「BEYERDYNAMIC DT 1990 Pro」製品レビュー:進化したテスラ・ドライバーを搭載する最上位オープン型ヘッドフォン

BEYERDYNAMICDT 1990 Pro
BEYERDYNAMICスタジオ・ヘッドフォンの最上位ラインナップとして、待望の開放型DT 1990 Proが発売された。先に発売され、本誌2016年1月号で紹介した密閉型DT 1770 Proと比較して、どのように仕上がっているのか詳しくレポートしていこう。

金属メッシュで環境音を低減
パッドとケーブルの交換用パーツを付属

スタジオ作業で長年実績のあるDTシリーズ。ミキシング、マスタリング用に設計された開放型DT 990の上位機種として登場したのがこのDT 1990 Proである。もちろん最新技術である45mm径テスラ・ドライバー(テスラ2.0)を乗せた次世代フラッグシップだ。

ドイツ国内でのハンドメイドとなる本機は、DT 990と比較するとほぼすべてが一新されており、随所において高級感あふれる仕上がりだ。ヘッド・バンドはスプリング・スチールを採用し、アームは12段階で調節可能。重さは370g、側圧は6.6Nで、7.2NのDT 1770 Proよりもやや低めだが、イア・パッドがしっかりと耳を覆ってくれ安定感がある。アームにも水平方向に適度な遊びがあるので、均等に圧力が分散し装着感がかなり良い。ケーブルは5mコイルと3mストレートの2本が付属し、ハウジングが金属製なので交換時も安心感がある。そのほか、基本デザインはDT 1770 Proと共通のようだが、側面のロゴなど細部には多少の違いが見受けられた。

DT 1770 Proと大きく違うのはハウジングのカップ部分で、開放スリットから見える金属メッシュが印象的だ。開放型の割には外部からの音はあまり気にならず、生活音の避けられない部屋でも作業に集中することができる。環境音の高域をこの金属メッシュが適度に防いでいるようだ。外部への音漏れの方も音量の割には少なく感じる。また専用キャリング・ケースの形状にも違いがあり、一目でDT 1990 Proと認識できる。この辺りの配慮は長年第一線で現場の意見を汲み取ってきた同社ならではものだろう。

よりワイドレンジに進化したサウンド
交換用イア・パッドは実用的な音質差

まず普段使っているオーディオI/Oのヘッドフォン端子で音質をチェックしてみると、とにかくワイド・レンジ。250Ωながらも本機はしっかりとドライブでき、音像も大きい。開放型ならではの奥行き、残響の広がり、どれを取っても筆者所有のDT 770 Mとはケタ違いだ。低域はたっぷりとしているが、その低域が高域を邪魔するような鳴り方をしないというBEYERDYNAMICサウンドがさらに進化した印象。高域は6〜9kHz辺りがやや強調され歌やギターがクリアに出る。タイトな音源では音像が目の前に来るし、トラックごとの表情もしっかりと聴きとれる。それでいて古い音源はちゃんとナロー・レンジに聴こえ、ドライ・サウンドではコンプのかかり方がよく見える。DT 1770 Proでも同条件でここまで鳴らせなかったので、本機ではドライバーの味付けが違うのかもしれない。

次に業務用DATのヘッドフォン端子ではさらに低域がしっかりするが、レンジの広さなどでDT 1770 Proほどの音質差は出なかった。APPLE iPodやスマートフォンではさすがに鳴らし切れず音像が小さくなってしまう。タブレット端末でも高域が伸びないが、感度は102dBなので音量は十分に上がりなかなか楽しめる音像だ。

以上のように本機はオーディオI/Oのヘッドフォン端子でも十分に鳴らせるが、テスラ・ドライバーの特徴としてやや高域がシャープでワイルドな傾向はあるので、より高性能なヘッドフォン・アンプを用意すると音質的な相性はさらに良いと思う。

最後にイア・パッドの違いによる音質差をチェックした(写真①)。装着済みのバランスドには20個の穴があり、音像が大きくて一つ一つの音に集中できる。低域は豊かながら、もたつくことは無く解像度は高い。トラック制作〜ミックスの音作りに向く音質だと思う。一方交換用のアナリティカルは12個と穴の数が少ない。比較すると中低域がすっきりして高域がよりクリアになり、粒がそろって聴こえる。それでいてローエンドは伸びており、一般的なマスタリング〜リスニング向けにデザインされたヘッドフォンの特性に変化するように思う。こちらは長時間の試聴でも耳が疲れない音質で、アルバム全曲をチェックするような作業にいいだろう。装着感や手触りは同じパッドのように見えるが、音質的には単に低域が違うという表現では済まない全域における変化だ。穴の数だけでなくパッドの中身にも違いがあるのかもしれない。

▲写真① イア・パッドの裏側。左のダーク・グレーのパッドが最初から装着されているバランスド。右のライト・グレーのものが付属するアナティカル ▲写真① イア・パッドの裏側。左のダーク・グレーのパッドが最初から装着されているバランスド。右のライト・グレーのものが付属するアナティカル

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今回DT 1990 Proをチェックしてあらためて感じたのは昨今の最上位機種の次元の高さである。間違いなく価格差以上の進化が味わえるので、まずはワイド・レンジな次世代機のサウンドを試聴してみていただきたい。

サウンド&レコーディング・マガジン 2017年1月号より)

BEYERDYNAMIC
DT 1990 Pro
オープン・プライス(市場予想価格:72,000円前後)
▪形式:ダイナミック、開放型 ▪周波数特性:5Hz〜40kHz ▪感度:102dB(1mW/500Hz) ▪最大SPL:125dB (200mW/500Hz) ▪インピーダンス:250Ω ▪ひずみ率:0.05%以下(1mW/500Hz) ▪許容入力:200mW ▪ヘッド・バンド側圧:約6.6N ▪重量:370g(ケーブル含まず) ▪付属品:コイル・ケーブル(5m)、ストレート・ケーブル(3m)、ベロア製アナティカル・イア・パッド、キャリング・ケース