
シンセシスには物理モデリングも搭載
サンプル用にIRCAMのストレッチを実装
大きく3つに分かれたウィンドウは、中央が音色をエディットするスペース。左側に音色ごとのパートをラック式に表示したり、音色の構造をツリー形式で表示します。右側はエフェクト、オシレーターなどのモジュール群やコンピューター内のファイルにアクセスするためのブラウザー。標準装備のプリセットや所有しているUVIライブラリーもこちらに表示されます。
音の要となる15種のオシレーターは、大きく分けてシンセシスとサンプリングがあります。シンセシスはANALOG、FM、NOISE、ORGAN、WAVETABLEといった基本的な音源方式を網羅しているのはもちろん、PLUCKという弦振動を物理モデリングしたオシレーターも用意。これはEDMのプラック音などにも使いがいのあるものだと思いました。またANALOGには8本のオシレーターをスタックしたものもあり、強力で分厚いサウンドを容易に構築できます。
サンプリングはその名の通り、オーディオ・ファイルをシンセサイズするためのオシレーターです。読み込んだ波形のスライス、ストレッチだけでなく、IRCAMによるかなり高品位なストレッチ、グラニュラー、スクラブを搭載しています。特にIRCAMストレッチとグラニュラーは原音を損なうことなく大幅に伸縮したり、反対に元音からは想像もつかないような有機的で複雑なパッド音などを生成する大きな助けになると思いました。また、オシレーター部のTrigger ModeでCycle(またはRandom)を指定し、打鍵ごとに違うオシレーターを再生することも可能。画一的な演奏になりがちなコード・バッキングなどでも、音色自体に断続的な変化(=独特の味)を加えることができる大変優れた機能だと思います。
高域も低域も太く奇麗に出る音
エフェクト80種と膨大なプリセットも用意
Falconはあらゆるノブにモジュレーションを加えることができます。モジュレーターは基本的なADSRなどのエンベロープ系、シーケンサーとしても使えるステップ・エンベロープ、基本的なカーブを網羅しつつユーザー書き込みにも対応するLFOなど。特に面白かったのは、無限にポイントを加えて自由にカーブを設定できるマルチエンベロープです(画面①)。カーブのプリセットも多数用意されていて、簡単に複雑なモジュレーションを構築できます。またこれらはブラウザーからのドラッグや、設定したいノブの右クリックで簡単にアサイン可能です。

気になる出音ですが、レスポンスも良く、強烈なフィルターやエンベロープをかけてもどこか無理が無い印象があります。高域だけでなく低域も太く奇麗に出てくる、これまでに無い不思議な感覚です。そしてこの出音の縁の下に80種類もの強力なエフェクト群の存在があります。特に面白いのは、同社Sparkverbのアルゴリズムをそのまま移植したリバーブ(画面②)。そのほかパンニングとフェイズ・シフトを同時に行えるDUAL DELAY、ローファイ処理のREDUX、レコード・ノイズを回転数や年代までシミュレートして加えるUVINYLなどもあります。

プリセットも、現在のVer 1.1で新たに100種類追加され、十分に楽しめる内容になっています。往年のサウンドを模したものも見受けられますが、過去を踏襲するより今でも十分に戦力になるサウンドが厳選されていることに好感が持てます。中には同じフランスのバンド、ジャスティスへのオマージュなのか、“Justice Bass”というそれっぽくひずんだベース・サウンドなど、ユーモアすら感じさせる余裕のプリセットもあります。
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右クリックを起点にあらゆるセクションを思うがままに設定できるので、初心者には少し複雑に見えるかもしれません。キャンバスが広大過ぎるのです。しかし単純にカッコいいという理由でプリセットを使っていれば、だんだん仕組みが分かってくる設計になっているのも事実です。早くから使って慣れ親しんでおけば、独自の音色を構築したいという欲求が出てきたとき、力強く羽ばたいてくれるシンセであることは間違いありません。触れ込みの通り、とてもクリエイティブなシンセだと思いました。
製品サイト:http://www.uvi.net/jp/software/falcon.html
(サウンド&レコーディング・マガジン 2016年6月号より)