
Pro Tools|HDX/SoundGridにも対応
最大32イン/32アウトを実現
前世代のSymphony I/Oが発表されたのは5年ほど前でしょうか。短いスパンでのアップデートだなと思いつつも、それだけデジタル・オーディオ分野の進歩が速いということなのでしょう。本機は昨今のさまざまな制作スタイルに合わせ非常にフレキシブルな仕様となっております。コンピューターとの接続は3種類。Thunderbolt、AVID Pro Tools|HDX/HDのDigiLink端子、WAVES SoundGrid(2016年秋発売予定)が用意されています。それぞれの接続端子を持ったシャーシに、2基までの入出力モジュールを組み合わせて構成します。
用意された入出力モジュールは4種類あります。
●2×6
ミニマムなシステム用のモジュールです。名前の通りアナログ2イン/6アウト+デジタル入出力という仕様で多チャンネルを同時に録らないプライベート・スタジオやサラウンドを再生したい方にうってつけですね。デジタル入出力もAES/EBU、オプティカル(S/P DIFまたはADAT:S/MUX対応)、S/P DIFコアキシャルと一通りそろっています
● 8×8 MKII
一番ベーシックなモジュールでしょうか。8chずつのアナログ+デジタル入出力があります。最初の一台はこれにしておきたいですね。
● 16×16 MKII
アナログ16イン/16アウト・モデル。生ドラム収録やバンド録音など、とりあえずチャンネル数が欲しいスタジオやエンジニア向けのモジュールです。Symphony I/O MKIIは1つのシャーシに2モジュール搭載可能なので、このモジュールを2枚マウントすれば1台で32chアナログ入出力に対応できます。
●8 Channel Mic Preamp(8MP)
文字通りマイク・プリアンプ・モジュールです。アナログ入力端子がマイク対応となります。さらに4chのハイインピーダンス入力、8ch分のインサート回路も装備。インサート端子にアウトボードをつなぎ、内部でアサインすれば、パッチ・ベイのように使えるのは便利です。
スマートフォン感覚のタッチ・パネルで操作
高度なモニター・セクションも用意
次に注目したいのは、フロントに配された大きなタッチ・パネル・ディスプレイです。操作はアイコンをタップし、スワイプで変更確認したいページに飛び、変更個所をタッチ。大きなコントロール・ノブで調整するというスタイルです。スマートフォンをいじっているような感覚で使えます。
デモ機が届いて、コントロール・ソフトのMaestro 2をインストールし、接続。説明書を読まずともほとんどの機能をテストできました。操作も大変分かりやすく、メーターなどの視認性も良くなりました。見た目もかっこいいです(大事ですね)。もちろん本体で操作できることはMaestro 2でもコントロール可能です。
HOMEページでは各チャンネルのイン/アウトのメーター、クロック・ソース、サンプリング周波数の確認ができます。ここから右にスワイプするとMONITORページ(画面①)。ヘッドフォン・アウトは音量とミュートに加えDim、Monoにも対応しています。先代Symphony I/Oでは2つあったヘッドフォン・アウトが1つになってしまったのは残念ですが、ヘッドフォンに合わせてインピーダンスを自動で最適化する機能があり、音質には並々ならぬこだわりがありそうです。

このMONITORページの右側のXLRアイコン。ここです! こここそ今回一番びっくりしたポイントでもあります。Output FormatからStereo/2 Spreker Sets/3 Spreker Sets/5.1のいずれかを選べば、モニター・コントローラーに早変わり。スピーカーの切り替え、音量、ミュート、Dim、Monoなど一通り調整できます。“Symphony I/O MKIIは良さそうだけど高いなー”と思っているクリエイターの方、高音質モニター・コントローラーを含めてなら十分検討の余地があるのではないでしょうか?
話を戻して、INPUT LEVELページは各チャンネルごとに基準レベルの切り替え(+4dBu/−10dBV)やデジタル・リファレンス・レベルの設定(2dB単位)、Soft Limitのオン/オフが行えます。さらに0.1単位のトリム調整が可能と、至れり尽くせりですね。マイク・プリアンプ・モジュールを搭載していれば、ファンタム電源やハイパス・フィルターのオン/オフ、位相反転、インサート回路の使用などが設定できます。マイクプリのゲイン設定が1dB単位で行えるのもポイントです。OUTPUT LEVELページも同じで、リファレンス・レベルの設定などが各チャンネル単位で細かく行える仕様になっています。
そのほか、DIGITAL I/Oページは各デジタル端子のフォーマットの設定などが行えます。SETTINGSのページでは内部温度やファンの状態、メーター照度やレベル・オーバー表示設定などの設定が可能です。
透明感があって音楽的
サラッと奇麗な最新APOGEEサウンド
今回はThunderbolt接続の8×8 MKII+8MPという構成でお借りしました。まずは以前録音とミックスを担当したジャズ楽曲のPro Toolsセッションを開いて、D/Aのチェック。スティックがライド・シンバルに当たる様子、部屋の広さ、奥行きの表現が今まで以上に素晴らしです。まずハイの奇麗さに耳が向きました。粒が細かいというより、粒を感じない滑らかさ。昔からAPOGEEは中高域の明りょうさに定評がありましたが、さらに磨きがかかった印象です。Rosetta以前の“明るく元気”なイメージよりも、先代Symphony I/Oからの“サラっと奇麗”な出音で、まさにMKII。サラっとハイファイな傾向です。小さい音量でもリバーブのディテールが容易に把握できました。元のミックスをした環境と比較するとベースの中低域が凹んで聴こえましたが、Symphony I/O MKIIでミックスすれば問題にならないと思われます。超低域まで素直に伸び、“フラット”と言えるでしょう。
また、ヘッドフォン・アウトは中低域に押し出し感があり、量感を確認するには十分過ぎる音質でした。単体ヘッドフォン・アンプ・クラスのクオリティです。
次にA/Dセクションをアコースティック・ギターとボーカルでチェックしてみました。まずは普段通りのセッティングで、いつものA/Dで録音してみると、いつもの音です。そこでSymphony I/O MKIIに切り替えたところ、より透明感が増しました。D/Aと同じくハイが奇麗でみずみずしく、決して痛くなりません。ピッキングや口の開く様子など、“演奏のニュアンス”をキャプチャーするのに優れているように思います。数字やスペックではない部分で、APOGEEらしい音色が非常に音楽的であることが選ばれる要因の一つなのだと思います。個人的にD/A部よりもA/D部に進化が感じられ、このA/Dだけ単体として発売してほしいな、と思いました。非常に優秀です。
マイク・プリアンプ・モジュールの音質もチェック。APOGEEのマイクプリは初めて使用しましたが、勝手なイメージでギラッとハイ上がりなのかなと思っていました。ですがもうちょっと下寄り、中域にエネルギーが集まる傾向です。価格相応のクオリティだなと感じました。
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本機はまさに業界をけん引するブランドのフラッグシップと言える音質です。先代のユーザーであれば、まず間違いなく気に入るはず。操作性や視認性の向上などより、ユーザー・フレンドリーにもなりました。タッチ・パネルが便利なので、ラック・マウントせずに手元に置いておきたいです。プライペート・スタジオ用にデスクトップ・モデルがあってもいいかもしれませんね。決して安くない(いや、高価な)製品ですが、音質だけでなくそれ相応の機能が搭載されたマシンです。エンジニアだけでなくクリエイターにも触っていただきたい一台だなと思いました。



(サウンド&レコーディング・マガジン 2016年7月号より)