみよう。本機は入力部で最大+60dB、出力部で最大+20dBのブーストが行え、合わせて+80dBという高ゲインでの使用が可能だ。入力ノイズは+60dBゲイン時に−127dBuなので、高ゲインでもSN比は優秀。CMRR値(マイク本体やケーブルに乗ってしまった外来ノイズをキャンセルする、バランス伝送における一番基本的な性能値)も+60dBゲイン時で−100dB。これも優秀な数値だ。502はオールドのリボン・マイクなどにも対応するだろう。
入力ゲインのツマミは5dBずつのステップ式。ユニークなのはツマミの外周部にLEDが組み込まれ、レベル・メーターになっている点だ(写真①)。同様のメーターは出力レベルの部分にも組み込まれていて、使ってみると思いのほか分かりやすい。ゲイン・ツマミを絞り切った状態での最大入力は+24dBu、インピーダンスは10kΩとうたわれているので、多くのライン・レベル機器を入力することもできる。10kΩなのでパッシブ型のベースなどはハイ落ちしてしまうだろうが、エフェクターを1つでも介せばインピーダンスがマッチするだろうから、積極的にDI代わりとして使うのも、宅録ならアリかもしれない。

本機にはローパス・フィルター(1〜40kHz/12dB/oct)とハイパス・フィルター(10〜400Hz/12dB/oct)が搭載されている。フィルターというものは、本線であるアンプ回路内へ直列に挿入されるため、ローコスト化するとカットした以外の帯域の品位を下げかねない。しかし本機はさすがに本線回路と同等のバッファー・アンプを用いているようで、音質が損なわれる印象は無い。
502のマイクプリとしての音質は、ひずませてみたところ、個人的にはSSLより好みだった。SSLは、SL4000シリーズを使っているせいもあるのだが、ややヒステリックなひずみ方をする。それに対し、本機はいわゆるソフト・クリップ的な音。ローパス・フィルターで高域を丸めれば、十分に音作りの一手として使える。ひずませずに使えば、同社のかつての最上位アナログ卓Heritage 3000由来の透き通るような音だ。イギリス設計の高級機には高域特性を重視したものが多く、本機も出力トランスをバイパスしたデフォルトの状態では、周波数特性20Hz〜40kHz(±0.5dB)をうたっている。なおトランスは、本体のTXスイッチをオンにすることで使用可能だ。
さてここでレビューする3機種は、すべて同じ出力トランスを搭載しているのだが、この502だけがトランスレス・バランスをデフォルトとし、トランスを通すか通さないかを選択することができる。この辺りにMIDASの本音を見た気がする。オーディオ信号用トランスというものは、特殊設計されたもの以外、20Hz以下/20kHz以上を通さない。MIDASは、この出力トランスを使った場合、いわゆるビンテージ・サウンドが得られるとうたっている。“モダン設計の電子回路+由緒正しいトランス結合”がこの3つの製品におけるポリシーなのではないだろうか。
EQ後の位相変化が少ない512
スムーズな動作が特徴のコンプ522
続いては4バンド・フル・パラメトリックEQの512を見ていく。本機は、シルキーEQと讃えられたHeritage 3000のEQ部をそのまま受け継いでいる様子。比較試聴に使ったSSLコンソールのEQは、マスタリング用として有名なMASELECのボードに交換したモジュールなのだが、それと良い勝負だ。変化させた帯域周辺の微細な位相変位が少ない、いわゆる無味無臭型のEQ。音質は申し分ないのだが、シルキー故にクリップ直前まで気付きにくいので、警告ランプなどがあれば親切だろう。
EQツマミに関しては、各帯域のものが周波数ポイント/ゲインとバンド・ワイズ(Q幅)の2つに分かれている(写真②)。前者は周波数が外周、ゲインが内周にあるのだが、個人的にはゲインの外周にバンド・ワイズが配置され、周波数を独立させている方が扱いやすい。特に、EQを使ってワウ・ペダルのような効果を作る場合はそうだ。このバンド・ワイズは0.1〜2オクターブの範囲で調整可能。いわゆる急な谷カットができるので、PA用途の際には重宝する場合があるだろう。

続いてはコンプ/リミッターの522。MIDASブランドのコンプを使うのは初めてだが、パネルには各パラメーターが設定の順に上から並んでおり、とても分かりやすい。心臓部のVCAに何が採用されているのかは不明だが、スムーズな動作をする。機器固有の音色を売りにするものというよりは、ユーザーがどう使いたいかを正確に実現するタイプだろう。
機能としてよくできているのは、サイド・チェインにローカットを入れられるところ(写真③)。入力信号に含まれる低域成分が、コンプの動作を支配しないようにするための機能だ。また“presence”というツマミでは、VCAを通さない中高域成分を加えられ、コンプが効いているときのハイ落ちを改善することができる。これも、とてもよくできている。SSLコンソールにもサイド・チェインへフィルターを挿入する機能があるが、このプレゼンス感を実現するには原音を異なるチャンネルにパラって、コンプレッションした信号とミックスしなければならなかった。522のサイド・チェインとpresenceツマミは、往年の先輩たちのテクニックを簡単に得られるアイディアだ。コンプ感が強くとも低域と高域がよく出たサウンドを簡単に得られる実力機なので、2台をステレオ・リンクさせることができればなお良いのにと感じた。

ここでレビューしたモジュールをPA用として持ち運ぶ場合、決して現場のコンソールのマイク・インに接続しないでほしい。S/Nの劣化を招くからだ。せめてライン・インかインサート・リターンにつなごう。また、事前に現場のコンソールの端子規格を調べておくことも大事だ。




撮影:川村容一
(サウンド&レコーディング・マガジン 2017年11月号より)