
高解像度のRGBディスプレイを搭載
本体だけでサンプルのチョップも可能
Push 2を見てまず目につく大きな変化は、ディスプレイが高解像度のRGBカラー表示になり、ボタンやエンコーダーの配置がより操作しやすいように変更されている点。初代のPush 1はAKAI PROFESSIONALが製造していましたが、Push 2はABLETON製となり、本体の仕上げやボタンの押した感触に高級感があります。なお対応するLiveのバージョンは9.5以降となります。
まずは、その高解像度RGBディスプレイから。Push 1のディスプレイは英文字テキスト程度しか表示することができませんでした。そのため、エンコーダーでLiveのデバイスやミキサーをコントロールするには値の位置が把握しづらかったのも事実。Push 2ではこのディスプレイが高解像度となり、Liveの操作に必要十分な情報がグラフィカルに表示されるようになりました。Push 1は単体でLiveを操作するにはツラい部分もありましたが、Push 2は実に快適。デバイスの順番の入れ替えなどさまざまな操作ができるようになっています。
さらにこのディスプレイにはオーディオ・クリップなどの波形も表示可能。Live 9.5で新しくなった付属のソフト・サンプラー“Simpler”がサンプル・スライス機能を搭載したので、Push 2のディスプレイで波形を見ながらサンプルをチョップすることも可能です(写真①)。

Push 1が苦手としていた部分も改善されています。特にデバイスやミキサーのコントロール性は大幅に向上しており、Push 2ではディスプレイとその周囲のボタンを組み合わせることで、スタンドアローンのLiveを操作しているかのような操作感が得られます。筆者的には、“Mix”ボタンを押すとレベル・メーターが表示されるのがうれしいポイントでした。また、現在選択しているLiveのトラックの色がPush 2のパッドやディスプレイ上下にあるボタンに反映されるようになり、自分が今どこを操作しているのか直感的に把握できるようになりました。
明るさを調整できるようになったパッド
打感も柔らかくなりグリッサンドも可能
Push 2を演奏する上で重要なパッドについても触れていきましょう。正直な話、Push 1のパッドは発光が明る過ぎる上に暗くすることもできず、クラブなどで使うには不向きでした。それがPush 2では“Setup”ボタンで明るさを調節できるのです。パッドのたたき心地はちょっと硬めだったPush 1に比べると若干柔らかくなって弱い力でも押しやすくなり、パッドでグリッサンドもできるようになりました。またパッドの周囲に配置されたボタンも改良されており、以前よりもボタンの高さが抑えられ、クリック感のある押しやすいものになっています。
そのPush 2がコントロールするLive 9.5の新機能を簡単に挙げておきましょう。Simpler以外のAuto Filter、Operatorなどに搭載されているフィルターがアナログ・モデリングされて最大5タイプまでキャラクターを選べるようになり、“Drive”でひずませたりレゾナンスを上げれば自己発振も可能になりました。音質も向上し、以前のような線の細さが無くなったように感じます。
また次期アップデートによりワイアレス・ネットワーク経由でほかのLiveや対応iOSアプリを同期して再生する“Link”機能が搭載されます(執筆時はベータ版にのみ搭載)。筆者も既にこのLinkを活用していますが、セッションなどに使えるとても楽しい機能で、人と人をつなぐ優れたテクノロジーだと思います。
Push 2はやや高価であることは否めません。が、Push 1を下取りに出すとPush 2が30%オフで購入できるトレードイン・プログラムが5月1日まで実施されています。下取りされたPush 1は再整備され、Liveのライセンスとともに若者向けの音楽教室に寄付されるとのこと。こうしたドイツ企業ならではのエコシステムは面白いですね。
今回Push 2をテストして印象に残ったのは、コンピューターに触れたりディスプレイを見なくても操作できるよう進化した操作性。これからのコントローラーは、ユーザーにコンピューターの存在を意識させない流れになりそうなことを予感させる使い心地でした。

(サウンド&レコーディング・マガジン 2016年4月号より)