
装着感の良いイア・パッドと
ユニークな構造のドライバー・ユニット
まずは外見から見ていきましょう。どちらもMT7の流れを汲むデザインで、業務用としての信頼感があります。MT8は黒色のみで、MT5は黒色と白色の2種類があります。ケーブルは着脱式で、MT8には3mのストレート・ケーブルと1.2mのコイル・ケーブルの2種類が、MT5には3mのストレート・ケーブルのみ付属。プラグはどれもステレオ・ミニで、付属しているアダプターでステレオ・フォーンへ変換できます。重量を比べてみるとMT8は350g、MT5は245gで100g近くの大きな違いがあります。MT8は音質を最優先に考え、また高級感も考慮した重厚な作り。一方、MT5は楽器演奏の際などの動きのある使用状況でも気にならない軽量さを重視し、長時間使用での疲労軽減を考えた作りになっていると思われます。どちらのモデルもヘッド・バンドを短くすると、片耳使用の場合に、外した側のドライバー部分が耳の上に乗って持て余すことが無いため、手を離してもズレず、落ちることを気にするストレスが無く快適に使用できます。イア・パッドも多少素材が違うようで、MT8の方がしっとりとした高級感ある肌触り。それと比べるとMT5はほんの少し硬さのある素材が使われていますが、どちらも良い形状で、すき間なく耳を覆って気持ち良くフィットしてくれました。
使用ドライバーはどちらも一般的なダイナミック型で、MT8は45mm径でインピーダンスが37Ω、再生周波数が15Hz〜28kHz。MT5が40mm径で51Ω、20Hz〜20kHzとなっています。ドライバー・ユニット周りは、非常にユニークな構造。普通はドライバー・ユニットが取り付けられているケースは密閉されていて、ドライバー・ユニットの背面の音はケース内の吸音材で処理されるのですが、このMTシリーズはスピーカーでいうところのバスレフ構造のように、ドライバー・ユニットの背面の音も耳側に導かれています。背面の音は全くの逆相なので、そのまま表の音と混ざればキャンセルされてしまう音域が出てくるはずですが、音の導き方、導く場所がうまく考えられているのか、不自然な感じはしませんでした。
ヘッドフォンは、アンプの影響を受けやすいモデルと受けにくいモデルがありますが、この2機種はアンプの影響を受けにくいタイプで、数種類のアンプで聴き比べを行いましたが、あまり大きな違いはありませんでした。効率もSONY MDR-CD900ST(最大入力1,000mW、感度106dB SPL/mW)、SHURE SRH840(最大入力1,000mW、感度102dB SPL/mW)などの高効率モデルたちと比べると、MT8が102dB SPL/mWで、MT5が100dB SPL/mWと少し感度は落ちますが、最大入力が1,600mWと、かなり大きいため突発的な大音量でも問題ありませんし、壊れにくいので、音量が必要なSR現場でも遮音性の良いイア・パッドと相まって使いやすいと思います。
細部の確認に向いているMT8と
演奏時のモニタリングに適したMT5
では音質を聴いてみましょう。周波数特性が5Hz〜25kHzぐらいというのが、最近のヘッドフォンの標準的特性ですが、この2機種はMT8が15Hz〜28kHz、MT5が20Hz〜20kHzと数字的には達していません。しかし実際にはそれ以上のレンジ感があります。MT8は最低周波数が15Hzと、MT5の20Hzとたった5Hzの違いですが、数値以上に低域が豊かに鳴っていて、高域は28kHzまでと伸びているので、低域の音の長さや、高域のスピード感を感知したり、スピーカーでは聴こえない部分のチェックに向いた音がします。MT5は欲張ったワイドレンジではなく、低域から高域までフラットな特性で、演奏するときのモニタリングに向いた音質になっています。個人的な感想ですが、MT5はレコーディング作業でのプレイ・モニターやミックス作業においてYAMAHA NS-10Mのようなレンジ感でバランスを取るのに使用し、MT8は低域から高域まで奇麗に伸びているので、スピーカーでは聴き取れない細部を確認するという使い方がよいでしょう。ただMT8はきらびやかな高域の音をしているので、MT8に合わせてミックスを作ってしまうと、普通のイヤホンでは高域のプレゼンスが足りない音になってしまうかもしれません。リファレンスを聴き込んで、その特徴をつかめば細かい作り込みができるので、非常に有効なモニター・ヘッドフォンだと思います。


(サウンド&レコーディング・マガジン 2017年1月号より)