「DBX DriveRack Venu360」製品レビュー:多彩な機能を備えるPA用スピーカー・プロセッサーの最新版

DBXDriveRack Venu360
信頼できる製品をリーズナブルな価格で提供してきたDBXより、スピーカー・プロセッサーのDriveRack Venu360が発売されました。入出力は3イン/6アウトで、アナログ・イン/アウトのほかAES/EBUのデジタル・インを装備。内部ルーティング/ミキシング機能によって、会場の大小を問わずにフレキシブルなセッティングを実現します。また、Wi-Fiルーターを使用すれば、専用のコントール・ソフトVenu360 Control App(無償)をインストールしたAndroid/iOSデバイスもしくはMac/Windowsマシンにてリモート・コントロールが可能。まさに優れものですね。

部屋の音響特性に合わせて
用途に応じた特性を作るオートEQ

今回はフル・レンジ+サブローのスピーカー・システムでチェックしました。接続したのはコンソールとパワー・アンプの間。まずはウィザード機能を使い、本体の液晶画面の案内に従って設定を進めます。“System Setup Wizard”というメニューにスピーカーやアンプのモデルがリスト・アップされるので、使用中のものを選択すればクロスオーバーやEQ、ディレイなどが自動的にチューニングされます。この辺りは慣れ親しんだ従来品と同じ要領で、迷うことはありません。もし自分の使っているモデルが無ければ、Venu360 Control Appでリストが更新されていないか確かめてみましょう。

次にオートEQ機能をチェック。これは部屋の環境に合わせたイコライジングが自動的に行えるもので、オプション品の測定用マイクDBX RTA-M(16,000円)を本体につないで使用します。このRTA-Mを接続して測定を開始すると、各スピーカーから“ピュッ、ピュッ”という音量チェック用のシグナルが聴こえてきました。しかし画面上に“サブローのアンプを8dB上げるように”との指示が出たので、出力が低いようです。そこでアンプのアッテネーターを上げて測定を再開。今度は適正な音量のようで、周波数特性を測るための正弦波スウィープが“ピュ〜”と流れました。調整された後の出音をチェックしてみると、ローからハイにかけて少しずつ減衰していく理想的なカーブを描いています。

このオートEQでは、イコライジング後の音をどのような周波数特性にしたいかによって、幾つかのモードを選べます。今回は、ローを持ち上げることで聴感上バランスの良い音にする“RECOMMENDED PA CURVE”を選択したのですが、モニター用途なら“FLAT”を選択した方が良いでしょう。そのほか、反射が多い部屋のための“REFLECTIVE ROOM”というモードも用意されています。これはハイを抑える設定ですね。オートEQの各モードは、パラメーターを見てみるとパラメトリックEQとクロスオーバーで複雑な処理がなされています。マニュアルだと時間がかかる調整をほんの数分でやってのけるとは大したものです。テストに使ったスピーカー・システムはローエンドが少し弱い構成なのですが、サブハーモニック・シンセサイザーで見事に補正されていました。

卓からの信号とスピーカーの出音を
切り替えて監視できるアプリのスペアナ

続いては、進化したAFS(ハウリング・サプレッサー)を使ってみましょう。この機能には3つのモードがあり、SPEECH、SPEECH/MUSIC、MUSICから任意のものを選択可能です。今回はMUSICモードを使って、AFSの動作が音楽ソースに与える影響を検証してみます。手始めに、ダイナミック・マイクのゲインを必要以上に上げてハウリングを起こしてみると、すぐにAFSが動作しカットされました。次にCDを再生したところ、変化は感じられるものの、音質への影響は最小限に抑えられている印象。これはQ=116のノッチ・フィルターを使用し、ピンポイントでハウリングをカットしているからだと思われます(ちなみにSPEECHはQ=7、SPEECH/MUSICはQ=29です)。固定フィルターと、ハウリング・ポイントをリアルタイムに検出するライブ・フィルターの両方で、的確にハウリングを防止してくれます。

そのほか従来品から受け継がれたダイナミクスやディレイなどの機能は、スピーカー・プロセッサーとしての役割を網羅しており申し分無い性能です。ハードウェア的な面では液晶が大きく、見やすくなりました。各種パラメーターの設定をコピー&ペーストできる“COPY”“PASTE”のボタンもうれしいです。一方で、各パラメーターへアクセスするためのボタンは画面内に移ったので、見た目はスッキリしています。

ここからはAPPLE iPadにVenu360 Control Appを入れて、リモート・コントロールを試してみましょう。背面のイーサーネット端子にWiFiルーターを接続するとD
HCPサーバーから自動的にIPアドレスを割り当てられるので、難しい設定は必要ありません。アプリの画面はカラフルで見やすく、直感的に操作できます(画面①)。FOHに本体を置けないときも、このアプリがあれば外音をモニタリングしながらの調整が可能ですね。

▲画面① APPLE iPad版のVenu360 Control App。画面ではオートEQが表示されている。カラフルで視認性の高いGUIが特徴 ▲画面① APPLE iPad版のVenu360 Control App。画面ではオートEQが表示されている。カラフルで視認性の高いGUIが特徴

このアプリにおいて、僕が一番うれしかった機能はリアルタイム・スペクトラム・アナライザーです。ライン・インとRTA-Mのマイク・インを切り替えて解析&表示できるので、卓から入力された信号とスピーカーの出音を簡単に比較することが可能。またシグナル・ジェネレーターが搭載されているので、1人でもスピーカー・チェックを行えます。さらにアプリ内にDriveRack Venu360のバックアップ・ファイルを保存できるので、万が一本体側のデータが消えてもリカバーできるのは安心ですね。

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現場のニーズに応え、的確に市場へ送り出されたDriveRack Venu360。本機が次のスタンダードになることは、想像にかたくありません。

▲リア・パネルには左から、Wi-Fiルーターなどを接続するためのイーサーネット端子、ファームウェア・アップデート用のUSB端子、アナログ・アウト×6(XLR)、グラウンド・リフト・スイッチ、アナログ/AES/EBUイン、アナログ・イン(切り替え)×2(共にXLR)が並ぶ ▲リア・パネルには左から、Wi-Fiルーターなどを接続するためのイーサーネット端子、ファームウェア・アップデート用のUSB端子、アナログ・アウト×6(XLR)、グラウンド・リフト・スイッチ、アナログ/AES/EBUイン、アナログ・イン(切り替え)×2(共にXLR)が並ぶ

サウンド&レコーディング・マガジン 2016年9月号より)

DBX
DriveRack Venu360
160,000円
▪入出力数:3イン/6アウト(入力はアナログとAES/EBUに対応) ▪AD/DA:24ビット/48/96kHz ▪内部処理:32ビット・フローティング・ポイント ▪周波数特性:20Hz〜20kHz(±0.5dB) ▪全高調波ひずみ率:0.0025%(+4dBu、1kHz、0dBゲイン) ▪ダイナミック・レンジ:110dB(ウェイト無し) ▪外形寸法:483(W)×44(H)×199(D)mm(除突起部) ▪重量:2.6kg