一部の環境において、会員限定記事の表示がうまくいかない場合が報告されています。その場合、まずはブラウザを最新にアップデートした上、WindowsではCtrl+Shift+R、Macではcommand+shift+Rでの再読み込みをお試しください。また、ほかのブラウザの利用もご検討いただけましたら幸いです。

「KLARK TEKNIK EQP-KT」製品レビュー:EQP-1Aをモデルにしつつ現代的な設計を施した真空管EQ

KLARK TEKNIKEQP-KT
ビンテージの名機たちは、さまざまな形で復刻されています。そのたびに“似ている/似ていない”などの議論が交わされていますが、使える機材であるかどうかが一番のポイントだと思います。どんな機器にも必ず“使いどころ”があるので、そこを見極めて触ってみると、より楽しく使うことができます。ということで、今回はEQの名機PULTEC EQP-1Aを意識したモノラル真空管EQ、KLARK TEKNIK EQP-KTをチェックしてみましょう。KLARK TEKNIKは、レコーディングよりもPAの現場でおなじみなので、どんな音がするか楽しみです。

2バンド+ハイカットというEQ構成
MIDASのカスタム・トランスを搭載

EQP-KTはシルバー・パネルで、ノブのレイアウトを含めてEQP-1Aを意識した作りとなっており、なかなかの面構えです。2Uラック・マウント・タイプですが、奥行きは167mmと短い仕様。リア・パネルを見てみると、ビンテージ機材によくあるトランスなどの出っ張りが無く、すっきりとしています。ユニバーサル電源を採用し、100〜240Vに対応。入出力はトランス・バランス仕様で、端子の形状はXLRとTRSフォーンです。

EQは“ローとハイの2バンド+ハイカット・フィルター”という構成で、すべてシェルビング・タイプ。もちろんEQP-1Aと同じ真空管仕様です。機能的な部分を説明しておくと、ローEQにはブーストとカットのノブがそれぞれ独立して備わっています。不思議な仕様だと思うでしょうが、これもEQP-1Aを踏襲したものです。周波数ポイントは、20/30/60/100/200/400/800Hzから選択することが可能。EQP-1Aには無い200/400/800Hzが追加され、中低域まで扱えるのはよいと思います。ハイEQはブーストのみに使用可能で、周波数ポイントは3/4/5/8/10/12/16kHzから選ぶ形。Q幅はBANDWIDTHノブで変えることができます。ハイカット・フィルターはカットオフ周波数を3/4/5/10/20kHzから選び、選択したポイントよりも高い帯域をカットします。

ブースト/カットなどのノブはすべて軽いクリック式になっているので、2台用意してステレオ・ペアで使う場合も設定を合わせる参考になるでしょうし、リコール性も上がります。また、スタジオなどで使用するにあたっては直接関係しないものの、真空管が内部でしっかりと固定されているのもポイントです。レコーディング向けアウトボードの真空管は、基板に挿して固定されている場合が多いのですが、本機では真空管の上部からも固定されているので、持ち運びやPAの現場でも安心して使えるでしょう。この辺りはKLARK TEKNIKらしいですね。

本機はEQP-1Aをかなり意識していますが、完全にコピーしようとしたモデルではないと思います。入出力トランスも、PAの世界でよく使われているMIDASのカスタム・トランスを使用しているなど、細かいところでは現代に使いやすいよう再設計して作られています。

EQP-1Aと似た傾向のローEQ
ハイEQは効果が分かりやすく現代的

さて、肝心の音については、やはりEQP-1Aと聴き比べてみました。ただしEQP-1Aには経年変化や個体差があるので、それを加味して読んでいただけたらと思います。まずローEQに関しては、EQP-1Aと似た質感になっていますが、もうちょっとタイトなイメージです。KLARK TEKNIKの製品はPAの現場でよく使われているので、低域のタイトさは意識するところだったのかもしれません。パッシブEQらしいナチュラルなかかり方は、EQP-1Aと変わりません。ブーストとカットを同じ値で同時に行ったときの、独特のディップも味わうことができます。

先述の通り200/400/800Hzが追加されており、その帯域をコントロールできるため、よりいろいろなソースに使えるようになったと思います。実際に使っていて“この帯域が追加されていて良かった”と思うことが多々ありました。EQP-1Aは低音のイコライジングにしか使わなかった、という方でも、EQP-KTならボーカルなどほかの帯域のソースにも使ってみようと思うでしょう。

ハイEQに関しては、ちょっとEQP-1Aとはイメージが違うようです。高域を少し足して抜けと空気感を加えたい場合など、EQP-1Aではナチュラルな感じに持ち上がるのですが、本機では上げた周波数がはっきりと分かる形で音に出ます。例えるならばアクティブEQのような感じで、きらびやかなイメージ。現代的なかかり具合になっている印象です。BANDWIDTHを変えてもイメージは変わらなかったので“選択した周波数をコントロールしますよ!”というはっきりとしたイコライジングが可能です。ブーストしたときにちょっとギラつきが気になるなと感じたら、別途ハイカットが付いているので、それで少し丸くするなどの処理も行えます。

初心者の方には、本機のようなタイプのEQは考え方が難しいと思いますが、ノブも少ないので使ってみるとすぐに慣れるでしょう。以上のインプレッションをまとめると、真空管の温かい質感をまといつつ、ローEQはタイトでEQP-1A的な変化の仕方。ナチュラルなので音作りがしやすいと思います。ハイEQは、サラっとしているというよりは存在感があり、音が軽くならずに高域を上げられる感じです。何しろ効果がはっきりとしているので、“音を作るぞ”というときに便利でしょう。

今回、いろいろな音源で試してみましたが、変化をはっきりと聴かせたいPAの現場などで特に便利かもしれません。そして何と言ってもEQP-1AタイプのEQとしてはリーズナブルなので、一度その効果を試してもらえたらと思います。プラグインでは味わえない質感を持った、面白いEQだと感じました。

▲リア・パネルには左から、ACインレット、ライン・アウト(XLR&TRSフォーン)、ライン・イン(XLR&TRSフォーン)がレイアウトされている ▲リア・パネルには左から、ACインレット、ライン・アウト(XLR&TRSフォーン)、ライン・イン(XLR&TRSフォーン)がレイアウトされている

撮影:小原啓樹

サウンド&レコーディング・マガジン 2017年5月号より)

KLARK TEKNIK
EQP-KT
175,000円
▪回路構成:クラスA ▪真空管:12AX7、12AU7 ▪ローEQ:ブースト(±0〜+12dB、シェルビング)、カット(±0〜−24dB、シェルビング) ▪ハイEQ:±0〜+12dB/シェルビング、±0〜+10dB/Q幅をBroadに設定したとき ▪ハイカット:±0〜−20dB、シェルビング ▪周波数特性:20Hz〜20kHz(±1dB) ▪全高調波ひずみ率:0.1%以下(@1kHz、+4dBu) ▪ダイナミック・レンジ:101dB以上(20Hz〜20kHz unweighted) ▪SN比:80dB(@+4dBu) ▪外形寸法:483(W)×88(H)×167(D)mm ▪重量:3kg