
リアパネルに多彩な機能を搭載
保存した設定はすぐに再現可能
12インチ低域ドライバー搭載のPRX812W Poweredと15インチ低域ドライバー搭載のPRX815XLFW Poweredの重量は、それぞれ18kgと27kgで、大人一人で運ぶ際でも負担にならないと言えよう。PRX812W Poweredは、マイク/ライン・レベルの切り替えが可能なXLR/TRSフォーン・コンボ入力端子と、RCAピン入力をそれぞれ2系統と、ミックス・アウトを装備。PRX815LFW Poweredは、XLR/TRSフォーン・コンボ入力端子とスルー出力をそれぞれ2系統と、ゲイン・ノブを用意している。両機ともリア・パネルにフロントLEDの点灯/消灯ボタンとワイアレス接続時に使用するコネクト・ボタンを搭載。また、PRX812W Poweredには、用途に合わせたEQ処理を行うメイン/モニター・ボタンや、ch1/2の信号をゲイン・ノブでミックスしたバランスで出力するか、そのまま出力するかを選択できる“50/50ミックス・ボタン”が備わっている。
このシリーズに搭載された無線通信機能は、1台のタブレットにPRX Connectという専用アプリをインストールし、Wi-Fi接続で複数のスピーカーをまとめてワイアレス制御できるというもの。システム全体の8バンド・パラメトリックEQ処理が行えるほか、各スピーカーのボリュームやミュート、ディレイなどをコントロールも可能である。
スピーカーとアプリ間の接続は、誤作動防止のためのボタン長押しや、Wi-Fi設定画面とアプリ画面の往復で少々時間がかかったが、一度接続してしまえばそれ以降は電源を入れるだけで容易にセットアップができ、手間がかからなくて良い。LANケーブルなどの配線も必要無いので、少人数、短時間でセッティングが行える。また、設定した内容は、スピーカーとタブレットに保存されるとともに、タブレットから簡単に設定をリコールすることもできる。コンソールや周辺機器に頼らず、自分好みのチューニングをすぐに再現できるので非常に効率的だ。
クリアな高域とパワフルな低域
好きな場所からスピーカー・バランスを調整
早速、約60畳のリハーサル・スタジオで本製品をサイド・フィル・スピーカーとして使用した。環状ポリマー製ダイアフラムのコンプレッション・ドライバーを採用した高域は、クリアな印象である。またPRX812W Poweredの水平方向90°×垂直方向50°という指向性は、適度にセンターを狙うことができた。今回はウェッジ・モニターとしては使用しなかったが、2本で活用するとより適切な指向性が得られるだろう。当日の現場では、フルレンジで割と高い音圧が必要だったため、ローミッドに関しては15インチ・タイプのPRX815W Poweredも試してみたいと思った。また、サブウーファーのPRX815XLFW Poweredは、サイズの割には予想以上にパワフルであった。
PRX Connect内で操作する8バンド・パラメトリックEQは使いやすく、サブ帯域の処理に4ポイント使っても、まだ残り4ポイントもあり十分な余裕を感じる。ちなみに、操作画面のボリューム・フェーダーには数値表示が無いので注意が必要。とはいえ、現場でiPadを持ち歩きながら、気になる部分を微調整をできるのは便利だ。
近年、コンソールをタブレット端末でコントロールするのが一般的になってきたが、いわゆるプロセッサー部分は一度決めたら動かさないか、コンソール側でコントロールすることの方が多い。しかし、コンソールのDSPで行っていた出力レベル設定やEQ操作も、スピーカー側で記録しておけばコンソールの自由度はさらに増し、パフォーマンスも向上するだろう。今回のPRX800W Powered Seriesの登場により、現場のエンジニアがこの視点を知るきっかけになれば良いと思う。気になった点を1つだけ挙げるとすれば、スピーカー本体にはマスター・ボリューム・ノブが無く、すべてPRX Connect内でコントロールする仕様となっているということである。不安定なWi-Fi接続環境や、予期せぬタブレット端末の電池切れ、または紛失などにはくれぐれも気をつけたい。



(サウンド&レコーディング・マガジン 2017年10月号より)