「UVI Orchestral Suite」製品レビュー:60種類以上のクラシック楽器を収録した総合オーケストラ音源

UVIOrchestral Suite
Falconをはじめ、さまざまなクオリティの高いソフト・シンセを開発しているUVIから、総合オーケストラ・ライブラリーOrchestral Suiteがリリースされた。同社初のオーケストラ専用音源としてどのような仕上がりになっているかを探っていきたいと思う。

インターフェースは必要なものを厳選
パイプ・オルガンの音色も充実

Orchestral Suiteには、通常のクラシカルな編成のオーケストラで使う楽器はすべて収録されている。ストリングス、ブラス、ウッドウィンド、パーカッション以外にも、ハープやクラシック・ギター、オルガン、クワイアまで60を超える楽器が収録されており、バラエティ豊か。管弦楽器はセクション/ソロでしっかりとパッチが分けられている。主要な楽器には、ベロシティでダイナミクスが変わるパッチ(Vel)と、モジュレーション・ホイール(CC1)でダイナミクスを操作するパッチ(Wheel)の2つを用意。キー・スイッチも豊富で、弦楽器にはSustain、Spicato、Pizzicatoはもちろん、駆け上がり/駆け下がりなどのパッチもあり、さまざまなニュアンスを出したい場合に便利だ。

この音源の動作エンジンは同社のUVI Workstation(V2.5.10以降:無償でダウンロード可能)となり、スタンドアローンのほか、VST、Audio Units、AAXプラグインとして動作する。早速立ち上げてみると、“必要なものを厳選して並べた”という趣のインターフェースだ。ストリングスを例に挙げると、レガートやポルタメントを調整する“Performance”、ダイナミクスのカーブを扱う“Expression”のほかに“Envelope”“Equalizer”“Reverb”が並んでいる。ほかの楽器の場合は各楽器の演奏特性によってPerformanceタブが最適化されている(例えば打楽器の場合は“Doubling”タブになっている)。パイプ・オルガンなどは楽器のストップのバリエーションが使えるようになっており、いろいろな音色を出せる。ペダルのストップまで用意されていたのには驚いた。パイプ・オルガン専門の音源は少ないため、これは地味にうれしいものだった。

反応の良いダイナミクス・カーブと
まとまりのあるサウンド

Orchestral Suiteを実際に楽曲の中で使ってみて感じたのは、“軽さ”と“反応の良さ”。モジュレーション・ホイールなどでダイナミクスを操作する際のレスポンスが、自分が思った通りに動いてくれるので、少しの練習でイメージ通りの演奏ができるようになった。MIDI鍵盤で弾いたときのレイテンシーも少なく、オーケストラ音源にありがちな、“リアルタイム・レコーディングをした後、クオンタイズでガッツリとリズム回りを整えなくてはならない”という事態にはならないだろう。パッチを読み込んだ際はデフォルトでリバーブがかかっているが、元はかなりドライなサンプルなので、ストリングス/パーカッションなどは、大きめのオーケストラ編成以外の楽曲でも使えそうなのがうれしい(画面①)。サウンドはとてもまとまりがよく、いつものようにフルオーケストラ編成のテンプレートを作ってそのまま楽曲を制作していくだけで、EQで補正せずともなかなかバランスの良い音像に仕上がった。やはり、この音源のみで制作した際の“サウンドのまとまり感”などもしっかり考えられているように感じる。

▲画面① 内蔵のReverbはとても扱いやすくシンプルなもので、Cathedral、Large hall、Chapel、Concert Hall、Small Venueの5種類からサイズとタイプを選択。サンプルにうまく奥行きを付加してスムーズになじませてくれるが、オフにするとアタックの質感が生々しく距離もかなり近いドライ音が得られる ▲画面① 内蔵のReverbはとても扱いやすくシンプルなもので、Cathedral、Large hall、Chapel、Concert Hall、Small Venueの5種類からサイズとタイプを選択。サンプルにうまく奥行きを付加してスムーズになじませてくれるが、オフにするとアタックの質感が生々しく距離もかなり近いドライ音が得られる

生録音前のモックアップ作りに最適
オーケストラ打ち込みの入門にも向く

サウンド的には、良い意味での“デフォルメ感”がある。なので、よりリアルなオーケストラ音源にありがちな、“このソフトの得意なことだけをやらせたくなる”ということは全く無く、クリエイティビティを損なわずに生レコーディングのシミュレーションにも役立ってくれそうだ。容量の大きなソフト音源は、詰めればとても素晴らしいサウンドになるのだが、それには多くの時間がかかるため、1つのフレーズのアーティキュレーションやダイナミクスを詰めているうちに、アイディアが飛んでいってしまうということもよくある。その点Orchestral Suiteは、いま頭にあるイメージを素早く形にできる音源として活躍してくれるだろう。

UVI Workstationは動作も軽く、CPUパワーをあまり必要としないので、ラップトップ・コンピューターでも作業がやりやすそうだ。すべてのパッチの読み込みを試してみたが、とても速い。これだけの楽器数が入っていて全容量はたったの4.6GBなので、ハード・ドライブ容量にも優しい。その意味でOrchestral Suiteは、これからオーケストラの打ち込みを始めようと思っている方にもお薦めできる。オーケストラで使う楽器は網羅しているし、アーティキュレーションも豊富なので、各楽器にはどんな奏法があり、どんな歌い回しができるかなど、管弦楽法を学ぶ際のリファレンスにもなってくれるだろう。

製品サイト:http://www.uvi.net/jp/orchestral-composer/orchestral-suite.html

サウンド&レコーディング・マガジン 2016年7月号より)

UVI
Orchestral Suite
22,500円
REQUIREMENTS▪Mac:OS X 10.7以降(10.11対応) ▪Windows:Windows 7以降(10対応) ▪共通項目:UVI Workstation V2.5.10以降、7,200回転仕様のHDDまたはSDD、4GB以上のRAM(8GB以上を推奨)